第7話:『ベッドの下のサイコ・ストーカー』
「ベッドの下から……私の電話を……?」
麗華の顔から一瞬で血の気が引いていく。
目の前に立つゴスロリ服の少女——イチゴは、不気味な笑みを浮かべたまま麗華を見つめていた。
「嘘よ……そんなの嘘! あなたが渚の部屋に忍び込めるわけがないわ!」
「嘘じゃないよ、お姉さん」
イチゴは可愛らしく首を傾げると、持ち歩いていた大きめの革製バッグのジッパーをゆっくりと引いた。
「あの日、事件の数時間前。お姉さんはライトくんに電話したでしょ? 『またファンサイトの更新が遅れてるわよ』『みんな期待してるんだから、もっとプロ意識を持ちなさい』って」
「……っ!」
麗華が息を呑む。イチゴの発言は、あまりにも正確すぎた。
「ライトくん、電話を切りながらすごく悲しそうな顔をしてたよ。……『姉さんまで、俺をファンサイトの道具としてしか見てくれないのか』ってね」
「やめて……やめてよ!!」
麗華が頭を振って叫ぶ。
しかし、イチゴの手は止まらない。バッグの中から、次々と「ある物」を取り出してテーブルの上に並べ始めた。
使い古された歯ブラシ。使いかけの男性用香水。ライトが愛用していた部屋着のTシャツ。そして——彼が肌身離さず持っていたはずの鍵束。
「なっ……それ……!」
アサミが目を剥いた。
「それ、ライトくんの私物じゃない! なぜあなたがそんな物を持っているの!?」
「部屋にあったからだよ」
イチゴは無邪気な声で笑った。
「私、ずっとライトくんの部屋にいたんだもん。あの子が仕事から帰ってきて、一人で泣いてる時も、誰にも言えない秘密を抱えて震えてる時も、全部一番近くで見てたの」
「ストーカー……!」
ひまりが怯え切った声で呟いた。
「あなた、ライトくんの部屋に勝手に侵入して、私物を盗み出していたの……!? 鍵まで盗んで……!」
「侵入? 盗む? ひどい言い草だなあ」
イチゴはフッと笑い、黒のレースの手袋でライトの香水瓶を愛おしそうになぞった。
「私はあの子を守りたかっただけだよ。事務所のマネージャー(アサミ)から厳しく縛られ、実の姉(麗華)からは『綺麗なお人形』であることを強制され、夜の街で孤独を紛らわせるしかなかった可哀想なライトくんをね」
「黙りなさい……!」
麗華の全身が激しく震える。
「あなたが……あなたみたいな異常なストーカーが部屋に潜んでいたから、渚は狂っていったのよ! あ子の精神を破壊し、ベランダへと追い詰めた犯人は、あなたね!!」
麗華がイチゴの肩を掴もうと手を伸ばす。
アサミも即座に警察へ通報しようとスマホを構えた——その瞬間。
ガタンッ!
激しい音を立てて、イチゴがテーブルを蹴り飛ばした。
グラスや洋菓子が床に散らばり、高い破砕音が密室に響き渡る。
「おい」
短く吐き捨てられたその声は、それまでの少女のような裏声ではなかった。
太く、低く、腹の底から響くような——紛れもない「男の声」だった。
「……え?」
ひまりが呆然と声を漏らす。
アサミも、麗華も、金髪のユカすらも、息を止めて凍りついた。
イチゴは頭に手をやると、両手で豪快にゴスロリのウィッグを毟り取った。
バサリと落ちた黒髪のフリル。
そこに現れたのは、整った、けれどどこか凶暴な眼差しをした一人の青年の顔だった。
「いい加減にしろよ。お前らの安っぽいマウンティング聞きにここに来たんじゃねえんだわ」
変装を脱ぎ捨てた「男」が、ドスの利いた地声で冷たく言い放った。




