第5話:『王子様の夜の顔』
「マネージャー……? アサミさんが、ライトくんの事務所の……?」
ひまりが信じられないといった様子で呟く。
壁に投影された社員証の画像。アサミ——浅見玲奈は、否定することなく冷ややかな視線を全員に向けた。
「そうよ。私は彼をトップスターにするために、スケジュールからプライベートの行動に至るまで完璧に管理していたの。……外部の怪しい人間や、悪質なストーカーから彼を守るためにね」
「ハッ! 笑わせないでよ」
ユカが鼻で笑い、腕を組んでアサミを睨みつけた。
「『守っていた』? 監視して縛り付けてただけの間違いでしょ。プロだかなんだか知らんけど、あんたが完璧に管理してたおかげで、ライトがどれだけ追い詰められてたか知ってんの?」
「何ですって……?」
アサミの眉間にしわが寄る。ユカはフッと口角を上げると、バッグから一冊の派手な名刺入れを取り出し、テーブルの上に放り投げた。
「最古参ファン? 嘘だよそんなの。私、ライトのファンなんかじゃないし」
名刺入れから滑り出たのは、歌舞伎町の有名コンセプトカフェのカード。そこには『キャスト:かすみ』と金文字で印字されていた。
「私の本当の名前は湯川霞。ライトが夜な夜な、変装してコソコソ通ってたコンカフェの店員だよ」
「な……コンカフェの店員……!?」
麗華が言葉を失う。ユカは派手なネイルを弄りながら、淡々と語り始めた。
「ライトはね、あんたたち『綺麗なファン』や『完璧な事務所』の前で見せる『王子様』の仮面に息が詰まりかけてたの。だから私の店に来てさ、酒に溺れて、ダサく愚痴り倒してたんだよ」
「嘘よ……!」
ひまりが頭を振り、耳を塞ぐように手を当てる。
「ライトくんがそんな……夜の街で酒に溺れるなんて、そんなの嘘です!」
「嘘じゃないね。あんたらが『ライトくん尊い〜♡』とか言ってる裏で、あいつは『ファンが重い』『マネージャーがうるさい』『もう逃げ出したい』って、ゲロ吐きながら泣いてたんだから!」
ユカの怒号が密室に響き渡る。
表の華やかな世界では決して見せない、ライトのドロドロとした生々しい本性。
ひまりはショックで立ち尽くし、麗華は怒りで唇を震わせた。
「ふざけないで……! 弟が……渚がそんな汚い店で、あなたみたいな女にそんな口を吐くはずがないわ!」
「……弟?」
ユカが目を丸くする。麗華はハッと息を呑み、しまったというように口を押さえた。
しかし、その隙をアサミが見逃すはずもなかった。アサミは冷静にタブレットを操作し、ユカに向かって冷酷な事実を突きつける。
「あなたのコンカフェでの愚痴聞きごっこはどうでもいいわ、湯川さん。問題なのは、事件当夜のタイムラインよ」
アサミが画面を切り替える。そこに表示されたのは、警察から開示されたライトの通話履歴の解析データだった。
「事件当日の夜22時45分。ライトくんのスマホに最後にかかってきた着信履歴の主……それは、あなたのバイト先のコンカフェの固定電話よ」
「……っ!」
ユカの顔から、一瞬で余裕が消え去った。
「彼が亡くなる直前、あなたは店から彼に電話をかけていた。そして彼を精神的に決定打となる場所まで追い詰めた……違うかしら?」
アサミの詰問に、ユカは固く唇を噛み締め、拳を握りしめた。
さっきまでの威勢の良さは消え、その瞳には暗い罪悪感の影が差し始めていた。
「答えなさい、湯川霞。あの夜、あなた電話で彼に何と言ったの!?」
アサミの鋭い声が、追い詰められたユカに容赦なく浴びせかけられる。




