蹂躙
「…」
ジッとこちらを見る影勇者たち。
攻撃してこない?
どういうことだろう、正直もうとっくに攻撃してきてやられていてもおかしくない気がするのに。
でも好都合だ、数秒かもしれないけど戦闘を引き伸ばす体制になりたい。
「リリス、彼らから目を離さないように」
「わかっておる!」
「みんな、ゆっくり集まって防御を固めて…。葵さんもだよ、作業をやめて」
「え…え?…でも…」
「ごめん、それどころじゃなくなった。このままじゃ葵さんからやられる。全員で葵さんを守る陣形で」
「う…うん…」
じりじりと私の周りにみんなが集まってくる。
「ハルさん、チャンスじゃないんですか?一気に攻め込めば行けますぜ」
「いやダメだ、絶対に動くな」
ハーピィたちがざわつくが危機感が
その時影たちの口元がにやりと笑った気がした。
「う…!」
これは…多分こっちの戦闘準備が整うのを待っているんじゃないか?
どう見ても完全に舐められている。
「悔しいが勝てる気がせぬな」
リリスからも弱気な声が聞こえる。
「くっ…」
一応まだ罠が残っているので張ってはいる。
目の前の足元に沼。
通ると電撃が走る見えない壁。
首元に極細の糸を張って向かってきたら自動的に真っ二つになるようなえぐい仕掛けも用意した。
でもこの程度、簡単に突破されるだろう。
罠ということ自体気づかない可能性もある。
「ふぅ、いや落ち着け」
大丈夫、場所さえ把握すれば対処できる。
この罠は感知センサーだ、この糸が切れた瞬間に思いっきり魔法を放てば防御くらいは役に立ってくれる。
「落ち着け…落ち着…え…?」
糸が切れてる。
電撃も破られてる?
音も何も感じることができず、気づくのにワンテンポ遅れた。
つい寸前まで向こうにいた影勇者たちも見当たらない。
一体どこに?いや考えるな!とにかく魔法を!
「ファイア…」
「どけ!!中央じゃ!!」
背中を思いっきり押されたと思ったらドゴォン!!と音がする。
「うわっ!」
一体何が…!
後ろを見るとみんなが10メートルは吹き飛んでいる。
わざわざ真ん中までまで行ってみんなを…!
そして影勇者は葵の首をつかんでいた。
「う…あ…!」
「葵さん!やめ…!」
「うおおぉぉぉぉ!!王撃!!」
ドゴォン!とすぐ近くで轟音が鳴る。
「うあっ!」
私も風圧で後ろへ吹き飛んでいく。
その最中、煙から血まみれの王様が葵とともに吹き飛んでいくのが見えた。
ズザザ!と地面を転がって何とか踏ん張る。
「みんな!王様!」
グッと力を入れて立とうとするが力が入らない。
「うぐ…左足が!」
血がだらだらと流れている足を見てもう使い物にならないと悟った。
「あいつらはどこに…!」
顔をあげると目の前に4人の影が見える。
「あ…」
次の瞬間、顎に衝撃が走る。
「がはっ…!」
脳が揺れる。
蹴られたのだろうか?一瞬目の前がブラックアウトした。
その次はおなかに衝撃。
内臓が圧迫されて強烈な嘔吐感に襲われる。
「おっ…ぐ…!」
間髪入れずに全身あちこちに打撃が襲う。
「や、え…やめ…ぶぐっ…!」
これ…殺さずにただいたぶっている。
「はぁ…はぁ…がはっ!!」
どれだけ続いただろう。
目がかすみ、口の中が血の味がする。
いたぶられ続けてアドレナリンが出ているのかもはや痛みを感じない。
「…」
その姿に満足したのか影勇者は剣を抜いた。
刀身はかつての狼の牙のようにモザイク状になっている。
多分それで斬れば存在を抹消できるのだろう。
狙うのは私の首だ。
「ぐっ…」
ダメだ、指一本動かない。
…みんなは無事だろうか?
目をつぶり、これまでのことを思う。
あぁ、死にたくないな。
ここで終わるには未練が多すぎる。
この世界では大切なものを作りすぎた。
つらいことも多かったけどどうしてもまだ生きていたいと思ってしまう。
「…す…けて…誰か…」
涙が流れる。
しかしそれが血なのかどうかも私にはわからない。
そしてそんな願いは虚しく無慈悲にも剣が振り下ろされ…
ギイィン!という音がする。
「聞こえたぞ。…ふむ、ギリギリだな。生きてるよな?」
「あ…うぅ…ユウシ…エッド…」
本物の勇者がそこにいた。




