生意気な妹と、ウザすぎる水魔法スキルの紹介
あっという間に一週間が過ぎ、気づけばまた月曜日になっていた。
目を覚ました俺は、自然と笑みを浮かべていた。
何しろ、今日はM-SERTの隊長として迎える初めての正式な出勤日なのだ。
ベッドから飛び起きる勢いで起き上がり、さっそく出勤の準備に取りかかった。
鼻歌を口ずさみながら、シャワーを浴び、歯を磨き、脱いだ服を洗濯カゴに放り込む。そして腰に巻いていたバスタオルを外し、この特別な日にふさわしい服装へと着替えた。
鏡の前に立ち、自分の姿をじっくりと眺める。
漆黒のブーツに、同じく黒のズボン。
黒いシャツの上には、茶色のビジネスジャケットを羽織っている。
ジャケットのボタンは留めなかった。だって、留める必要なんてあるか?
こっちのほうが断然かっこいい。
そして仕上げに、顔には服装にぴったりのアクセサリーを装着した。
「まあ、素敵じゃない! うちのかわいい息子も、もうすっかり大人ね。初出勤だなんて! ああ、誇らしいわ!」
階段を下りてきた俺の服装に、真っ先に気づいたのは、もちろん俺をこの世に産んでくれた母だった。
「ありがとうございます、母上」
俺はにっこりと笑い、ジャケットの襟を軽くつまみながら、いつもより気取った紳士的な口調で答えた。
「母上も、今朝は一段とお美しいですよ」
朝食のためにいつものエプロンを身につけているだけの母だったが、褒められて笑顔になってくれたのだから、こちらもお返しをしたまでだ。
「もう、この子ったら」
母は頬を赤らめた。どうやら、お世辞はしっかり効いたらしい。
「さあ、早くテーブルについて。朝ごはんができてるわよ」
フライパンをリビングのほうへ向けて、母が促す。
「初出勤の日から遅刻なんて、嫌でしょう?」
そう付け加える母に、俺はウインクを返し、足早に食卓へ向かった。
「……はぁ!? 何それ、マジでダサすぎ! ぶふっ、あははは!」
ようやく食卓の椅子に腰を下ろしたところで、妹が俺に容赦ない言葉を浴びせてきた。
中学校の制服姿で、俺の格好を見て大笑いしている。
まだ朝食にすら手をつけていないというのに。
「テレビに出てくる、かっこつけてるだけの痛い奴みたいじゃん! 何考えてんの? 自分ではイケてるつもりなわけ? あはは!」
俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
「まあ、妹よ」
箸を手に取り、皿の上の卵焼きへと伸ばす。
「今日は実に特別な日なのでな。今のお前の幼稚な挑発など、私にはまったく響かないのだよ」
口に入れた瞬間、旨味が一気に広がった。
やっぱり母さんの料理は最高だ。
これなら職場に持っていって、チームのみんなにもお裾分けしたいくらいだ。
「ま、ダサいもんはダサいけどね。言っといてあげただけ」
妹はそう言うと、自分の朝食に意識を戻した。
「それより、新しい仕事って車もついてくるんでしょ? 学校まで電車で通うの、もう飽きたんだけど」
「どうして俺がお前を毎日学校まで車で送ってやると思うんだ?」
水の入ったグラスに手を伸ばしながら尋ねる。
「はあ? そんなの決まってるじゃん。だって、あたしはお兄ちゃんのかわいいかわいい妹なんだから!」
危うく、飲んでいた水でむせるところだった。
「俺の……かわいい何だって?」
「かわいい妹!」
サシはそう繰り返し、誇らしげに胸まで張ってみせた。
危うく、また水を吹き出すところだった。
妹は即座に椅子から立ち上がり、両手をテーブルに叩きつけた。
目を細め、怒りに満ちた視線を俺に向けてくる。
「それ、どういう意味よ!?」
俺は卵焼きをもう一口頬張り、その味をじっくり堪能してから答えた。
「サシ?」
「何よ?」
「かわいいとか、愛らしいとか。お前を形容するのに、そんな言葉が使われる場面なんて、どんな状況でもあり得ないな」
「はあ? 今、何て言ったのよ、お兄ちゃん?」
「いや、確かに昔のお前はかわいかったぞ。ちっちゃな足に、小さな腕。それに、俺の名前を呼ぼうとするたびに、いつも言い間違えていたところもな。あの頃のお前なら、確かにかわいいと思えたし、愛おしくもあった。だが、成長してからというもの、お前はただの、とんでもなく厄介な――」
「ウォーターアロー!」
妹が手を掲げ、呪文を唱えた。
次の瞬間、何もない空間から水の魔法が矢のように形成され、俺に向かって飛んできた。
反応する間もなかった。
とっさに手を伸ばして防ごうとしたが、もう遅い。
俺は全身ずぶ濡れになった。
騒ぎを聞きつけた母さんが、怒り心頭でキッチンから飛び出してきた。
娘のもとへ歩み寄ると、その耳をつかみ、ぐいっと引っ張る。
「いたたたっ! ママ、痛いってば!」
サシが抗議するも、母さんはまったく聞く耳を持たなかった。
「今すぐお兄ちゃんに謝りなさい!」
「でもママ、先に始めたのはお兄ちゃんだもん!」
「言い訳は聞きたくありません! それに、私が聞いていなかったとでも思ってるの? いいから、早く謝りなさい!」
「わかった、わかったってば。ごめんね、ダイスケ」
「ありがとう、母さん!」
俺は拳を高く突き上げて歓声を上げた。
「母さんは俺のヒーローだ!」




