「花と雑草の戦い」
◆準決勝戦、点呼確認後 「花と雑草の戦い」
「みっこちゃんっ! いよいよ、あの人と当たるんだね! がんばれーぇ!」
「梨花! ありがとーっ! あー、やっぱ、緊張するわ」
「そりゃそうだよーぉ。だって、相手は、全国ランキングトップらしいじゃーん!」
招集所へ、早々に負けてしまった梨花と真希奈が声かけに来てくれた。このノリが、何とも普段と変わらなくて、良い意味での「ユルさ」となってリラックスできる。
あたしのことを、梨花は「みっこちゃん」、真希奈は「みこちん」と呼ぶ。あたしは二人に対して普通に名前呼びなんだけどね。
「みこちん、骨は拾ってあげるから! もう、やれるだけ、やっちまいなよー」
「真希奈ぁ、そんな縁起でもないこと言わないでー。あたしは、本気で勝ちに行くから!」
「相手は三月の全国選抜大会でも優勝してるし、アジアでも上位らしいかんねー・・・・・・」
二人が言っているとおり、これから当たる「彼女」は、高校空手界で日本のトップランクに立つ超実力者。
そんな選手と当たれるってことは、ある意味で幸せだと思う。だってそんなトップ選手、普通はそう身近にいないと思うから。
お昼の休憩時間中、「彼女」がどんな人なのか、先生がざっくりと話してくれた。
先生は英語教諭なんだ。「彼女」のお母さんも英語教諭らしく、研修とかでたまに会うんだって。
「彼女」は、元々は沖縄出身。去年のインターハイでは形も組手も注目の的で、全国の名門相手でも次々と勝ち上がったんだって。そして今、高校空手全国ランキング一位の座に君臨している。
先祖も空手の有名人らしく、空手の本場である沖縄で、スポーツとは全く別物の空手を身に付けてきた本格派中の本格派。言わば、空手の花形スターみたいな存在。もう、空手エリートだよね。
噂では、三月にあった震度6以上の大地震でも、揺れの中で平気だったらしい。空手で身に付けた基礎パワーや、体幹の強さがそれほどまでに強いってことなんだろうか。尋常じゃないよね。
今や「彼女」は、アジアジュニア選手権でも形で銅メダル、組手で銀メダルに輝いたほどの選手。むしろ、それを上回る人がアジア内にいるというのが驚き。世界って広いな。
そんな選手に、道端の雑草レベルみたいなあたしが挑む。レベル低いままラスボスと戦うRPGみたいな感じかも。
仮に、この大会が公式ギャンブルOKな場だったら、賭けは成立しないと思う。だって、どう考えたって、アジアの銀メダリストが市民大会でやっと優勝のあたしに、負けるとは思えないでしょ。
「何言ってるの、水琴さん。大会に、大きいも小さいもないのよ?」
「え?」
「そうでしょ? 市民大会優勝も、アジア選手権銀メダルも、どちらも立派な競技の実績よ」
「だ、だけど、先生ー・・・・・・」
「仮にアジア選手権が全員白帯の初心者で、逆に市民大会が日本代表級の選手ばかりだったら?」
「そ、そんなのありえないですよー。それじゃ、大会レベルがあべこべに・・・・・・」
「そうね。だから、どんな大会でも大会は大会。実績は実績。自信を持ちなさい、水琴さんっ」
「そ、そっか・・・・・・。・・・・・・なるほど。・・・・・・そんな考え方も・・・・・・」
あたしはつい、先生の言葉をその場で深く何度も考えてしまった。
「ファイト、みっこちゃん! 美季先生の鬼特訓を積んだんだし、きっといける! ・・・・・・はず」
「みこちん、応援してっからね!」
「・・・・・・よぉし! ありがと、二人とも! 気合いが戻ってきた!」
あたしはばしっと音を立て、帯を締め直した。その音を聞いて、益々、気合いが入ってきたよ。
係員による準決勝戦の選手点呼も終わった。試合まではまだちょっとだけ、時間がある。
「まだ開始まで時間があるわね。私、ちょっと一回、本部に行ってくるから、待ってて」
「わかりました先生。梨花や真希奈たちと、ここにいますんでー」
その後、先生が戻ってくるまで、あたしは二人と他愛ない雑談をしていた。
今後の進路をどうするかということや、明日の体育大会のこと。
実は先生には婚約者がいて、それは高校の同級生ということ。しかも先生はどうやら柏沼高校卒らしいこと。
あと、梨花はタマネギが嫌い。真希奈はまた太ったらしい、など。
ほんと、試合とまったく関係無い話ばかり。三人でそんな話をしていた時、ある選手が近寄ってきて、話しかけてきたの。
「栗原選手、先程はありがとうございました。強かったでーす! 延長戦、完敗でしたぁ!」
「え? あっ、こちらこそ。きみも一年生なのに、めっちゃ強かったよ! いや、ほんと!」
あたしに丁寧な挨拶をしてきたのは、海月女学院高校の一年生、麦原鞠萌さんだった。
中学では県内トップランクだった子。小柄で色白で、空手をやってるとは思えない容姿。
去年から少し噂には聞いてたけど、準々決勝戦で実際に対戦したら、一年生とは思えない強さだった。
麦原さんは去年「ある選手」に憧れて、高校では中学の時以上に頑張りたいと思ったんだって。
「アハハっ! 準決勝、うちのセンパイとですよね? 壊されないよう頑張って下さいねーッ」
あたしは、背筋が凍った。梨花と真希奈も、固まっていた。壊されないよう、って・・・・・・。
「では、失礼しまーす。ウチ、センパイの応援準備に向かいますので。アハハっ! クスっ!」
話してみて、この子が誰に憧れているのか一瞬でわかった。その口調、髪型、笑い方・・・・・・。
なるほど。準々決勝戦は前哨戦だったんだ。これから始まる準決勝が、本番となる真の勝負。
花と雑草の戦いだけど、どっちも植物。だったらあたしが、雑草なりの花を咲かせてやる。




