三章十一話[亀車に揺られ]
「にゃ〜! カメさん、早い早〜い!」
窓の外、流れていく景色を見ながらレイが騒ぐ。
「おい、ちゃんと座ってろって! 迷惑だろ!」
「あーいえいえ、アッシのことはお構いなく! 騒がしいのは慣れてやすから」
そう言って向かいの席で笑うのは、まるで山賊の下っ端みたいな顔の男。今回のお仕事で一緒になった、ポンタ商会の――
「――すみません“ラビ”さん。コイツ、亀車初めてで」
なんて、俺も初めてなんだけどな。
なんだよ、亀が引く荷車って! 馬は!? 走る亀とか、面白過ぎんだろ!
心の中でツッコミを入れる。
「島の出身なら無理もねぇです。まあ、ご安心を! ウチのワタリガメなら、目的地まですぐでさぁ!」
そうやって人懐っこい笑顔を浮かべるラビさん。
見た目に反して話しやすい人だな。流石は大商会の商人ってところか。
「ねぇねぇ、ご主じーん! レイ達、今どこ向かってるにゃ?」
「はぁ? お前聞いてなかったのかよ。最初に言ってたろ」
とは言ったものの、俺自身、亀車を見た時の衝撃のせいで記憶が曖昧だ。
「まあまあ、ちょうどいいや。改めて、仕事の話といきやしょう」
そう言うと、ラビさんは軽く咳払いをして説明を始めた。
「まず、アッシらが向かってんのはカルムの村。ここ光の大陸でも有数の砂糖の原産地でさぁ」
「砂糖の……」
そういえば、前にギリアンが言ってたな。近くの村で砂糖を作ってるとかなんとか。
パラモンで食べたデザート。それに使われてるのが、そのカルムって所の砂糖なら、これは期待できる。ちょうど手持ちの砂糖も少なくなってきてたし……個人的にも注文できたらいいけど。
「甘いの! レイ、大好きー!」
「はしゃぐな! 遊びじゃねぇんだぞ!」
「ヘヘっ、まあそう気を張らずに。ウチの副頭も言ってらしたでしょ? 兄ちゃん達ならこの護衛任務も大丈夫だ! って」
護衛……ねぇ。一応料理人なんだけどな俺。
『――謙遜すんな! あの水災とやり合って生きてんだ。そこらの騎士連中よりよっぽどやるじゃねえか兄ちゃん!』
出発前、ギリアンに言われた台詞を思い出す。
水災……ね。
別に、あの時は俺一人の力で立ち向かえたわけじゃない。
結果として、守れなかったものも多かったし。
そんな俺に今回の仕事が務まるのかどうか……正直自信はなかった。
願わくば、このまま何も起こらずに村まで辿り着ければいいんだけど。
「……ちなみになんですけど、これまでなにかに襲われたことってあるんですか?」
一応聞いておく。
なにもないのが一番。だけど、もしなにかあるなら相手を想像できた方が対処もしやすいだろう。
俺の質問に、少しだけ考える仕草をするラビさん。
「そうでやすねぇ。まぁこちとら色んな食材や金品を積んでますんで……野盗や獣なんかに襲われることはたまにありやすが……」
「が……?」
ああ、これは嫌な予感。
「近頃は、ちょいと奇妙なことがあって」
「妙って」
「なんにゃ?」
その瞬間、真剣な表情で話し始めるラビさん。
「それが――」
――ガタンッ!
突如、衝撃。
亀車が大きく揺れた。
「にゃわっ!?」
「うぉッ!?」
身体が座席から浮き上がる。
咄嗟になにかを掴もうとしたが――遅い。勢いを殺しきれず俺は荷台の扉に激突し、そのまま外へ投げ出された。
「グ……ってぇな……ッ!」
この感覚、なんだかトラックに轢かれた時のことを思い出す。
最悪な気分だ。でも、動ける。
脳が揺れる気持ち悪さを引きずりながら、俺はなんとか立ち上がった。
「なんだってんだ――」
――その時。
顔を上げた先で、俺は“ソイツ”と目が合った。




