第6話:『実の姉の咆哮』
「あの夜、電話で彼に何と言ったの!?」
アサミの鋭い声が密室に跳ね返る。
金髪ギャルのユカ——湯川霞は、悔しそうに歯を食いしばり、下を向いたまま震えていた。
「言ったよ……っ! 『またお店来てね〜』って……いつもの営業電話をかけたんだよ!」
ユカが叫ぶように顔を上げた。その目には、悔哀の涙が滲んでいる。
「あの日……ライトは店でボロボロになって泣いてたんだよ! 『もうどこにも居場所がない、消えちゃいたい』って……! なのに私、ビジネスのノリで笑い飛ばしちゃったんだ……『ライトくんが死んだらウチの売上落ちちゃうからマジ勘弁〜』って……!」
ユカは自分の頭を抱え込むようにしてしゃがみ込んだ。
「そのまま店から追い出すみたいに帰して……気になって後から電話かけたけど、もう出なかった……! 私が……私があの時、一瞬でも真剣に話を聞いてあげていれば、あいつは死なずに済んだかもしれないのに……っ!」
密室に、ユカのすすり泣く声だけが寂しく響く。
アサミは冷徹な眼差しのまま、小さく鼻で笑った。
「なるほどね。プロの接客として彼のSOSを軽視し、結果として彼を路頭に迷わせた。あなたも立派な『加害者』の一人というわけね」
「ふざけるな……っ!」
それまで黙って聞いていた麗華が、鋭い一喝を響かせた。
テーブルの上のグラスがカタカタと震える。
「加害者? どの口がそんなことを言うの、浅見さん!」
「何ですって……?」
アサミが眉をひそめる。麗華は怒りで肩を激しく上下させ、アサミの目の前まで詰めて寄った。
「『完璧に管理していた』? ふざけないで! あなたがプロという名のもとにあの子の私生活を監視し、縛り付けたから、あの子は夜の街に逃げ込むしかなかったんじゃないの!」
「私は彼をスターにするために——」
「黙りなさい!!」
麗華の悲痛な咆哮が、密室の壁を揺らした。
上品なお姉さんの面影はどこにもない。そこにあるのは、弟を失った一人の人間の、剥き出しの憤怒だった。
「私の……私の大切な弟を、あなたたちのエゴで壊しておいて……よくもそんな白々しい顔ができるわね!!」
「弟……?」
ひまりが息を呑む。
麗華は涙で濡れた瞳で全員を睨みつけた。
「そうよ……! 私はファンサイトの管理人なんかじゃない! 如月渚……ライトの実の姉、如月麗華よ!」
麗華のカミングアウトに、室内が凍りつく。
アサミは一瞬だけ驚きに目を見開いたが、すぐに冷徹な表情を取り戻した。
「実の姉……。なるほど、だからあなたはこの部屋を借り、電波を遮断してまで私たちを集めたのね」
「そうよ! 警察は事故だ自殺だと片付けたけれど、私は絶対に認めない! あの子の部屋にあったノートの切れ端……『キサラギに、すべてを奪われる』……!」
麗華は震える手でダイイングメッセージを指差し、血吐くような声で叫んだ。
「『キサラギ』とは、あの子を追い詰めた悪魔のコードネーム! あなたたちの中にいる、あの子の人生を奪った犯人よ! 私は絶対に許さない……弟を殺した犯人を、この手で引きずり降ろすまでは!!」
実の姉としての怒りを爆発させる麗華。
しかしその時、それまで部屋の隅で静かにカプチーノを飲んでいたゴスロリ服の少女——イチゴが、くすくすと不気味に笑い出した。
「ふふ……あはははは!」
静まり返った室内に響く、少女の甲高い高笑い。
「何が面白いの、イチゴさん……!」
麗華が凄絶な顔で睨みつける。イチゴは優雅に立ち上がると、ゴスロリのドレスを揺らしながら、麗華の元へと歩み寄った。
「ううん、おかしくてさ。お姉さん」
イチゴは不気味な笑みを浮かべたまま、麗華の耳元に顔を近づけ、囁くように言った。
「『キサラギにすべてを奪われる』……? 全然わかってないね。――ライトくんが死ぬ直前、私、あの子のベッドの下から、ちゃんとお姉さんへの電話、聞いてましたから」
「え……?」
麗華の顔から、一瞬で血の気が引いていった。




