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Weeds Soul  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
13/14

「踏まれるほど強くなれる」

◆夕焼け空を見つめて 「踏まれるほど強くなれる」


 突然、あたしの後ろから「ひたひた」という足音が近づいてきた。「すたすた」ではなく、「ひたひた」と聞こえる足音って、珍しい。


「(ん? ・・・・・・先生、かな?)」


 ちょっと待てよ。違うな。先生はそんな足音じゃないな。じゃあ、誰だろう。


   ・・・・・・くすっ!


「・・・・・・えっ!」


 驚いて、思わずあたし声が裏返っちゃったよ。

 そこには、夕陽を背にした一人の女子高生が、笑って立っていたんだ。


「す、末永小笹・・・・・・さん・・・・・・だよね? ・・・・・・制服だから、すぐわかんなかったよ・・・・・・」


 道着ではない制服姿の彼女は、どこからどう見ても普通の女子高生。

 あの鋭い気迫も恐いオーラも、まったく感じない。

 とても、さっき激しく戦っていた人と同一人物とは思えない感じだった。


「こーんなとこで、何やってるのぉッ? 栗原チャン」

「え? あ、いやー、先生を待っててね・・・・・・」

「ふーん。そっかぁー」

「す、末永・・・・・・さん・・・・・・こそ、まだ帰ってなかったの?」

「あははっ! 普通に小笹って呼んで構わないよ。ワタシも勝手に栗原チャンって呼んでるし」

「え! そ、そんな! 気安く、小笹なんて・・・・・・」

「くすっ! 真面目だなぁ、栗原チャン! いーのいーの。気にしないでいーからッ」

「そ、そうなの? じゃ、じゃあ、小笹さん(・・)・・・・・・って、呼ぶよ?」

「はーいッ、オッケー。・・・・・・試合、お疲れ様ね、栗原チャン。ありがとうございました!」


 初めて彼女とじっくり会話をした。

 でも、ちょっと待って。あたしの知ってる彼女とはまた違う彼女だよ。

 何なんだろう、この明るい笑顔と気さくな雰囲気は。ほんと、普通の子じゃないか。


「こ、こちらこそ・・・・・・ありがとう。・・・・・・。・・・・・・痛っ・・・・・・」

「・・・・・・あれッ? なんだか、辛そうだねッ?」

「つ、辛いよー。・・・・・・あたし、もう、試合後に全身がめちゃめちゃ痛くて・・・・・・」


 すると彼女はあたしの横に座り、肩から足先までをゆっくり見て「なるほどー」と言った。


「栗原チャン、ごめんねッ! ワタシ、ちょっと強く技をかけすぎたかも。ごめーんッ!」

「え? えーと、まぁ、いいんだけどさ。試合だし・・・・・・。あたしが無理しすぎたせいも・・・・・・」

「ちょっと、待ってねッ! 栗原チャン。その痛み、ワタシが和らげてあげるよぉッ」

「え! ど、どうやって?」


 すると彼女は「ちょっと痛いけど」と言って、拳をあたしの太腿や背中へぐっと押し込むように捻り込んだ。

 試合中は優しくなかったのに、今はめっちゃ優しい人じゃん。ギャップがすごいな。


「・・・・・・うそ! さっきより少し、痛みが軽く感じる! え? 何したの!」

「くすっ。去年、ちょっとツボ圧しを覚えてさ。あとは専門家にケアしてもらってねッ?」

「あ、ありがとう。・・・・・・なんか、さっきまで戦ってたのに・・・・・・複雑だなぁ」

「火花を散らすのは試合の時だけ。だってそれ以外は、お互い、同い年の高校生でしょッ?」

「た、確かにそうだけど・・・・・・。なんか、そのー・・・・・・。小笹さん、試合と違って・・・・・・」

「あ! ワタシさ、栗原チャンとまた試合してみたいのッ。けっこう楽しかったからさぁッ!」

「え? ・・・・・・あ、あのさ、小笹さん・・・・・・。あたしの空手、終わっちゃったからさ・・・・・・」

「え? なんで?」

「な、なんで、って・・・・・・。だって、もう部活引退だし・・・・・・」

「・・・・・・くすっ! そういう意味か」

「だ、だって、そうだよね?」

「あははっ! 栗原チャンさ、空手、好き?」

「え! す、好きよ。・・・・・・だから、高校でも空手道部に・・・・・・」

「くすっ! あはははっ! ・・・・・・ねー。空手ってさ、部活だけのものじゃないよねッ?」


 彼女の一言は、あたしの頭をガツンと撃ち抜いた。

 そう言われればそうだ。別に部活だけが空手の全てじゃない。あたし、彼女に勝つことに絞っちゃって、自分の限界を勝手に狭めてたんだ。


「またいつか、どこかで当たったらよろしくッ! あははっ! 楽しみにしてるねッ!」

「で、でも、あたしなんかじゃ・・・・・・。小笹さんに比べたら、雑草みたいなレベルだしさ・・・・・・」


 すると、彼女は瞳を輝かせて立ち上がり、あたしにすっと手を差し出して、こう言ったの。


 ―――― 雑草なら、踏まれるほど強くなれるはずだからさッ ――――


 あたしは、彼女の顔をじっと見て固まってしまった。かっこいいこと言う人だな、と思って。


「栗原チャン! ・・・・・・さぁッ、ワタシのこの手、どーする? 握る? 握らない? くすっ!」


 あたしは、その手を、強くゆっくり握った。空手をまだまだ続けてみようと、思い直したから。


「ありがとう小笹さん。・・・・・・でも、知らないかんね? 雑草は伸びたら対処が大変だよっ!」

「くすっ! 伸びてきそうになったらすぐ、ワタシがたくさん踏んであげるッ! あははっ!」


 そう言って、彼女は握った手を解いた。

 するとあたしの掌にぱしっと拳を当て、「バーイ!」と告げて夕陽の中へ走って消えていった。

 かなわないなぁ、本当に。


 あたしの足下には、名もわからない小さな草が夕陽に染められ、花を一つだけ咲かせていた。






 Weeds Soul

     完



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― 新着の感想 ―
[良い点] 小笹のギャップ 空手は高校の部活で終わりではない、という事を再確認させて貰った点 友情が芽生えるか? [一言] 全編通して小笹はラスボス感満載でしたが、水琴も良く戦ったと思います。明らかに…
[一言]  小笹いいコですね。  水琴の空手道がまだ続いていきそうでよかったです。  楽しませていただきました。
[良い点] 今作品も、楽しめました! 糸東先生の空手物が、益々洗練された感じです! 小笹、かっこいいです! さすがはトップに君臨する女王。可愛さとかっこよさを併せ持ってます! 水琴は、いい仲間ができ…
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