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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第三章 今ある力

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水路沿いの倉庫

加筆修正しました。

ガルドに頼まれた荷物を届けるため、シオンとレオは町の下の方へ向かっていた。


倉庫が多い区画だった。


大きな通りから一本外れると、石造りの建物と木造の倉庫が並び、その間を細い水路が通っている。


町の上の方から引かれてきた水がここを抜け、さらに下へ流れていく。


普段の流れは穏やかで、荷車の車輪を洗ったり、桶に水を汲んだり、倉庫の裏で道具を洗ったりするのに使われていた。


今日は風が少し強かった。


空も低い。


 「雨降るかな」


レオが空を見る。


 「分からない」


 「見たら分かるだろ」


 「雲は見えるけど、降るかどうかは比べられない」


 「不便だな」


 「うん」


レオが笑った。


目的の倉庫まで来る。


大きな木戸の横には、積み上げられた木箱や縄で縛られた荷物、荷車が並んでいた。


奥では何人かの大人が荷を運んでいる。


シオンが声をかける。


 「すみません」


中から少年が一人出てきた。


シオンたちより少し大きい。


黒い髪が額にかかっていて、表情はあまり変わらない。


 「何?」


 「リーメル商店から」


シオンが持ってきた荷物を見せる。


少年はそれを受け取った。


 「親父に渡す」


 「ノア?」


レオが聞く。


少年が見る。


 「うん」


 「俺、レオ」


 「知ってる」


 「なんで?」


 「速いやつ」


レオが少し嬉しそうな顔をする。


 「有名じゃん」


ノアは特に反応しなかった。


シオンも名乗る。


 「シオン」


 「うん」


 「俺は知らない?」


 「名前は聞いたことある」


 「どこで?」


 「祝紋院」


シオンは少しだけ目を瞬いた。


その時、強い風が吹いた。


倉庫の脇に張られていた大きな雨除けの布が膨らみ、端を留めていた縄を強く引く。


その下に積まれていた木箱が、わずかにずれた。


 「危ない」


シオンが言う。


ノアが振り返る。


上に積まれた箱が、もう一度動いた。


ノアはすぐ近くの縄をつかんだ。


積み荷の側面を押さえるために掛けられている縄だった。


その瞬間。


ずれかけていた箱の動きが止まった。


元の位置へ戻ったわけではない。


傾いたまま、それ以上動かなくなった。


シオンは縄と箱を見る。


 「今の、祝紋?」


 「うん」


 「何?」


 「《固定》」


レオが箱を見る。


 「便利じゃん」


ノアは縄を握ったまま答える。


 「別に」


 「別に?」


 「重すぎるのは止められないし」


すぐに倉庫の大人が駆け寄ってきた。


 「そのまま頼む」


 「うん」


大人たちが箱を支え、ずれた積み荷を下ろしていく。


安全な位置まで動かしたところで、ノアが縄から手を離した。


 「助かった」


大人に言われ、ノアは小さく頷く。


シオンはさっきまでノアが握っていた縄を見る。


 「箱には触ってなかったよね?」


ノアがシオンを見る。


 「縄は持ってた」


 「縄を固定したの?」


 「たぶん」


 「箱じゃなくて?」


 「分かんない」


シオンは少し眉を寄せた。


 「試したことないの?」


 「ない」


 「なんで?」


ノアは少し考える。


 「困ってないから」


シオンは黙った。


レオが横から言う。


 「俺なら色々試すけどな」


 「お前は使いたいだけだろ」


 「使えるなら使うだろ」


ノアは、よく分からないという顔をした。


倉庫の奥から声がする。


 「ノア!」


 「何?」


 「こっち持ってくれ!」


 「うん」


ノアが奥へ向かう。


レオもついていった。


 「手伝う」


 「別にいい」


 「早い方がいいだろ」


そう言って、レオが荷物を持つ。


腹のあたりに祝紋が浮かんだ。


《加速》。


一気に数歩進み、荷物を先へ運ぶ。


ノアが見る。


 「それ、毎回使うの?」


 「早い方がいいだろ」


 「別に急いでないけど」


 「でも早く終わるじゃん」


ノアは何も言わなかった。


シオンも手伝った。


荷物を移し、縄をまとめ、箱の位置を直す。


しばらくして、頼まれていた荷物も渡し終えた。


三人は倉庫の外へ出る。


水路の水は、いつも通り静かに流れていた。


 「じゃあな」


レオがノアに手を上げる。


 「うん」


ノアはそれだけ答え、倉庫へ戻っていった。


シオンとレオも歩き出す。


少し進んだところで、レオが一度立ち止まった。


右足を軽く二度振る。


シオンはその動きを見た。


 「どうしたの?」


 「何が?」


 「足」


レオも自分の右足を見る。


 「別に」


そう言って、また歩き出した。


歩き方は、いつもと変わらない。


シオンもそのまま後を追う。


振り返ると、倉庫の脇では雨除けの布がまだ風に揺れていた。


その下には、さっきノアが止めた荷物がある。


縄。


箱。


《固定》。


そして、道の脇を流れる水。


シオンは一度だけそれらを見てから、レオの後を追った。


挿絵(By みてみん)

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