どこまで
倉庫の脇。
シオンたちは、使っていない木箱や木の棒をいくつか並べていた。
ノアは、その前に立っている。
「まず、いつものやつ」
シオンが小さな木箱を指す。
ノアが片手を置いた。
背中の祝紋が、服の下で淡く光る。
「いいよ」
レオが反対側から箱を押す。
木箱は動かない。
もう少し力を入れる。
それでも動かなかった。
「これは?」
「いつも通り」
ノアが手を離す。
レオがもう一度押すと、今度は箱が簡単に動いた。
「じゃあ次」
シオンは短い木の棒をノアに渡した。
ノアが片方を持ち、反対側の先端を木箱へ押し当てる。
「箱には触らないで」
「うん」
ノアが《固定》を使う。
レオが箱を押した。
すぐには動かなかった。
けれど、さっきより強く押すと、棒の先がずれて箱が動いた。
レオが手を止める。
「さっきより動いた」
ノアも棒を見る。
「弱くなった?」
シオンはすぐには頷かなかった。
「まだ分からない」
「なんで?」
「レオが同じ力で押したか分からないから」
レオが自分の手を見る。
「たぶん同じ」
「たぶんじゃ分からない」
「細かいな」
シオンは聞かなかったことにした。
今度は、さっきより長い棒を使う。
ノアが同じように端を持つ。
もう片方を箱へ当てる。
レオが押した。
棒が少したわむ。
箱も動いた。
「長い方が動きやすそう」
ノアが言う。
「うん。でも、棒も曲がってる」
シオンは二本を見比べる。
長さだけではない。
棒そのものの硬さも、押し方も違う。
「これだけじゃ、距離のせいか分からない」
レオが近くの縄を拾った。
「じゃあ、これなら?」
ノアが片方を持つ。
反対側を箱へ結ぶ。
最初は短く取った。
ノアが《固定》を使い、レオが箱を引く。
縄が張る。
箱は少し動いてから止まった。
次は、同じ縄を長く取る。
もう一度。
今度は縄が大きくたわみ、箱もさっきより動いた。
ノアが言う。
「……離れると弱くなる?」
シオンは縄を見る。
「かもしれない」
「また分からない?」
「縄がたわんでるから」
ノアが少し黙った。
「面倒だな」
「うん」
「否定しないんだ」
「でも、分からないまま決めるよりいい」
レオが笑う。
「こいつ、ずっとこんな感じ」
シオンは次の木片を手に取った。
◇
次は、動いている物を試すことにした。
レオが小さな木片を持つ。
「投げるぞ」
「最初はゆっくり」
「分かってる」
ノアは少し離れた場所に立った。
レオが木片を軽く投げる。
ノアが手を伸ばした。
触れる前に、木片が手の横を抜ける。
地面に落ち、少し転がった。
「難しい」
ノアが拾う。
「もう一回」
今度は、さらにゆっくり。
木片が飛ぶ。
ノアの指が触れた。
その瞬間、木片の向きが崩れ、地面へ落ちた。
「今のは?」
レオが聞く。
ノアは自分の手を見る。
「使った」
シオンが木片を見る。
「でも、止まったかは分からない」
触ったことで向きが変わっただけかもしれない。
もう一度。
今度は、レオが木片を地面の上で滑らせた。
「これなら触りやすいだろ」
木片が地面を滑ってくる。
ノアが上から手を置いた。
祝紋が光る。
木片が止まる。
ノアは手を置いたままだ。
「止まった」
レオが言う。
「手を離してみて」
シオンが言う。
ノアが手を離す。
木片はその場に残った。
「……そりゃ残るだろ」
レオが言う。
シオンも少し考える。
「うん」
止まったあとでは、もう分からない。
「じゃあ、坂にする?」
レオが近くにあった板を持ち上げた。
片側を木箱に乗せ、ゆるい傾斜を作る。
その上に木片を置く。
手を離すと、木片が滑り始めた。
「これなら」
ノアが途中で木片に手を置く。
《固定》。
木片が止まった。
「そのまま」
シオンが言う。
数秒待つ。
「離して」
ノアが手を離した。
木片は再び板の上を滑り始める。
三人とも、それを見る。
「動いてる物でも使える」
シオンが言う。
「でも、触ってる間だけ?」
ノアが自分の手を見る。
「たぶん」
「昨日の縄も、持ってる間だった」
ノアが顔を上げる。
少し考えてから、もう一度板の上へ木片を戻した。
「もう一回やっていい?」
さっきまでより、声が少し早かった。
レオが笑う。
「いいじゃん」
今度は少しだけ板を高くする。
「待って」
シオンが止めた。
「何?」
「高さまで変えたら、また分からなくなる」
レオが板を見る。
それから、元の高さへ戻した。
「はいはい」
ノアが小さく笑った。
シオンはそれを見る。
昨日は、
『困ってないから』
そう言っていた。
今は、自分から木片を持っている。
空はまだ曇っていた。
倉庫の脇では風が吹き、雨除けの布が小さく揺れている。
水路の水は、今日も静かに流れていた。




