「茜色と群青色」
◆大会終了後 「茜色と群青色」
遠くの空に、白くて細い上弦の月が見えている。
あの試合の反動が見事に今、身体のあちこちに出ていて、すっごく痛いの。歩くのもやっとだよ。
大会ドクターは、「骨折などはないけど、一応明日また病院に行ってください」だってさ。
満身創痍状態のあたしは、先生が家まで送ってくれることになったの。
今は、会場外のベンチに座り、先生が来るのを待ってる最中。空手道専門部の偉い人たちと、少し話があるんだってさ。
お母さんは、あたしの準決勝戦が終わった後、また仕事に戻ると言って一足先に帰っていった。
梨花と真希奈もさっき、「お疲れ様ー」と言って、先に帰っていった。普通に歩いて帰れる二人が羨ましいよ。今のあたしは、ナマケモノみたいなスピードでしか歩けないんだから。
あたしは、横に置いたスポーツバッグから紙を一枚取り出した。
大会後に、先生があたしへ今日の結果表を渡してくれていたのを、思い出したの。
●女子個人組手
優 勝 末永小笹(海月女学院・三年)
準優勝 大澤美月(等星女子・三年)
三 位 栗原水琴(県立鶉山女子・三年) 川島春佳(等星女子・二年)
敢闘賞 麦原鞠萌(海月女学院・一年) 古平あけび(日新学院・一年)
湯津上翔香(等星女子・一年) 大南紗代(県立柏沼・二年)
「・・・・・・届かなかった、か・・・・・・」
三位入賞は、ものすごく喜ばしいことなんだと思う。十年以上空手をやってきて、これがやっと三回目の入賞。市の大会以外では、初めての上位入賞だから、嬉しいはずなんだけどさ。
「悔しいよ。・・・・・・勝ちたかったな・・・・・・」
結果表にある「三位 栗原水琴」の文字を見ていると、また、悔し涙が溢れそうになる。
あたしは彼女に勝つことを目標にして、厳しく辛い猛稽古も一生懸命やってきた。
でも、勝てなかった。
実力差だから仕方ないけど、悔しい。もう終わったはずなのに、未練たっぷり。
数秒後、あたしは制服のスカートに数滴の涙を落とした。それはゆっくりと吸い込まれてゆく。
「・・・・・・もう、終わったんだなぁ。・・・・・・あたしの空手は・・・・・・。これで・・・・・・」
ベンチで一人、目を潤ませたまま、あたしは先生を待ち続けた。
茜色と群青色の空には、一羽の鳥がシルエットになって、夕陽に向かって飛んでいった。




