↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女なので、今日も正しく生きようと思います  作者: 秋野 七種


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/12

第五章 戦火の足音 ①

 ミカドが投獄されてから、一週間が経っていた。隣に戻った気配はないから、おそらくまだ冷たい地下牢にいるのだろう。

 彼に会いに行こうと思ったが、勇気が出ずにいた。

 彼が不信心なのは問題ではなかった。彼はまだ神を知らないだけなのだから、それは知っていけば良い。

 それよりも、彼が深く傷ついている姿を見たくはなかったのだ。異世界からやって来て、重い責務を背負わされ、それ以外価値がないと言われてしまった。そんな彼を、この国の人間であるアンナが癒せるとは思えない。

 重い足取りで歩いていると、複数の足音がバタバタと急ぐように近づいてきた。グレンが警戒して前に立つ。そうなると、アンナは彼の背にすっぽり隠れてしまい、何も見えない。

 誰かが、アンナたちの前で止まった。アンナは横から顔を出す。そこにいたのは、この宮殿全体を警護する宮殿警護兵の数名だった。

 そのうちの一人が、書状を広げながら言った。

「グレン・シモムラ。お前を、間諜の疑いで逮捕する!」

 アンナは驚いて、警護兵たちに連れて行かせないように腕を掴む。

「ちょ、ちょっと待ってください。逮捕って、どういうことですか?」

「聖女様、どうかお離れください。詳しいことは、司法省の者が説明に参ります」

「できません! 彼は私の大切な護衛であり、友人です。理由を話すまでは、絶対に離れませんからね!」

 絶対に譲らないと腕をがっしりと掴む。四六時中一緒にいるグレンに、間諜行為を働ける時間があるはずもなかった。そうでなくとも、友である彼を疑うはずもない。

 だが、その手をそっと離したのはグレンだった。

「アンナ様、どうか落ち着いて。きっと何かの間違いです。私が貴方を裏切るはずがない。きっと、話せばわかってもらえます」

「で、でも……」

「逮捕状が出ているということは、どうあっても私は逮捕されることになります。変に抵抗する方が面倒です。大丈夫、どうせすぐに解放されますよ」

 グレンは落ち着いた様子で、言い聞かせるように話す。その声はいつになく真剣なものだった。

 アンナはしぶしぶ身を離す。

「絶対に、すぐに戻るのよ」

「もちろんです。私の居場所は、アンナ様の隣だけですから」

 アンナが身を離すと、グレンはすぐに警護兵によって縛られた。そして引っ張られるようにして歩かされる。時折つまずきそうになる姿は、まるで罪人だ。

「ちょっと。その人は私の護衛騎士です、丁重に扱ってください」

 アンナの言葉に、警護兵の拘束が少し緩む。歩きやすくなったようで、グレンは自分の足でゆっくりと歩いていく。

 グレンの後ろ姿は凛としており、誰に恥じることのないものだった。



「機密文書が盗まれそうになった?」

 アンナは、目の前の男の言葉に驚いて、声を上げた。

 司法省の者が来るのを待っていられなかったアンナは、グレンを見送ったその足で司法省のドアを叩いた。

 アンナを出迎えてくれたのは、司法省長官をしているクリスだった。さすがに聖女への対応を、適当な役人に任せるわけにはいかなかったということだろう。

 彼は長官室に招き入れると、話せる範囲で事情を説明した。

「そうです。幸い犯人は突き止めたのですが、それが教会護衛騎士の一人でした。それで問いただしたところ、誰かに頼まれたことだけはわかりました」

「それが、どうしてグレンと関係あるのですか。その男がそう言ったの?」

「いえ。その男は服毒自殺を図り、一命は取り留めたものの昏睡状態で、話を聞ける状態ではありません」

「それなら、グレンは関係ないのでは」

「ただ、その男は位の低い護衛騎士でした。彼ではあの部屋にアクセスできない。アクセスできるのは、貴方か国王陛下、教皇、枢機卿、教会護衛長官、そして聖女付きのグレン殿だけです」

「なら、他の者は?」

「盗み出された機密文書は、国王陛下から護衛騎士長までは、そもそも知っている内容です。わざわざ盗み出さずとも、情報を書き起こすのは可能です。知らないのは政治に携わらない聖女様とグレン殿だけなのです」

「そんな……」

 彼の話しぶりからして、おそらく国の防衛に関する重要機密だったのだろう。それらの情報は政治を行う上層部が常に把握し、外交や内政に役立てている。

 最高位に位置する聖女は、政治に関わることは無くとも、すべての施設にアクセスできる。そしてアンナを護衛するグレンも、当然同じ権限を持っている。

 クリスは動揺するアンナを気遣いつつも、続ける。

「ドラゴニアが最近、武器や弾薬、馬を集めているのです。それと、食料も」

「それは、一体どういう意味でしょうか」

「通常、このような動きをした場合に考えられるのは……戦争です」

「戦争!」

 ドラゴニアとオルゲイト神聖王国は、長い間友好的な関係を築いていた。外圧には手を取り合い、何度もそれを退けた。互いに対等であり、国民レベルで親しみを覚えているはずだった。

 そんなドラゴニアが戦争を仕掛けようとしているなど、信じられるはずもない。

「でも、オルゲイトに攻めてくるとは限らないのでは……」

「ドラゴニアに武器などを売っているのが、フィンデン帝国なのです。そしてカラマイト連合同盟はそれを静観しています。軍部の話では、何も情報が入っていないのは、我が国だけなのだそうです」

 何の目的で武器などを買っているかは不明だが、怪しい材料は揃っているということだ。

 その話を聞いて、アンナはまさかと思いクリスに尋ねる。

「グレンがドラゴニアの人間だから、疑っているの?」

「……。……そうです」

 肯定するのが躊躇われたらしいクリスは、それでも苦々しく頷いた。

 アンナは立ち上がり、怒りを隠さないまま言った。

「グレンが嘘偽りなく私に付いてくれていたことは、誰よりも私が知っています! ドラゴニア出身だからって、関係ありません!」

「それは取り調べでわかります。潔白がわかれば、きっとすぐに解放されますよ」

「ではそれはいつですか? どのようにしたら、疑いが晴れるというのですか」

「それは、言えません。いくら聖女様でも、守秘義務のあることについて教えることはできません」

 それは明確な拒絶だった。司法に関しては聖女の出る幕ではないと。あるいは、情報を渡せばアンナが何かするかもしれないと疑っているのか。

 いずれにせよ、グレンはこれから厳しい取り調べを受けることになるだろう。やっていないことをやっていないと証明することはできない。曖昧な証拠で有罪判決を受けることは無いだろうが、長い間拘束されるのは間違いない。

「グレンに、会いに行きます」

「……ご案内します」

 拒まれるかと思ったが、クリスは意外にもあっさりと承諾した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。