「忘れもしないよ、その名前」
◆準決勝戦、開始! 「忘れもしないよ、その名前」
《 ・・・・・・――――選手! 青、鶉山女子高校、栗原選手! 》
会場内の応援ボルテージが上がっているためか、大歓声で、呼び出し係の声がかなり聞き取りにくい。でも、間違いなく今、あたしの名前呼ばれたよね。ついに、始まるんだ。
「(いよいよだ。・・・・・・やるぞ! やってやる!)」
安全具の「メンホー」を装着し、あたしはコート端で主審の「選手、中へ」の指示を待つ。
あたしの目には、赤側で同じように指示を待つ、「彼女」の姿がずっと映っている。
去年の十一月に開かれた新人大会から約七ヶ月。そのうち、あたしが本気で鍛え上げたのは、二ヶ月半ちょっと。
人から見れば付け焼き刃だと思われるかもしれない。でも、あたしは、先生の厳しい稽古を毎日続けて、ここまで一気にレベルアップできたんだっていう強い思いがある。
やってやろうじゃないの。相手は国内トップの選手。やってやろうじゃないかっ。
もう、十秒なんかで蹴散らされたりしないから。楽勝だなんて思わせないから。
華々しい空手の道を歩んでいる花形スターと、細々と植わってただけの雑草選手が、大激突だ。
「水琴さん? 気負いすぎは良くないよ。こういう時こそ、一旦、気を静めましょう」
「・・・・・・はい・・・・・・と言いたいところなんですけど、先生・・・・・・」
「どうしたの?」
「あたし・・・・・・もう、全身の血が沸騰しそうなくらい、昂っちゃってて・・・・・・」
ずっと、この場に立った時からずっと見ていたからわかる。「彼女」は戦闘モードに入っている。全身から、とんでもない威圧感を放ち始めてる。それが、あたしの身体を構成する細胞全てを振動させている感じ。
すごい圧力だよ。でも、あたしも早く全てをぶつけたくて、ウズウズしてるの。
「見てよ、先生。・・・・・・あたし、今から、あの圧力の中に飛び込むんですよ。・・・・・・ごくり」
「これは思っていた以上に、すごいわね。・・・・・・水琴さん。武運を祈るよ。頑張って!」
向こう側にいる「彼女」が発しているオーラというか気迫というか、何だかよくわからない何かを、先生も感じたみたい。あたし、先生が冷や汗垂らしているの、初めて見たかも。
そしてついに、主審が「選手!」と言って、コートに入るよう合図をした。
大歓声が、メンホー越しに両耳へと流れ込んでくる。「彼女」が、あたしの目の前に、立った。
あたしの頭の中は、「彼女」の名前でいっぱいだ。忘れもしないよ、その名前を。
―――― さぁ、勝負だ! 海月女学院高校三年、末永小笹っ! ――――




