三章九話[再現の際限]
「――よっしゃ! 火山炒め、いっちょ上がりぃ!」
「にゃー! おいしそうにゃー!」
「おお、こりゃあ随分豪快な料理だな兄ちゃん!」
テーブルに置かれた皿を前に顔を綻ばせるレイとギリアン。
「いただきにゃーす!」
「おうおう、相変わらずいい食いっぷりだな嬢ちゃん! そんじゃま、俺らもいただこうかね」
そうしてフォークを動かすギリアンに習い、商人達も次々に料理を口に運ぶ。
久しぶりに作った火山炒め。その出来栄えは、食べた皆の笑顔を見れば分かる。
再現成功……かな?
「ありがとうございます、ギリアンさん。厨房、貸してもらっちゃって……」
「良いってことよ! おかげでこんな美味い昼メシにありつけるんだからな! なぁオメーら!」
その問いに野太い声で応える商人達。
なにも知らない者が見れば、極道の集会に見えそうな光景だけど、大丈夫。そんなことはない。
ここは――ポンタ商会パラモン支部。その中の簡易的な厨房で俺達は食事を共にしていた。
「いや〜、しかし……思ったより早い再会で驚いたぜ兄ちゃん。まさか厨房を使わせてくれたぁ……部下に話を聞いた時は何事かと思ったもんだ」
「突然ですみません。他に当てがなかったので」
「まあ、それは全然構わねえんだがよ……」
そこでギリアンは一瞬言葉を切り、
「……なんかあったのか? その顔、ただメシ作りに来たって訳じゃねえんだろ? なんか入り用なもんでもあんなら用意するが……」
流石は商人、鋭いな。
確かに、欲しいものはある。その上で、試したいことも。だから、俺はここに来たんだ。
「物というか……教えてほしいことがあって」
「なんだ? 珍しい食材を扱ってる店なら色々知ってるが」
それはそれで気になる!
気になるけど、今はそれじゃない。
「……固有スキルって、知ってますか?」
単刀直入にぶつける。
その瞬間、ギリアン達が食事の手を止めた。
「固有スキル……ってぇのは天賦のことか? だったら、勿論知ってるがよ……持ってる奴はあんま見たことねえな」
「珍しいんですか?」
「まあな。俺の知る限りじゃ数人程度しかいねえ……って、兄ちゃん。まさか……っ!」
お察しの通り。
「実は……はい」
俺が頷いた途端、ギリアン達の間で感心したような声が上がった。
「凄え! そりゃ凄えぞ兄ちゃん! やっぱ只者じゃねえ。天賦持ちたぁな……俺の目に狂いはなかったって訳だ」
「あ、ありがとうございます」
こそばゆい。
まさかここまで反応されるとは、予想外だった。なんならこの世界の人間は皆持ってると思ってたくらいだし。
参ったな。これは当てが外れるかもしれない。
「……で? どんなスキル持ってんだ? ここまで来て出し惜しみはしねえだろ?」
眼帯が無い方の目を少年みたいに輝かせて聞いてくるギリアン。他の強面達も同じような表情で俺に視線を向けてくる。
まあ、別に隠してないし、いいだろう。
「――【再現】です。俺が持ってるのは」
「へぇ、そりゃなにができんだ?」
「食べたことがある料理とか……あと他人のスキルも、少しだけ再現して使えたりします」
そう言った時、ギリアンの目が大きく見開かれたのを、俺は見逃さなかった。
「ちょ、ちょっと待て! それ、本当かよ兄ちゃん?」
「え? まあ……今皆さんが食べてるそれも、とある店の再現料理なんで」
と言っても、おっさんが作ったものには後一歩及ばないんだけどな。
「いや、料理もだが、そっちじゃねえよ! 他人のスキルってのは……なんでも再現できんのか?」
ああ、そっちか。
「なんでも、は無理っぽくて。よく分かんないですけど」
正直、できないことの方が多い。
この再現スキル、船の中で色々試してはみたけど、万能ではない。
料理の味や見た目なんかは材料さえあればおおよそ再現できる。でも、他人のスキルについては、なにか条件があるのか全ては再現できなかった。
カンナの風とか、レイカの氷とか……便利そうだったんだけどな。
「成る程……そう都合の良いもんでもねえってことか」
「でもでも、ご主人は凄いにゃ! レイが教えたスキルもちょっとだけ使えるようになったにゃ!」
あの島の一件以来、俺はとにかくできることを増やしたいと思った。その一環として、渡航中、レイには盗賊スキルを少し教えてもらった訳だけど……。
できるようになったのは――【暗視】と【消音】の二つ。
夜目が効いたり、自分の気配を消したり……そんなスキルだ。
「だから、一つ試したくて」
「俺ら商人のスキルを教えろって、そういうこったろ?」
流石、理解が早くて助かる。
俺には、力が足りない。
自分の小ささは、あの島でも……ついさっきも、思い知ったばかりだ。
だから――
「――お願いします!」
小細工は不要。誠心誠意、頭を下げる。
「……まあ、しゃあねえか。タダ飯食うって訳にもいかねえしな」
「ありがとうございます!」
「でも、一個だけだぞ? 職業柄、あんま手札は晒すもんじゃねえからよ」
それでも、ありがたい。
俺はもう一度頭を下げ、ギリアンの皿に肉を追加してやった。
「……そうだ。代わりにって訳じゃねえが、俺からも一個、頼んでいいか?」
「はい、もちろん」
なんだ?
改まった様子のギリアンに細やかな不安を覚えながらも俺は頷いた。
「よし、言質取ったぜ? そんじゃ、ちょいと仕事受けてくれよ。報酬ははずむからよ」
「えっと、それ大丈夫なやつですか?」
闇バイトみたいなやつじゃないよな?
この場に集まる強面を見てると、どうしてもそんな想像が頭をよぎる。
「まったく安全……とは言い切れねえが、大丈夫だ! あの水災とやり合った兄ちゃん達ならな!」
そう言うと、ギリアンはニヤリと笑いながら詳細を話し始めた。




