第六章 残酷な神託 ①
「見に行かないの?」
バラ園のベンチで空を眺めていると、不意に声をかけられた。振り返れば、ミカドが立っている。
彼が近づいて隣に座ろうとしたので、少し横にずれる。
「聖女の私は、血の穢れに触れられないから」
「……そっか」
「釈放されたのね」
「まあいろいろあったんだよ、俺も。今は宮殿内なら自由に動ける」
ミカドも同じように空を眺めた。彼の横顔には、諦めにも似た何かが浮かんでいる。
通り抜ける風はアンナを責め立てるように、残酷なほどに穏やかだ。
「泣いてるかと思った」
ミカドが、憎らしいほどの青空に目を向けたまま、ぽつりと言った。
アンナは視線だけで彼を見て、しかしすぐに戻してから、落ち着いた声で応える。
「私も、泣くかと思った」
苦しいはずなのに、いくら時を経ても涙は流れなかった。まるで心ごと凍りついたように、どこか遠い。
何が正しかったのかわからない。本当にこれで良かったのか誰も教えてくれない。
アンナにわかるのは、明日も当たり前に続くはずの日常は、簡単に崩れるということだけだ。
アンナは、ぐるりと周囲を見回してみる。もう何度も見たバラ園には、季節外れのバラがいくらか咲いていた。
どれほど時間が経っても、呼びに来る声はもう無い。
ゴーンゴーン。教会の鐘が正午を告げる。
その瞬間、遠くの歓声が、静かなバラ園に響き渡った。




