認識阻害
「はぁ…」
正直広場とか小屋よりよくわからない虫の体液でベタベタなのが気になる。
「ウォーターボール」
私たちの上に水を作り出してバシャンと落とす。
服にかかった分は落ちないのでまだ最悪な気分ではあるがこれで少しはマシになった。
「あの小屋の中に服とかないよね?」
「魔王様…あっても何があるかわかりませんので着ないでくださいよ?」
ミドリが指摘する。
マジですか…、服ぐらいいいと思ったんだけど。
「あの小屋、よくわからない魔力が渦巻いているように見えます。何かある可能性はかなり高いです」
アーサーが魔力感知を使っている。
私も同様に見ているが全体的に気持ち悪く具体的な場所がわからない。
「うーん…かといって見えてる手がかりだしね。どうにかして入りはしたいんだけど…」
「ふむ…」
悩んでいるとテクテクとリリスが小屋に向かって歩き出した。
「リリス?」
そして、
「余が来たぞ!恐れ称えよ!!」
普通にドアを開けた。
「な!?」
「え!?」
「何やってんのーー!?」
怖いものなしか!
罠だったらどうするの!?
そうして何が来るか全員で構えながら見守る。
が、特に何かが起こる感じはしない。
「リリス?中に何があるの?」
「ふむ、よくわからぬものしか置いておらぬぞ」
「…え?」
恐る恐る入口側に周り、遠くから中をのぞくと鍬や高枝バサミ、草刈り鎌などが見えた。
「ただの農具とか道具置き…?」
ゆっくりと
「はぁ…死ぬ思いでした。魔王様、このバカは縛り上げておきましょう」
「私も同じ思いです」
「なんじゃ、どうせ開けるのじゃから何を考えても一緒じゃろう」
「一緒じゃないから言ってるんだよ…」
本当に勘弁してほしい。
「…とりあえずドアが開いたのなら罠の確認をしましょう」
「そうだね」
改めて辺りを見渡すと依然としてよくわからない魔力が漂ってはいる。
ほんとなんだろうこれ?
「…ここは大丈夫。ここも?」
アーサーが木の枝を地面や壁にコンコンと当てながら確認していく。
パッと見ても道具入れにしか見えないし小さい小屋だからあまり変な箇所はないように感じるね。
「毒や薬などの反応もありません」
ポタポタと周囲に謎の薬液をかけていたミドリも何もないことが気持ち悪いようで釈然としない顔で戻ってくる。
「まぁ毒とかなら何かあった時点で終わりだしよかったんじゃないかな?」
そう言ったとき、
「んぎゃ!なんじゃ!?」
リリスが小屋の奥辺りで転んだようだ。
「また…何やってんのさ」
「違うぞ!何かに引っかか…ん?転んだのか?余は…」
「はぁ?何言ってるの?今起こったことだよ?」
「ぬしこそ何を言っておる?余は下にあったものを…いや、何じゃったか?」
「…え?」
なんだろう?すごく気持ち悪い。
まるで転んだこと自体を認識していないような…。
「…!魔王様!その下です」
急にアーサーが床に手をやって調べ始める。
「ここが右側だと仮定して…」
ブツブツと何かを考えながら調べ続けるが何をやっているかわからない。
そして、当たりを付けたのか両手いっぱいに床をつかみ、グイっと上へ持ち上げる。
すると小屋の床の一部が取れたようで、急に地下へと進む穴と梯子が現れた。
「地下!?なんで今まで気づかず…」
取れた床の一部を見るとは取っ手のようなものがついていて、ジジ…ジジ…とホログラムのように代わる代わる擬態するように変化している。
「これ…幻惑魔法!だからこんな…でもこんな精密なものをどうやって…?」
幻惑魔法は基本的に一時的な目くらましのようなものだ。
こんな精密で気づかないような作りは見たことがない。
すると急にアーサーはキョロキョロと周りを見渡し始めた。
「え?あれ?私…。いえ、なるほど」
「どうしたの?」
「驚かないで聞いてください。…私はこの床下の扉を開けた認識がありません」
「…え?」
「これは幻惑魔法なんかじゃありません。それを超えた認識阻害です」
「認…識…?」
「床の扉を認識できない。認識できても忘れてしまう魔法。それがこの魔力の淀みと不可解な現象の正体です」
「…!」
ゴクリと生唾を飲み、全員で目を合わせる。
規格外すぎる。
わからない、正直納得なんてしたくない。
一体この下に何があるんだろう…?




