「深呼吸もできねー」
◆女子個人組手、準決勝戦④ 「深呼吸もできねー」
「「 みこちん / みっこちゃぁん! がぁーんばれぇーっ! 」」
「みーことぉーっ! がんばるのよぉーっ! でも、ケガはしないで頂戴ーっ」
お母さんの声を、今度は梨花と真希奈が上回った。
鶉山女子高の陣地は、観客席の中でも一番狭いくらいなのに、そこからの声が一番大きい気がする。
みんな、応援ありがとう。まだまだあたしは、末永小笹と真っ向勝負で戦うよ。
「たあぁいゃーっ! たあぁっ!」
「くすっ! ワタシの鉤突きを受けたのに、まだ動けるのねーッ! あははっ!」
強い。速い。巧い。彼女はまるで牛丼屋みたい。あたしは、どんな三拍子なんだろう。
突きと蹴りを絡めたあたしのコンビネーションは、完璧に先読みされて見切られてる。
あたしが突きを一発打つ間に、彼女はすごい速さで視界から消える。目で追うのもやっと。そして、彼女の受け技で流されるたびに、一瞬で姿勢を大きく崩される。
何か、知らない技をかけられてるのかも。
「(はぁ、はぁ・・・・・・。強い! そ、底が知れない強さだ・・・・・・)」
「あははっ! けっこういい攻撃だねッ! さぁ、どうしたの? 続けようよッ!」
この先、どうやって彼女を切り崩そうか。パワーもスピードも反応速度も、どれを取ってもあたしより彼女の方が何倍も能力は上。
それは、始まる前からわかってはいたんだけどさ・・・・・・。
■ 末永小笹 6―0 栗原水琴(C2×1 ※場外)
もう一回場外に出るか、危険行為以外のペナルティ行為をやっちゃうと、相手に1ポイント入っちゃう。
もう、場外に逃げることもできない。2ポイントとなる「技有り」以上を取られても、だめ。
「あははっ! 初めてワタシと当たる人にしちゃ、ガッツあるよッ! なかなかだと思うよー?」
はぁ。初めてじゃないから。あたしは去年、一度当たってるんだよ。秒殺されたけどさぁ。
やっぱり記憶に無かったか・・・・・・。
だったら今回、記憶に残るような印象を与えてやるから。
「水琴さん! うまく間合いを計って、再度、仕掛けましょう! 単発ではなく、振り分けて!」
「(振り分け、か。・・・・・・わかりました、先生! ・・・・・・やってみます!)」
「くすっ! 目の色がまた変わったねッ! ・・・・・・そうこなくっちゃ、面白くないモンねッ!」
あたしが今戦ってるのは、全国トップレベルに君臨する選手。だったらこれは、県内大会ではなく、あたしにとっての全国大会だ。
きっと、全国に行ったら、こういう桁違いに強い相手がゴロゴロいるんだろうなぁ。やばいね。
何にせよ、とにかく相手の方が実力が上である以上、待っていたら絶対やられる。彼女の連続攻撃や変化技は、あたしの力じゃ全てを防ぎきれる気がしない。
だったら先に攻めなきゃ。さっきはたまたま防げただけだろうしさ。「攻撃は最大の防御なり」とも言うじゃん。
「たぁいやぁーっ!」
だから、もう、迷わずに仕掛けた。梨花や真希奈の声援が、あたしのところへどんどん届く。
「「 いいぞぉ、みっこちゃーん! / いけいけ、みこちん! 」」
あたしの拳が彼女の顎と腹部をめがけて飛んでゆく。踏み込む間合いとタイミングはバッチリ。
でも、彼女は、「くすっ」と笑っていた。エコーがかかったかのように、あたしの両耳に、彼女の小さな笑い声が入ってきた。しかもその笑みからは、溢れんばかりの余裕が見えた。
あたしの背中に、悪寒が走った。
このまま突っ込んじゃいけない。そんな気がして、勢いに乗った身体を引き戻そうと両足に力を入れ、出した拳と共に重心を後ろに引こうとした。
その時・・・・・・。
「あははっ! ツアアアアーーーーーイッ!」
彼女は電光石火の速さで、あたしのみぞおちへ強烈な前蹴りを放ってきた。
その蹴りは見事にあたしの腹部へ突き刺さった。まるで米袋を床に落とした時のような音が、身体の中に響いた。
でも、あたしは引き戻した両拳で挟むようにして、彼女の前蹴りを瞬間的にキャッチ。ただ、その蹴りがあまりにも凄まじくて、悶絶して床に突っ伏してしまった。ものすごく重い蹴り。
キャッチして威力を多少は弱めたはずなのに、内臓を通り越し、背骨から背中全体まで突き抜けるかのような衝撃だった。
ちょっとしたベニヤ板なんかじゃ、数枚重ねても簡単に割れるんじゃないかな。
「うぇ・・・・・・。け、けほけほぉっ! ・・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・かは・・・・・・っ・・・・・・」
「くすっ! よく止められたねぇッ? ・・・・・・ねー? 足、そろそろ離してくれないかな?」
あたしは、彼女の足を掴んだまま、立てなかった。衝撃が強すぎて、息ができない。
何とか一呼吸をしようにも、苦しすぎて、息が吸えない。
むしろ、気持ち悪くなってきた。吐きそう。
「ああ! みっこちゃぁん!」
「だ、だめだ、みこちん! ありゃ、深呼吸もできねー状態だよ!」
彼女の蹴りはあたしが掴んでいるから、引き戻して残心を取れていない。だから、ポイントを取られることはなかった。
でも、その代償で、また深いダメージを受けてしまった。
主審は「赤、当てないように! 忠告!」と言って、彼女へ、ペナルティを一つ与えた。
■ 末永小笹(C1×1 ※強打) 6―0 栗原水琴(C2×1 ※場外)
「あははっ! 思っていた以上に、ねばるなぁッ! ・・・・・・くすっ! 頑丈だねーッ?」
何だかんだで、試合開始からもう一分が経っていた。
まだまだ。あたしは、ここからだよ。




