「雑草だって花は咲かせる」
◆女子個人組手、準決勝戦③ 「雑草だって花は咲かせる」
「みぃーこぉとーっ! まだまだ時間あるわよぉ! みーこぉとーっ!」
「みっこちゃん、ファイトーっ!」
「みこちんーっ! いけーっ!」
とんでもなく大きい、お母さんの声。梨花と真希奈の声すら霞んじゃうほどの声量。それがメンホーの中でピンボールみたいになって響いているよ。
十秒で負けはしなかったけど、実力差は見てのとおり。技も全然当たらない。どうしよう。
でも確かに、先生が言ったとおりだ。落ち着いて対処すれば何とか見えるし、際どいけど辛うじて反応も出来る。
それにしても、彼女に勝てるレベルの人がいるなんて、未だに信じられないよ。
「(この痛いの、何とかしなきゃ! ・・・・・・ええいっ! もう、一か八かだ!)」
あたしは開始線で、自分の腰元を思いっきり拳で叩いた。彼女にやられた痛みと、あたしの拳の痛みがうまく相殺したのか、あの痺れるような痛みが少しだけ和らいだ感じ。よし、動ける。
「「「「「 すえながせんぱぁーい! ファイトでぇーすっ! 」」」」」
再開と同時に、海月女学院高校の人たちが、一斉に彼女へ声援を送った。
それを受けた彼女の目はさらにギラリと妖しく光り、輝きが増した。彼女の周囲に渦巻く闘気が、見えそうな感じだわ。
「くすっ! あははっ! ありがとー、みんな! ワタシ、さらに飛ばすよぉッ!」
わかるよ、その気持ち。主将ならわかる。
同じチームメンバーの気持ちを背負って、部の柱として頑張らなきゃならない立場だもん。
ましてや後輩がいれば、お手本にならなきゃいけないもんね。
いいよね、そっちは後輩がいっぱいいてさ。うちは、もう、あたしたち三人しかいないんだよ。
「(ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・ふぅ・・・・・・。よ。よぉし、痛みが少し、和らいだかも!)」
「へーッ! ワタシの裏技をそーやって打ち消す人、初めて見たよ。面白いねぇッ、なかなか!」
「(そっちこそ、顔は笑ってるクセに、やることがエゲツないんだから! 信じらんない!)」
「あははっ! まだまだ、ワタシの空手の一端を・・・・・・見せてやるよぉッ!」
彼女は笑いながら、鋭い輝きの瞳を光らせて、上段と中段のワンツーを突いてきた。
そのスピードは、まるで音速。弓道部が放つ矢より速いんじゃないのかって感じ。
「(は、はっや! でも・・・・・・何とか、見える! 避けろーっ!)」
あたしは、彼女の一発目をのけぞるように躱した。それとほぼ同時に飛んできた二発目は、横へ降った腕で奇跡的に弾くことができた。二つ食らったら技有りで、終わっちゃうところだった。
すると彼女は、その突っ込む勢いを緩めることなく、あたしに寄り掛かるようにしてくっついたの。
ぴたっとくっついているから、これじゃお互い、何も決め技は出せない。早く離れてほしい。
主審も、早く「止め」をかけてほしいんだけどな。膠着状態だし。彼女も、何がしたいんだか。
その時、あまりに距離が近すぎるからか、お互いのメンホーがカチンと当たり、目が合った。
「・・・・・・くすっ! 『これじゃ何も出来ないよね』って顔だよねぇ、それッ?」
「(な、何言ってんの! だって、こんな距離じゃ・・・・・・)」
不気味すぎる。彼女はあたしよりもかなり小柄なのに、なぜか自分より大きく感じる。
しかも、まるで大木か何かとくっついているかのような、ずしんとした重さ。あたしが押しても何しても、彼女を動かせる感じがしない。
何なのよ、これ。真希奈より重く感じるなんて、ウソでしょ。
「・・・・・・んっ! いけない! 水琴さん、その場から離れて! 何か、狙ってる!」
あたしが先生の叫び声に気を取られた一瞬の隙を、彼女は見逃さなかった。あたしの右脇腹に、彼女の鉄球のような拳が捻り込まれた。
それはゼロ距離で放った技なのに、普通の突きを超えた大砲のような破壊力。
まるで理解できない技だった。その衝撃力に、たまらずその場であたしは膝をついてしまった。
打たれたのは肝臓。お腹の中でナマズが暴れてるかのような鈍痛が広がったの。
「止め! 元の位置!」
遅いよ主審。もっと早く切り離してくれれば、こんなワケわかんない技、受けなかったのに。
それにしても、恐ろしすぎるよ末永小笹。
普通の技のキレ味だってとんでもないのに、こういう、反則ギリギリな裏技を平気で使ってくるんだもん。ポイントにはならないけど、あたしのダメージは深刻だ。
彼女、「強い」を通り越して、「恐い」よ。
「あはっ! ナイファンチの形にある、鉤突きだよぉ! よぉく立てたねぇッ? すごーい!」
「(げほ・・・・・・。うぐっ! ナ、ナイファンチ? あたしの流派にはそんな形、ないわ・・・・・・)」
「あははっ! 立てただけでもスゴイと思うよぉッ! これでアバラ折れた人もいるしさーッ」
恐ろしいこと言ってるな。どんな稽古をしたら、こんなに危ない威力の技になるんだろう。
食らったあたしは、よくわかる。彼女の放つ突きは、本気で打ち抜いたら人体を簡単に破壊できる威力だわ。今の鉤突きだって、あの状態でどうやって打ったのか、もうワケわかんない。
こんなの何度も食らってたら、あたし、骨がバラバラになってクラゲみたいになっちゃいそう。
あたしが先生と形稽古をみっちりやってきたのと同じく、彼女もまた、組手だけではなく本格的な空手の稽古を積み上げてきたんだろうな。
あたしとは稽古量のケタが違うんだろうけどさ。
「水琴さん! 呼吸を整えて。三戦の呼吸で集中力を戻しましょう!」
ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。気を、お腹の底に落とし込むようにして。だよね、先生。
末永小笹、そっちは大輪の花だろうけど、雑草だって花は咲かせる。まだ諦めないからね。
「くすっ! 三戦の呼吸、かぁ・・・・・・。あははっ! ちょっとは空手を知ってるのねーッ!」
バカにしないでよね。いつまで笑ってられるかな。
あたしの咲かせる花、今から見せてやる。




