渋谷分署の破天荒なふたり――アキとミコ
ドアが開き、ようやく中に入る許可が下りた。体感では、丸五分ほど待たされた気がする。
俺の詰め所。俺のオフィス。俺の家……ああ、愛しの我が家よ。お前に何があったんだ?
中は完全に混乱状態だった。とんでもない有様だ。二人の女の子が慌てて片付けているものの、修復不可能なほど壊れてしまったものもある。
壁も床も黒い焦げ跡だらけ。天井には穴が開いている。部屋の隅に置かれていたコーヒーメーカーは、まるでヴァルハラまで吹き飛ばされたかのように爆散し、淹れたてのコーヒーを床一面にぶちまけていた。
室内には、焦げたコーヒーと熱せられた金属、そして煙の臭いが充満している。
まだサングラスをかけていて本当によかった。
目の前で気をつけの姿勢を取っている二人の女性には、俺の目から今にもこぼれ落ちそうな涙が見えなかったはずだ。
俺の詰め所。俺のオフィス。それが……台無しだ。
この痛みを。この悲しみを。どう受け止めればいいのか、まるでわからなかった。
「So、彼、怒ってると思う?」
金髪の少女が尋ねた。
「さあね。顔にかけてるそのイカついサングラスのせいでわかんないよ。でも、ちょっとイラついてるのかも。あるいは、生まれつきそういう顔なのかもね。ほら、あれ。RBFの症状が重いってやつ」
バズーカ・ベイブが答えた。
二人とも、ひそひそ話をしているつもりらしいが、声はやたらと大きい。
俺は目の前にいるんだぞ。まさか、自分たちの会話が聞こえていないとでも思っているのか?
「Miko、RBFとは何ですか?」
金髪の少女が振り返り、友人にもう一つ質問した。
「Resting bitch face。真顔が不機嫌そうに見える顔のこと」
バズーカ・ベイブは背筋を伸ばして答えた。
俺は部屋の真ん中で膝をついた。
「ねえ、ボス。大丈夫?」
「隊長、どうかなさいましたか?」
二人が声をかけてきたが、すぐには返事をしなかった。
まずは、ちょっとした祈りを捧げたかった。
神様。俺がいったい何をしてあなたの怒りを買ったのか、正直なところ見当もつきません。なぜ、こんな二人の女性と組ませたのでしょうか。どうやら、頭の中の重要なネジが何本か足りていないようですが……。
それでも、俺が何か悪いことをしたというのなら、どうか慈悲をお与えください。
そして、できることなら、俺の魂をお救いくださるとともに、この場所から、一刻も早く異動できるようお導きください。
この場所から。
この人たちから。
祈りを終えると、俺は咳払いをして立ち上がった。ジャケットを整え、服についた埃を払う。
「よし。まず最初に、だ」
俺は二人を見た。
「この惨状について尋ねる前に、まずは自己紹介を済ませておこう」
そう言って、幸いにも無事だった詰め所の隅へ向かった。テーブルの上に置かれていたタブレットを手に取り、渋谷分署の隊員情報を開く。
それを確認しながら、二人のもとへ戻った。
「アキ・サカイ=シュミット。君で間違いないな?」
背の高い少女を指さす。
「Ja、私です。隊長、お会いできて光栄です」
彼女は笑顔で答えた。
なんてこった。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。
プロフィール写真で見たとおりの姿だった。長い金髪をポニーテールにまとめ、大きな紫色の瞳をしている。
そして、彼女が着ているボンバージャケットは、前のファスナーが半分ほど下がっていた。そのおかげで、今の俺には二つのことがはっきりとわかった。
一つ目。彼女はスーパーモデルのような体型をしている。スタイル抜群で、顔立ちも美しく、脚も長い。
そして二つ目……。
なんだ、あれは?
本物なのか?
葛城カオリさんよりも大きいじゃないか。俺の女王より大きな人間なんて、存在していいはずがない。
こんなに可愛いのに、どうして他の隊長たちは彼女を真っ先に選ばなかったんだろう。俺なら間違いなく一番に選んでいた。
視線をそらそうとしたが、どうしてもファスナーの下がったボンバージャケットへ目が戻ってしまう。
……いや、これじゃただの変態じゃないか。
バズーカ・ベイブが俺をじろりと見ているのに気づいた。
「変態」
彼女が小声でつぶやく。
俺は慌てて視線をそらし、咳払いをして話を続けた。
「それで、君は日本とドイツのハーフなんだな。プロフィールには、ヨーロッパ出身とも書いてある」
「そのとおりです、隊長」
アキはうなずき、微笑んだ。
「父は日本人で、母はドイツ人です。ですが、人生の大半をドイツで過ごしました。警察官になると決めたとき、こちらへ戻ってきたんです」
「故郷に戻って、この国のために働くことにしたわけか。立派な心がけだな、アキ」
「Danke、隊長」
彼女はまた笑った。
とても可愛らしく、眩しいほどの笑顔だった。
そのせいで、俺の心臓が一瞬止まりかけた。
どうして彼女は、こんなにも俺を動揺させるんだ?
俺は隊長だ。規則で明確に禁止されているわけではないにしても、部下に対してそういう感情を抱くべきではない。
何より、俺は仕事と私情をきっちり分けておきたかった。
それに、いずれカオリさんに結婚を申し込むつもりなのだ。彼女が俺のハーレム入りを歓迎するようなタイプだとも思えない。
アキのプロフィールにもう一度目を落とした。
……待て。
なんだって?
見間違いじゃないよな?
彼女はレベル六の火属性魔導士だった。
俺の知る限り、レベル六の火属性魔導士なんて一人もいない。士官学校の教官や軍曹でさえ、レベル五を超えている者はほんの一握りだった。
もしこれが本当なら、この子はとんでもない火力を秘めていることになる。
文字どおりの意味で。
「君は、レベル六の火属性魔導士なのか?」
信じられない思いで顔を上げ、彼女に尋ねた。
「Genau!」
アキは嬉しそうに声を弾ませた。
「私の能力がチームのお役に立てれば嬉しいです」
なんてこった。謙虚さまで兼ね備えているのか。
俺はプロフィールの残りを読むのをやめた。
彼女は間違いなく、俺の部隊に必要な人材だ。
「渋谷分署へようこそ、現場エージェントのアキ。君の能力を存分に発揮してくれることを期待している」
金髪の少女は、すぐさま敬礼した。
「Sir, yes, sir!」
俺は隣に立っているもう一人の少女へと歩み寄った。
「ミコ・ツキシマ。これで合っているな?」
「Sir, yes, boss!」
少なくとも身体的な特徴に関して言えば、ミコはアキとは正反対に近かった。
彼女はずっと小柄で、身長は約150センチ。
警察用のショートパンツに、ボタン付きのシャツ、そして制帽という制服姿も相まって、十六歳の士官学校出身の警察官というより、中学生が警察官のコスプレをしているように見えた。
俺は視線を下げ、プロフィールの続きを声に出して読み上げた。
「魔導技術兵器の扱いに極めて長けている、か」
「魔導技術兵器なら、どんなものでも名前を言えますよ、隊長。重さも、手触りも、型式も。見ただけでわかります」
「そうなのか?」
「ん」
ミコはうなずいた。
「なるほど」
俺はさらに読み進めた。
「生まれつき魔力を持たないにもかかわらず、創意工夫、創造性、常に型破りな発想をする能力、そして予測不能性の各項目でクラスのトップに立った、と。なるほどな。いわゆる逆境から這い上がってきたタイプというわけか。よくやった」
「それ、百パーセント当たってるっすよ、キャプテン」
ミコが答えた。
「士官学校の他の候補生みたいに魔力を持って生まれてこなかったんで、あたしは自分の『ミコドーム』に頼るしかなかったんす」
そう言って、彼女は指で自分のこめかみをトントンと叩いた。
「それに、この子たちもね」
続けて、いったいどこから取り出したのか、魔導技術式のアサルトライフルをさらに二丁取り出した。
「でも、ありがとうございます、隊長」
ミコは武器を下ろした。
その表情が、突然真剣なものへと変わる。
「地元にいた頃は、あたしがM-SERTの警察官になれるなんて、ましてや現場エージェントになれるなんて、誰も思ってなかったんす。世界の99.9パーセントの人間と違って、あたしには魔法が使えなかったから」
俺は、彼女の肩のあたりが小刻みに震え始めたことに気づいた。
これは彼女にとって、話すのがつらい話題なのだろう。
なら、こちらも真剣に受け止めなければならない。
「でも、あたしは今、ここにいます」
ミコは鼻をすすり、頬を伝い始めた小さな涙の筋を拭った。
その手には、まだ魔導技術式のマシンガンが握られていた。
あの手の武器の安全装置だけは、常にかけておいてくれますように。
俺は密かにそう祈った。
「それに、隊長があたしの努力を認めてくれたこと……」
ミコは俺を見上げた。
「本当に、すごく嬉しいです」
一瞬、俺は言葉を失った。
喉に何かが詰まったようで、すぐには返事ができなかった。
これほどまでに俺を信頼し、敬意を向けてくれる人間を、今まで見たことがあっただろうか。
これが現実なんだよな?
人の上に立つということ。
俺は隊長になった。
今や、俺を見上げる人たちがいる。
俺の言葉に従うことを仕事とする人たちがいる。
そして、道に迷ったときや、どうすればいいかわからなくなったときには、俺のもとへやってきて、導きを求める人たちがいる。
ミコ・ツキシマ。
魔法を学ぶことも、使うことも、制御することもできない状態で生まれてきた彼女は、今ここに立つまでに、きっと数え切れないほどの苦労を重ねてきたのだろう。
魔法を使える友人の隣に立ち、今や二人とも立派な警察官として、この組織に所属している。
彼女は間違いなく、並大抵のことではへこたれない強さを持っている。
誰もが認めるほどの、とんでもないタフガールだ。
「楽にしていいぞ、兵士」
俺はそう告げ、彼女の敬礼を解かせた。
「Sir! Yes! Sir!」




