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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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94.秘密と義妹の決意

本日二話目の投稿になりますのでご注意くださいませ。

 賢者の学院における教育部門は原則としてそれぞれの地域、都市、国家に在籍するものとなっている。転校も原則は国内限定で相応の理由がある場合とされている。


『国家を越えた転校が可能かどうか、かぁ。ミランダちゃんとしては可能だと思うの?』

「原則がある以上例外もあるとは思うのです。屁理屈のレベルかもしれませんけれど」

『うーん…………。鍵は“相応の理由”だよね。それがクリア出来れば可能だと思う』

「フィナのお家は実はお母さんが冒険者でフィナ自身もドレス姿であっても自分の身をある程度は守れるように護身術を小さい頃から叩き込まれているんです。……それが襲われて重傷を負った」

『つまりミランダちゃんは帰国した後に襲撃されて私に対する材料にされることを危惧している……そういう事だね?』

「はい。私たちとお姉様は深く関わりをもってしまいました。サンドラの件が幕引きしない可能性が高い以上……」

『私たちの庇護下にあったほうが確かにいいかもしれないね。うん、分かったよ。似たような事例が過去になかったか調べてみる』

「ありがとうございます。ご迷惑おかけしてごめんなさい、お姉様」


 申し訳なさそうにしているミランダちゃんを見ていると思わず抱きしめて頭をなでなでしたくなってしまったのだけど今は間にテーブルがあるから出来ないのでぐっと我慢する。むぅ、座る位置を間違えたかな。


『お話しはこれだけ?』

「いえ。あともう一つあります。これは完全に私だけの事なのですが……卒院後はフェンリル大神殿に入り、お姉様に仕える為に“聖女”としての修行を一年間、して参ります」

『ええっ?!』

「お姉様は……右内股の付け根に特別な痣を持っていらっしゃいますね?この前温泉にて確認してからずっと考えていました」

『………………』

「我が一族の言い伝え。それを果たしたいと思います。どうか、お許しくださいお姉様」

『………………はぁ。その様子じゃ引く気はなさそうだし、仕方ないのかな。条件は二つ』

「はい」

『主従関係は拒否するよ。今までどおりの関係で私に可愛がられて?それから二つ目はお互いに隠し事はなしね。そして私に関する秘密は私が死ぬまで秘密にして頂戴』

「二つ目は当然ですけれど……一つ目は」

『ダメなら認めないよ?』

「うっ、わかりました……」

『よろしい。……私のこの痣の意味を知っているのは今のところ両親だけだからよろしくね?』


 油断したのかなぁ。この痣の意味を理解されてしまうなんて。そしてそこから彼女の人生を決める上での重大な決断をさせてしまうまで私は気付く事が出来なかった。お母さんにはこの痣を誰にも知られてはいけないと言われていた。だから普段は私の皮膚の色に酷似した隠蔽用の魔法のシートを貼りつけている。勿論お風呂に入るときも、だ。ただ、毎日いつまでも貼りつけていては衛生上まずいからお風呂から出たら貼り替えているんだけど……まさか逆上のぼせて倒れていたミランダちゃんに貼り替えの一瞬を見られていたなんて。


『ミランダちゃんの認識、少し改めたよ。良い意味でね。期待しているけれど……だからと言って無理はダメ。いいね?』

「はいっ!よろしくお願いします!」

『どうやら馬車も戻って来たみたいだし、楽しんできてね。支払いは私の名前にする事』

「……いつもすみません。ギルド登録するようになったら働きでお返しします」

『ん。それでいいよ。学生のうちは、ね』


 エレンがその少し後にリリーちゃんと呼びに来たのでミランダちゃんを送り出し、フィナリアちゃんのことを頼んで、ついでに時間が余るようならハカナちゃんのところでお茶して仲良くなってくるようにと言っておいた。ウィシュメリアでは貴族階級の垣根は必要ないから早いうちに取り払ってほしいしね。

 屋敷のエントランスまで見送って、それからヨハンに支えて貰いながらお母さんのいるキッチンへと向かい近くの椅子に腰掛ける。


『何か手伝う事はある?お母さん』

「じゃあその籠のお野菜、皮剥きお願い」

『ん、了解』


 お母さんはお魚の下拵えをしているようで相変わらずの手際よさ。私も黙々と手慣れた手つきで愛用のマイ包丁を操り剥いていく。二人きりで話した内容については何も聞いてこない。


『お母さん……ごめんなさい』

「どうしたの?」

『ミランダちゃんにばれてたみたい』

「そう…………まぁしょうがないわ。イーサニアの血筋だし、大丈夫でしょう?」

『うん。卒業したら大神殿、入る、って』

「…………そう」


 再び沈黙が場を支配する。響くのは包丁がたてる下拵えの音だけだ。しばらくしてからお母さんの包丁の音が途絶える。顔を上げるとお母さんは微笑んだままの顔で私に、


「そんなに不安な顔しなくてもなんとかなるわよ、ウィンテル。貴女の欠点は考えすぎること。確かに不安なのはわかるけれど、今から心配しても始まらないわ。肩の力を抜いて。とにかく笑いなさいな。そして出来ることに全力を注ぎなさい?」


 その野菜はウィンテルの食べる分だからね、と集中しきれずに形が不恰好になってしまった野菜の一部を指摘されて、そして私が今するべき事を改めて教えてくれたお母さんに私はまだまだ未熟だなぁと思い知らされたのだった。


***


「……ウィンちゃん?またベッドから抜け出して……アイシャちゃんに言い付けるよ?」

『葉月ちゃん……少しくらいは風に当たらないとって思っただけだよ。お帰りなさい』


 夕暮れ前に葉月ちゃんがお父さんに守られて帰宅したところをバルコニーから出迎えればいきなりお小言をいただいた。でもさ、ずっとベッドにいるのって本当に疲れるんだよ。ましてやミランダちゃんのことやフィナリアちゃんのこともあったからリフレッシュしたかったんだ。


『悪いけれど荷物置いたらお部屋に来てもらえる?』

「はいはい。ついでにお茶淹れてあげる。レックスさんにいい茶葉もらったんだ」


 葉月ちゃんが荷物を置いて来るまでに私はゆっくりとバルコニーから室内へ戻り出入口を閉めて代わりに窓を少しだけ開ける。これくらいなら多目に見てもらおう。


「日が沈んだら窓閉めるからね?」

『はいはい。それで……貰った茶葉?』

「ふふふふふ。ユールシア産の、緑茶だよ。しかも最高級」

『え。本当に?ウソー?!』


 一応この世界にも緑茶は存在していた。それもユールシア王国にのみ。理由や由来は未だに謎で歴史を調べている研究者はユールシアの地下図書館に目下冒険者を雇ってアタックを繰り返しているそうだ。


「最近よく働いているからボーナス代わりにですって。……はい、どうぞ」

『わーい、ありがとうー』


 異世界日本にあるような急須はこちら側には無いので紅茶用のポットを代用品にして使っている。葉月ちゃんからコップに淹れて貰った緑茶をありがたくいただきながら、早速その忘れそうな、しかし元日本人としては忘れがたい独特のおいしさを堪能する。……日本人に生まれて本当に良かったと思える瞬間だ。

 お互いに言葉もなくゆっくりと飲み干して、そして懐かしい味にホッと一息を吐く。そしてもう一杯注いでもらって、それからまた一飲みする。そうして人心地ついてから葉月ちゃんに痣の話以外の出来事を説明して協力を求めた。


「成る程ね。了解だよ。お夕飯の時に紹介してくれればあとはうまくやるから大丈夫。任せてよ」


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