第4話:『データベースの正体』
「『ドアの前にいる』……って、マジで言ってんの……?」
ユカが自身の腕を抱きしめながら、不快そうに顔を歪めた。
施錠されたドアと圏外のスマホ。逃げ場のない室内で、全員の不信感が破裂寸前まで膨らんでいく。
「ドアの前にいたのが誰だろうと関係ないわ」
アサミが冷静な声を響かせ、タブレットの画面をフリックした。
「重要なのは、ライトくんをその状況まで追い詰めた『原因』よ。例えば――ひまりさん、あなた」
「ひっ……! 私、ですか……!?」
突然指名されたひまりが、びくっと肩を揺らして身を縮こまらせた。
「あなたの端末から送信された最後のDM。送信時刻は事件当日の22時15分。……ねえ、何を書いたの? 新規のファンを装っているけれど、あなたのメッセージには彼を精神的に追い詰めるような内容が含まれていたんじゃないかしら?」
「違います! 私はただ、ライトくんを応援したくて……っ!」
「応援? 単なるファンが、なぜ彼の鍵付き裏アカウントの存在を知っていたのかしら?」
アサミの冷酷な追求に、ひまりの顔から一気に血の気が引いていく。
言葉を詰まらせるひまりを見て、アサミは勝ち誇ったように眼鏡の位置を直した。
「答えられないようね。やっぱりあなた——」
「――ねえ、ちょっといいかな」
アサミの言葉を遮ったのは、ユカだった。
それまで怯えていたギャルの瞳に、すんと冷ややかな色が混ざる。
「さっきから黙って聞いてればさ。アサミさん、あんた何なの?」
「何、とはどういう意味かしら」
「いやいや、おかしいでしょ」
ユカは椅子から立ち上がると、アサミの目の前まで歩み寄り、テーブルに両手をついた。
「IPアドレスだの、裏アカウントだの、死亡推定時刻だの……なんでただの『ファンサイトのデータベース担当』が、警察の捜査線レベルのプライベートなデータ持ってんの? 気持ち悪すぎなんだけど」
「私はただ、公開されている情報や彼の足跡を整理しただけで——」
「嘘つけ」
ユカがドスの効いた声で一蹴した。
「ライトが立ち寄った店の目撃情報? スケジュール? あんたが画面で見せてるそれ、一般のファンが手に入れられるレベルのデータじゃないよね? まるで……四六時中、ライトの行動を裏から監視・管理してたみたいじゃん」
室内の温度が、さらに数度下がったような錯覚。
アサミの表情から、それまでの余裕のある笑みが消えた。
「あんたさ、本当は『ただのオタク』じゃないでしょ。誰なの?」
ユカの鋭い追及に、アサミはしばし沈黙した。
そして、フッと自嘲気味な息を吐くと、眼鏡を外してテーブルの上に置いた。
その瞳には、ファンとしての熱狂ではなく、冷徹な「ビジネスパーソン」の光が宿っていた。
「……流石は最古参のギャルね。察しが良くて助かるわ」
アサミは手元のタブレットをプロジェクターに繋ぎ、壁に一枚の画像を投影した。
そこに映し出されたのは、ライトが所属していた芸能事務所の社員証。
顔写真の横には、ハッキリとこう印字されていた。
『チーフマネージャー:浅見 玲奈』
「え……? マネージャー……!?」
ひまりが素声をあげる。
「ええ。私は彼の元マネージャーよ」
アサミ——浅見玲奈は、腕を組んで冷たく告げた。
「ファンサイトのデータベース職人というのは擬態。私は彼をプロとして管理し、売り出すための『公式の人間』として、この1年間ずっとあなたたちファンを監視していたのよ」
アサミが暴いた自らの正体。
しかし、それによって新たな疑問が部屋に浮上する。
公式のマネージャーが、なぜ一般ファンの追悼会に紛れ込んでいたのか。
そして、彼女がひた隠しにする「本当の後ろめたさ」とは——。




