一瞬の道
巨大な振り子が、一本道を塞いでいた。
シオンはその場から動かず、しばらく奥を見続けた。
ここまでとは違う。
足場は広く、まっすぐ続いている。
それなのに、簡単には進めそうになかった。
大きな振り子が右から横切る。
それが抜けきる前に、少し小さな振り子が左から入ってくる。
さらにその奥では、別の振り子が違う速さで往復していた。
全部が同じ速さで動いているわけじゃない。
だから、一つを避けても次が来る。
「……どこ走ればいいんだ、これ」
レオが言った。
「まだ分からない」
シオンは振り子を目で追った。
一つ目。
二つ目。
その奥。
また一つ目に戻る。
同じ振り子なら、往復する速さはほとんど変わらない。
でも、全部が揃う瞬間はない。
しばらく見ていると、途中に何か所か立ち止まれそうな場所が見えてきた。
一気に抜ける必要はない。
「途中までなら行けそう」
「どこ?」
ノアが聞く。
シオンは少し先を指した。
「あそこ。最初の二つを抜けたところ」
レオが振り子を見る。
「じゃあ、そこまで行くか」
一つ目が右へ抜ける。
まだ。
二つ目が左へ動く。
まだ。
二つの振り子が離れていく。
「今」
四人が走った。
レオが先頭に出る。
シオンはその少し後ろを走った。
一つ目が戻ってくる前に抜ける。
二つ目が迫る。
レオは大きく身体を外へ振った。
シオンは半歩だけ軌道を外し、その横を抜ける。
ノアとミレイアも続いた。
四人が振り子の間へ入る。
直後、背後を大きな振り子が通過した。
シオンはその先を見る。
ここからは、近くまで行かないと奥の振り子が重なって見えにくい。
ただ、待てば進める場所はあった。
シオンが先に渡り、振り子の動きを見ながら三人を呼ぶ。
「ノア、今!」
ノアが走る。
振り子が戻るのを待つ。
「次、ミレイア!」
ミレイアも抜けた。
最後にレオが走り込む。
そこからも同じだった。
一つを避ける。
次を待つ。
さらにその先まで見る。
レオたちも、もう勝手には先へ出なかった。
シオンが止まれば止まり、合図を待つ。
「次、右から来る」
大きな振り子が横切る。
その後ろを、小さな振り子が逆から戻ってくる。
「今」
四人が抜ける。
ここまでは、待てば進めた。
少しずつ、道の終わりが近づいてくる。
さっきまで遠くに見えていた杭も、もうはっきり見える。
「あと少しだな」
レオが言った。
シオンもそう思った。
残っている振り子は、それほど多くない。
ただ、その配置を見て足を止めた。
最後の区間だけ、今までとは違っていた。
大きな振り子が二つ。
その間を、少し小さな振り子が速く横切っている。
さらに、その奥にも一つ。
四つの振り子が、狭い範囲をそれぞれ違う速さで動いていた。
その先に杭がある。
レオがしばらく見てから言った。
「……ここだけ急に難しくない?」
ノアも振り子を見ている。
「一つ止める?」
シオンは答えず、四つの振り子を順番に追った。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
もう一度。
ただ待っていても、全部が道を空ける瞬間はない。
一つ目を抜けても、二つ目が来る。
二つ目を避ければ、三つ目に間に合わない。
その先では四つ目が戻ってくる。
シオンはノアを見る。
それからミレイア。
最後にレオを見た。
もう一度、振り子へ目を戻す。
一つを止める。
一つをずらす。
残った二つが離れる瞬間を待つ。
それなら。
「たぶん、いける」
三人がシオンを見る。
「どうする?」
ミレイアが聞いた。
シオンは一番手前の大きな振り子を指した。
「ノアは、あれを止めて」
「うん」
次に、奥から二つ目を指す。
「ミレイアはあっち。僕が合図したら、外側にずらして」
ミレイアが動きを確認する。
「分かった」
レオが自分を指した。
「俺は?」
「待ってて」
「待つだけ?」
「道ができたら、一番速いのはレオだから」
レオの表情が変わった。
「なるほど」
「でも、たぶん普通に走るだけじゃ間に合わない」
レオが最後の振り子と、その先の杭を見る。
「じゃあ、ここで使う」
シオンは頷いた。
「うん」
ノアが一番手前まで進む。
ミレイアも少し位置を変える。
レオは道の中央で身体を低くした。
シオンだけが、四つの振り子を見ていた。
一つ目が右へ動く。
二つ目が戻る。
三つ目が横切る。
四つ目はまだ向こう側。
違う。
「まだ」
ノアが振り子へ手を伸ばしかけて止める。
もう一度。
一つ目。
二つ目。
三つ目。
四つ目。
「まだ」
レオは動かない。
三度目。
一つ目が戻ってくる。
その後ろで、二つ目が離れていく。
三つ目がこちらへ向かう。
四つ目が向こう側へ抜けた。
今なら。
「ノア!」
ノアが踏み込んだ。
振り子へ手を触れる。
「《固定》!」
一つ目が止まった。
「ミレイア!」
左手首に祝紋が浮かぶ。
三つ目の振り子が迫る。
「《偏向》!」
軌道が外側へずれた。
二つ目が反対側へ抜ける。
四つ目もまだ戻ってこない。
それまで重なっていた振り子の間に、一本の道ができた。
ほんの一瞬だけ。
「レオ、今!」
レオが飛び出した。
腹の祝紋が浮かぶ。
「《加速》!」
踏み込みと同時に、一気に速度が上がった。
止まった一つ目の横を抜ける。
外へ逸れた振り子の内側を走る。
二つ目が戻り始めた。
その前を抜ける。
最後の振り子も戻ってくる。
杭までは、あと少し。
レオは止まらなかった。
さらに踏み込む。
振り子が迫る。
レオが身体を沈めた。
そのまま石床を蹴り、身体を投げ出す。
滑った。
巨大な振り子が、レオのすぐ上を通過した。
その下を滑り抜ける。
杭が目の前にある。
レオは滑ったまま手を伸ばした。
指が届く。
杭を掴んだ。
そのまま動かした。
ごとん、と低い音が響いた。
振り子の動きが変わった。
一つ。
また一つ。
振れ幅が急速に小さくなっていく。
ノアが《固定》を解いて手を離した。
それでも振り子は動き出さない。
周囲の振り子も次々と勢いを失っていく。
やがて、あれだけ響いていた音もほとんど聞こえなくなった。
「……止まった」
ノアが呟く。
レオが床から起き上がった。
「よっしゃ!」
声が広い空間に響いた。
シオンは周囲を見る。
もう振り子を避ける必要はなさそうだった。
「行こう」
三人でレオのところまで進んだ。
「最後、見た?」
レオがすぐに聞いてくる。
「見た」
「すごかっただろ?」
「ちょっと危なかった」
「だから、すごかったか聞いてんの」
「すごかったよ」
ノアが先に答えた。
「だろ?」
レオが満足そうに笑う。
ミレイアも笑ってから、シオンを見る。
「でも、よくあの一瞬を見つけたね」
シオンは来た道を振り返った。
「一人じゃ作れなかったよ」
待っているだけでは、道は開かなかった。
ノアが止めた。
ミレイアがずらした。
レオが走った。
三人が動いたから、一瞬だけ道ができた。
入口の方から拍手が聞こえた。
振り返る。
遠くにロディスとエルナがいる。
二人とも、最初からそこで見ていた。
レオが大きく手を上げた。
「クリアした!」
ロディスが頷く。
その隣でエルナも笑った。
静かになった振り子を確認してから、こちらへ歩き始める。
課題は終わった。
シオンは、そう思った。




