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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第四章 合同実習

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振り子

朝食を終えると、シオンたちは昨日とは別の建物へ向かった。


ロディスとエルナも一緒だった。


石造りの建物は、水路のあった場所からそれほど離れていない。


身体を守る装具をつけ、ロディスのあとについて中へ入る。


細い通路を抜けたところで、レオが足を止めた。


 「うわ」


シオンも、その先を見た。


広い空間だった。


奥まで続く石の足場。その周囲には、いくつもの振り子が並んでいる。


丸いものもあれば、横に長いものもある。大きさも、吊られている高さも違っていた。


そして、足場の下には水が流れている。


 「あれ?」


レオが縁から下を覗き込んだ。


 「この水、昨日のやつじゃない?」


シオンも隣から下を見る。


石壁の奥から流れ込んだ水が、足場の下を通り、反対側へ抜けている。


昨日の水路があった方向を思い出す。


 「方向は合ってる」


 「じゃあ、昨日の水ってここに流れてたのか」


昨日は分からなかった水の行き先が、一つだけ分かった。


ただ、水はここからさらに先へ流れている。


ミレイアが、並んだ振り子を見た。


 「これが全部動くんですか?」


 「ああ」


ロディスは入口近くにある杭へ手を置いた。


 「これを動かすと始まる。奥まで進んで、向こうの杭を動かせば終了だ」


かなり先に、同じような杭が見える。


 「避けてもいい。受けてもいい。祝紋を使ってもいい。ただし、下へ落ちるか、壁まで飛ばされたらやり直しだ」


レオが笑った。


 「昨日より分かりやすいな。避けて進めばいいんだろ?」


入口付近の足場は広いが、その先には細い場所や、石の足場が離れて並んでいる場所もある。


 「大丈夫だって。こういうのなら得意だわ」


昨日の課題を一度で最後まで抜けたばかりだ。


それに、走ったり、跳んだり、動くものを避けたりするのは、もともとレオの得意な方だった。


ロディスが杭を動かした。


ごとん、とどこかで音がした。


一つ目の振り子が動き、少し遅れて二つ目、その奥の振り子も次々と揺れ始める。


小さなものは速く、大きなものはゆっくりと揺れる。同じ大きさに見えるものでも、振れる幅が違っていた。


レオが一歩前へ出た。


 「じゃ、行ってくる」


 「待って。一緒に――」


シオンが言い終えるより早く、レオは走り出した。


最初の振り子を身体を沈めてかわし、次は目の前を通過させてから前へ出る。


 「ほら!」


振り返る余裕まであった。


そのまま次の足場へ跳び、さらに一つ、二つと抜けていく。


 「本当に得意なんだ」


ノアが感心したように言った。


レオは細くなった足場まで進んだ。


前から来た大きな振り子を引きつけ、目の前を横切った直後にその背後へ入り込む。


 「よし!」


その直後だった。


大きな振り子の陰から、小さな振り子が戻ってきた。


 「レオ!」


レオが振り向き、身体を捻る。


振り子の端が肩に当たった。


 「うおっ」


足がずれる。


細い足場では立て直せなかった。


ばしゃん、と大きな水音が響いた。


シオンはすぐに足場の縁まで走った。


 「レオ!」


水面からレオの頭が出てくる。


 「冷てえ!」


声はいつも通りだった。


レオはそのまま側面の梯子まで泳ぎ、上がってくる。


 「大丈夫?」


 「全然。ちょっと当たっただけ」


レオは肩を回してみせた。


普通に動いている。


身体に当たる程度なら、装具もあるし、大きな怪我にはなりにくそうだった。


それでも、頭の近くは気をつけた方がいい。


 「くそ。あれ見えてなかった」


 「一つ目だけ見てたから」


レオは濡れた服の裾をつまんだ。


 「重っ」


 「落ち続けたら攻略が厳しくなるぞ」


ロディスが言った。


 「もう落ちねえよ」


レオは濡れた服のまま戻ってきた。


シオンは振り子を見る。


レオは速かった。避けるのも上手かった。


それでも、一つだけを見ていたから落ちた。


その次。


さらに、その次。


足場も一緒に見なければならない。


 「今度は一緒に行こう」


 「……分かった」


二度目は、四人で進んだ。


最初の振り子が右から迫る。


レオは一歩下がってかわした。ノアも少し遅れて避ける。


シオンは、その場に残った。


振り子が近づいてくる。


身体に当たる直前、半歩だけ前へ出た。


振り子が背中のすぐ後ろを通り過ぎる。


 「近くない?」


ノアが言った。


 「これで十分だから」


次の振り子は肩を引くだけで通した。


さらに一つ。


半歩だけ軌道から外れ、そのまま前へ出る。


大きく避けていたレオとの距離が、少しずつ縮まっていく。


次の振り子を抜けたところで、シオンはレオの隣に並んだ。


レオが横を見る。


 「なんで俺よりゆっくりなのに、もうそこにいんだよ」


 「レオが動きすぎなんじゃない?」


 「お前が動かなすぎなんだよ」


シオンは少し笑った。


その先では、石の足場が離れて並んでいた。


一つ目、二つ目と跳び、その先でシオンは止まった。


次の足場までは少し遠い。


しかも着地点を振り子が横切っている。


シオンは近づいてくる振り子と、その先の足場を交互に見る。


避けなくてもいい。


横から来た振り子が身体のそばを通る瞬間、シオンは手を添えた。


押し返さず、その動きに合わせて踏み出す。


身体が引かれる。


その勢いに合わせて足場を蹴った。


振り子から手を離し、水の上を越える。


向こうの石へ着地すると、膝を曲げて勢いを殺した。


 「それありなの?」


レオが言った。


 「避けろとは言われてないよ」


レオがロディスを見る。


 「受けてもいいとは言ったな」


 「そういう意味だったのか?」


 「好きに考えろ」


レオは助走をつけ、普通に飛び越えてきた。


さらに進むと、二つの振り子が違う速さで同じ場所を横切っていた。


レオが前へ出ようとする。


 「まだ」


一つ目が通る。


 「まだ」


二つ目が逆方向へ戻っていく。


二本の間に空間ができた。


 「今」


四人が走り抜ける。


その先では、大きな振り子が細い足場を塞ぐように動いていた。


さらに奥にも、もう一つある。


シオンは二つを交互に見た。


一つ目が戻る。


二本の位置が離れる。


 「今」


走る。


一つ目を抜けたところで、二つ目が戻ってきた。


 「ノア!」


 「うん!」


ノアが振り子に触れる。


 「《固定》」


振り子が止まった。


シオン、ミレイア、レオが横を抜け、最後にノアが手を離して追いついてくる。


振り返ると、止められていた振り子はまだその場にあった。


だが、少しするとゆっくり動き始める。


振れ幅が少しずつ大きくなり、やがて元と同じように往復を始めた。


 「勝手に戻るんだ」


ノアが言った。


どういう仕組みなのかは分からない。


その先では、振り子の軌道が次の足場への道を塞いでいた。


ミレイアが前へ出る。


左手首に二本の曲線が浮かんだ。


 「少しずらす」


振り子が迫る。


 「《偏向》」


進む方向が外側へずれた。


 「今!」


四人が次々に渡る。


シオンは着地してから振り返った。


《偏向》された振り子は、元の軌道には戻っていなかった。


斜めに振れたあと、次は少し違う場所を通る。


揺れるたびに軌道がわずかに変わっている。


ロディスも動きを確認してから、先へ進むよう合図した。


そこからは、四人で少しずつ進んだ。


避けられるものは避ける。


待てるものは待つ。


必要なところだけ祝紋を使う。


レオも、もう一人で先へ行こうとはしなかった。


 「シオン、次は?」


シオンは振り子を見る。


 「……まだ」


レオは動かない。


一つが通り過ぎ、その次が戻っていく。


 「今」


今度は迷わず走った。


やがて、足場が再び広くなった。


振り子も途切れる。


 「終わり?」


レオが奥を見る。


 「いや」


ミレイアが答えた。


少し先で、石の壁が左右へ大きく開いていた。


その向こうには、これまでとは違う空間がある。


広い一本道。


飛び石も、細い足場もない。


ただ、その道を塞ぐように、巨大な振り子がいくつも揺れていた。


どれも、ここまでのものより大きい。


振れる速さも、幅も違う。


右から来るもの。


左から来るもの。


ゆっくり大きく横切るもの。


その隙間を速く通り抜けるもの。


動く順番も揃っていない。


そして、そのずっと向こう。


道の終わりに、一本の杭が立っていた。


レオがしばらく黙って眺める。


今度は、すぐには走り出さなかった。


 「……あれ抜けんの?」


一つの振り子が通る。


まだ戻りきらないうちに、次が反対側から入ってくる。


さらに奥では、別の振り子が動き始めていた。


一つずつなら、避けられる。


でも、一つずつ来るわけじゃない。


シオンは揺れ続ける振り子を見つめた。

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