リグナ
エルナが、こちらへ歩いてくる。
もう振り子を避ける必要はない。
そう思っていた。
「最後の動き、よかったわよ」
エルナがレオを見る。
「見てた?」
「ちゃんとね」
レオが嬉しそうに笑う。
その横で、シオンは振り子を見た。
ほとんどが止まっている。
けれど、一つだけ。
「……あれ」
ミレイアが《偏向》した振り子だった。
わずかに揺れている。
斜めに。
さっきまでよりも、少しずつ大きく。
エルナはその先を歩いている。
「エルナ!」
エルナが振り向く。
振り子が迫る。
ロディスが走った。
右肩から腕へ、三重の弧が浮かぶ。
「《減衰》!」
振り子の勢いが落ちる。
「ミレイア!」
「《偏向》!」
左手首に祝紋が浮かぶ。
《減衰》された振り子が、ミレイアの《偏向》で外側へ逸れていく。
振り子が大きく斜めへ振れた。
上で、縄と支えが強く引かれる。
エルナが後ろへ下がった。
「大丈夫?」
「ええ」
シオンは上を見ていた。
振り子を支えている二つの場所。
比べる。
細い線が浮かんだ。
傾く。
片方の方が大きい。
今、受けている力が違う。
「待って――」
金属の擦れる音がした。
上の留め具がずれる。
「全員、離れろ!」
ロディスが叫ぶ。
次の瞬間。
片側の支えが外れた。
振り子が傾く。
残った縄を中心に、大きく横へ振れた。
別の振り子へぶつかる。
鈍い音が響いた。
押された振り子が、さらに隣へぶつかった。
「下がれ!」
振り子が次々と動き始める。
「右!」
シオンが叫ぶ。
ノアが振り子へ手を伸ばす。
「《固定》!」
一本が止まった。
その横から別の振り子が迫る。
「ミレイア!」
「《偏向》!」
進む方向が変わり、四人から外れた。
「入口へ戻れ!」
ロディスが先に立つ。
シオンたちは入口へ走った。
その時。
さっきの衝突で弾かれた別の振り子が、大きく斜めに振れていた。
入口側の壁へ向かっている。
「止まれ!」
ロディスの声に、全員が足を止めた。
直後。
振り子が壁へぶつかった。
石が砕ける。
大きな音とともに、壁の一部が崩れた。
砂埃が広がる。
シオンは腕で顔を覆った。
音が止む。
ゆっくり目を開ける。
入口が見えない。
石が積み重なっている。
「……塞がった?」
レオが呟く。
ノアが瓦礫へ近づこうとする。
「触るな」
ロディスが止めた。
「上も崩れてる」
ノアが足を止める。
水路を見る。
人が通れる広さではない。
「他に出口は?」
ミレイアが聞く。
ロディスが周囲を見る。
「確認する。まず怪我がないか――」
音がした。
石を擦るような音。
全員が振り向く。
反対側の壁。
さっきの衝突で崩れた場所だった。
壁の向こうに空洞がある。
その奥で、何かが動いた。
エルナが目を細める。
祝紋が浮かんだ。
「《鑑定》」
一瞬。
エルナの表情が変わった。
「……リグナ」
「え?」
レオが聞き返す。
黒いものが、穴の奥から姿を現す。
硬そうな身体。
六本の脚が、その身体を低く支えている。
その背から、細長いものが何本も伸びていた。
ロディスが前へ出る。
「全員、俺の後ろへ」
シオンたちが下がる。
リグナの背で、一本が動いた。
「――来る!」
飛んだ。
速い。
ロディスの祝紋が浮かぶ。
「《減衰》!」
杭の勢いが鈍る。
それでも、止まらない。
何かがロディスの横を抜けた。
ロディスの身体が傾く。
右手が脇腹を押さえた。
装具の脇が裂け、その下から血が滲んでいる。
「ロディス!」
エルナが駆け寄り、その身体を支える。
ロディスは脇腹を押さえたまま、前を見た。
「全員、下がれ」
背後で音がする。
飛んできた杭が、石へ深く突き刺さっていた。
シオンが見る。
黒い杭。
リグナの背にあるものと、同じ形をしている。
「……あれ、飛ばしたのかよ」
レオの声が低くなる。
リグナの背で、次の一本が動いた。
入口は塞がれている。
水路も通れない。
ロディスは怪我をしている。
そして、目の前にはリグナがいる。
逃げる場所を探すより先に。
次の一本が来る。




