第13話:『全員が引いた引き金』
――コンコン。
静まり返った密室に、あまりにも不似合いな軽やかなノック音が響く。
「な……何……!?」
ひまりが身を縮こまらせ、怯えた目でドアを見つめる。
施錠され、電波ジャマーによって完全に隔離された部屋。外部の人間がこの場所を特定して訪れるはずがなかった。
「誰……? 誰なの……!?」
ユカが叫ぶ。
アサミが警戒しながらドアへと近づこうとした、その時――。
「行かなくていいわ、浅見さん」
麗華の声だった。
床に伏していた彼女が、ゆっくりと立ち上がる。その顔から悲壮感は消え去り、恐ろしいほど静謐な、澄み切った狂気だけが残っていた。
「麗華さん……? あなた、何か知っているの?」
アサミが足を止めて振り向く。
麗華は優雅な動作で服の乱れを整えると、バッグから一瞬で一丁の小型ナイフを取り出し、テーブルの上に置いた。
「ひっ……!」
ひまりが短い悲鳴をあげる。
「ノックをしたのは、ケータリング業者よ。一周忌の『追悼のケーキ』を届けてもらうよう、1時間前に自動配達を予約しておいたの」
麗華は冷たく微笑み、ドアの施錠を確認した。
「ドアは開けないわ。ケーキも受け取らない。……だって、私たちはここで全員一緒に、渚の元へ逝くんだから」
「な……何を言ってるの、あんた!?」
ユカが素狂した声をあげる。
「全員で逝く……? 心中に巻き込むつもり!?」
「心中? いいえ、これは『処刑』よ」
麗華の瞳に、燃えさかる炎のような執念が宿る。
「渚を死に追いやったのは誰か……1年間、ずっと知りたかった。警察も頼りにならず、自分ひとりで苦しんできたわ。でも今日、ようやく理解できた……」
麗華はナイフの柄を強く握りしめた。
「渚を殺したのは、彼に『ライト』という衣装を着せ続けた私。
彼を商品として搾取し続けた浅見さん。
彼の孤独をビジネスで笑い飛ばした湯川さん。
彼に呪いの言葉を吐いて逃げたイチゴさん。
そして、最後の逃げ道を無垢な笑顔で塞いだひまりさん……」
麗華の視線が、4人の顔を順になぞっていく。
「全員よ。全員が、あの子の胸にナイフを突き立て、引き金を引いた『共犯者』だったのよ!」
「冗談じゃないわ!!」
アサミが声を荒げる。
「確かに私たちには罪がある! 彼の死に責任がないとは言わない! だからと言って、あなたに私たちを裁判し、命を奪う権利なんてないわ!」
「権利? そんなもの、ハナから求めていないわ」
麗華は刃先を自分自身の首元に当て、それから4人へと向けた。
「渚はひとりぼっちで、冷たいアスファルトの上に堕ちていったのよ? 『如月渚』を殺した私たちが、涼しい顔をして生きていていいはずがないでしょう!? ここで全員で罪を数え上げ、全員で裁きを受ける……それが、私たちが彼にできる唯一の『責任の取り方』よ!」
狂気と絶望に染まった姉の咆哮。
施錠されたドアの外で、返事のないことに困惑した配達員の足音が、遠ざかっていく。
逃げ場のない密室。
全員が引き金を引いたという「決定的な罪悪感」を突きつけられた4人は、刃を構える麗華の狂気を前に、言葉を失っていた。
しかし、その中で一人だけ――イチゴが、嘲笑うように鼻で鳴らした。




