渋谷分署の問題児たちへ送る特別なおしおき(前編)
「それじゃあ、今日も仕事頑張ってね!」
「うん、母さんもね。それじゃ、行ってきます!」
家を出るとき、俺は母さんに手を振って別れを告げた。
俺が正式にM-SERTの隊長に就任してから、ちょうど一週間が経っていた。
チームとしての初任務を終えてからも、一週間。
あのときは、桜スイーツとその周辺地域で人々を恐怖に陥れていた、意思を持って動き回るお菓子たちを撃退したのだった。
「おーい、タクシー! 渋谷駅まで頼む!」
「はいよ。乗ってくれ」
俺は苛立ち混じりにため息をつきながら、タクシーの後部座席に乗り込んだ。
まったく、あのサシめ……。
自分専用のパトカーがあるというのに、今ではほとんど役に立っていない。
妹のサシが、毎朝アキに学校まで送ってもらうよう説得してしまったのだ。
そして、俺の金髪でハーフの部下は、誰にでもいい顔をしたがる性格ゆえに、妹の策略にまったく太刀打ちできなかった。
作り笑いと子犬のような上目遣い。
あの二つを組み合わせたサシの必殺技に、アキが勝てるはずもなかった。
数分後、俺は駅に到着した。
駅の状態は、初めてここに来たときよりもずっと良くなっていた。
あのときは、部下たちが蜘蛛を見つけたというだけで、屋根全体を崩壊させかけたのだ。
俺があのタイミングで到着できたのは奇跡だった。
もし遅れていたら、いったいどうなっていたことか……想像するのも恐ろしい。
「あっ! ボス! おはようっす!」
いつも通り、駅に入って最初に目に入ったのはミコだった。
彼女はバズーカ・ベイブと書かれたTシャツに警察用のショートパンツ姿で、作業場にこもり、ガチャガチャと音を立てながら魔導兵器をいじっていた。
俺と目が合うと、すぐさまカウンターまで駆け寄り、コーヒーの準備を始めた。
「はい、ボス。熱々のコーヒーっす。角砂糖二つ、ハチミツなし。いつもの注文っすよね」
ミコは自信満々の笑みを浮かべながら、俺にマグカップを差し出した。
いつも通り、俺の好みを完璧に把握しているらしい。
「ありがとう」
カップを受け取り、一口飲む。
少しでも気持ちを落ち着けたかった。
ここ数日、まともに眠れていなかったのだ。
深夜まで続く書類仕事のせいで、朝になると機嫌がかなり悪くなっていた。
「それで、今日は何を作ってるんだ?」
もう一口コーヒーを飲みながら尋ねる。
これが俺たちのいつもの朝の流れだった。
俺が聞かなければ、あとで仕事をしている最中に、ミコのほうからわざわざ机までやって来て説明を始める。
それだけは避けたかった。
「あっ、ボス。気づいてくれたんすね! それじゃあ、ご覧あれ! MT 9,000っす!」
ミコは大げさに宣言し、兵器を頭上に掲げた。
「二重マナコンパートメントに、小型の冷却チャンバーを搭載! 短い冷気弾を連射することも、冷却弾を安定して撃ち続けることもできる、夢の一品っす!」
ぶかぶかのシャツに青いショートパンツ。そして、あの決めポーズ。
どう見ても、ひどく間抜けな格好だった。
だが、そんなことを本人に言うつもりはない。
「つまり、冷凍銃を作ったってことか?」
俺は淡々と尋ねた。
「ちっ! ボス、そういう身も蓋もない言い方しないでくださいよ! 『冷却弾射出装置』のほうがずっとカッコいいじゃないっすか!」
「はいはい」
俺は謝るように手を振り、そのまま自分の机へ戻っていった。
「とにかく、屋内では絶対に撃つなよ。それから、出力もちゃんと下げておけ。前みたいに、また一ブロック丸ごと吹き飛ばしかけるのは勘弁してくれ」
ちょうど自分の机へ向かっているところで、アキが到着した。
「グーテン・モルゲン、隊長。今日は素晴らしい一日ですね。ヤー?」
「おはよう、アキ。そういえば、うちの妹のことで、また迷惑をかけて悪かったな。あの子、時々本当に手に負えないんだ」
「ナイン、隊長。私はまったく気にしておりません。むしろ、喜んでお手伝いしています」
アキは、先週の任務中に何があったのかについて、今も話したがらなかった。
あれ以来、俺が何度か話題に出しても、いつも笑ってごまかし、別の話題に切り替えてしまう。
まあ、無理に聞き出すつもりはない。
確かに、部下の事情を把握するのも俺の仕事ではある。
それでも、彼女たちには安心して働いてほしかった。
とはいえ、安心して働けることと、嘘をついたり、意図的に情報を隠したり、周囲に被害を出したりしてもお咎めなしということは別だ。
「ああ、そうだ。忘れる前に、二人にちょっとしたものを用意してあるんだ」
コーヒーを手にしたまま机へ向かい、引き出しからプレゼントを取り出す。
口元に浮かびかけた悪戯っぽい笑みを隠そうとしたが、どうやら失敗していたらしい。
「ほら、二人ともこっちに集まって。遠慮しないで」
アキはすでに俺の前に立ち、興味津々といった表情を浮かべていた。
一方、ミコは少し警戒した様子で作業場を離れ、俺たちのところへやって来た。
「どうしたんすか、ボス? 何かカッコいい新兵器でも見せてくれるんすか? プレゼンが派手だったら、ボーナスポイントっすよ!」
「もしかすると、先週の初任務を頑張った私たちに、プレゼントをくださるのではないでしょうか?」
「おおっ、いいっすね! あたしもぜひそうであってほしいっす!」
俺はただ微笑み、二人に長方形の箱を一つずつ手渡した。
「はっ! やっぱりそうでした!」
アキは顔を輝かせた。
「やっぱりプレゼントだったんですね! でも、一つだけですか?」
金髪の彼女は、期待に満ちた目で俺を見上げた。
「ああ、悪い。今のところ、ミコの分しか用意できていないんだ」
俺は後頭部をかきながら答えた。
「でも心配するな。アキの分も、現在制作中だから」
二人は不思議そうに俺を見つめた。
なぜそんな渡し方をしたのか、疑問に思っているのだろう。
だが、まだ説明するわけにはいかなかった。
「ほら、何をしてるんだ? さっそく試してみろよ」
俺はミコに言った。
「それと、着替えるときはアキに手伝ってもらう必要があるからな」
後ろにいるアキを指さす。
「さあ、行った行った。二人ともだ」
二人は急いで箱を受け取ると、中身を確かめるために駆けていった。
あれほど嬉しそうにしている姿を見ると、実際に中に入っているものを考えて、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
……少しだけだが。
アキの予想とは違い、これは初任務の活躍を称えるためのプレゼントではなかった。
むしろ、その正反対。
二人がいない間、俺はコーヒーを飲みながら数分間待った。
やがて、二人が戻ってきた。
「発言の許可をいただけますか、サー?」
不機嫌そうな顔をしたミコが尋ねてきた。
彼女はメイド服を着ており、俺はその手にモップを渡した。
「許可する、兵士」
「失礼ながら、サー。これはいったい何なんすか?」
俺は笑みを浮かべ、腰に手を当てて背もたれに寄りかかった。
自分の仕事の成果を眺める。
今回の罰として、ミコには定期的にメイド服を着て駅の掃除をしてもらうことにした。
それが、俺から彼女へのプレゼントだった。
「なんであたしが、こんなフリフリの服を着なきゃならないんすか、ボス? こんなの、あたしの趣味じゃないっすよ!」
「だったら、次からは規定を大幅に超える改造を武器に施したり、人々を救助するはずの任務で、近隣一帯を破壊しかけたりしないことだな。これはその罰だ」
「ちぇっ!」
ミコは恥ずかしさから黙り込んだ。
当然の反応だろう。
桜スイーツの事件のあと、俺は彼女を呼び出して武器の検査を行った。
そこで判明したのは、彼女が自分の装備や道具を規定値をはるかに超えるレベルまで改造していたという事実だった。
任務中にあれほどの巻き添え被害が出たのも、そのせいだ。
そして、その後始末として、俺は山のような報告書を書かされる羽目になった。
「でも、ボス! あたしは敵の兄弟や悪党どもを片っ端から倒してたんすよ! しかも、めちゃくちゃ素早く! 敵の数に押し切られないようにするためだったんす!」
ミコが抗議する。
「確かに、お前は敵を全員倒した。それも記録的な速さでな」
その言葉を聞いたミコの顔に、間の抜けたニヤニヤ笑いが広がった。
「ん? それって、あんな状況だったけど、ボスはあたしの射撃が気に入ったってことっすか?」
「正直に言えば、そうだな」
「えっ!?」
ミコは目を見開き、目に見えて後ずさった。
まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったらしい。
「ほ、本当っすか、ボス? あたしの射撃が好きなんすか? あたしに、ここにいてほしいんすか?」
「良い仕事をしたなら、ちゃんと評価するさ。お前の射撃の腕は本当に素晴らしい。それに、どうしてお前にいてほしくないと思うんだ? お前は俺のチームの一員だろ?」
「え……?」
ミコはまだ、信じられないとでも言いたげな間抜け面をしていた。
「ただし、これからもチームにいたいなら、いくつか改善してもらわなきゃならない。任務に出るたびに公有財産を吹き飛ばされては困るからな。余計な巻き添え被害を出さずに射撃する方法を覚えてもらう必要がある。その間、今回の罰としてこれを着てもらう。分かったな、隊員?」
「サー! イエス、ボス!」
ミコは笑顔で、元気よく敬礼した。
……あれ?
罰を受けている人間から返ってくる顔とは思えない。
俺はこの罰を決めるために、わざわざ彼女のことを調べたのだ。
ミコは普段、男の子っぽい服装を好むタイプだと分かっていた。
だからこそ、メイド服のようなものを着せれば、十分な反省を促せるだろうと考えた。
少なくとも、俺はそう思っていたのだが……。
その間、アキはずっとミコの服を眺めたり、触ったりして楽しんでいた。
自分も同じものが欲しいと思っているのは明らかだった。
「ミコさん、とても可愛いと思います」
アキは背の低い彼女を見ながら言った。
「その衣装は、ミコさんの女性らしさをとても引き立てていますね」
「はいはい」
ミコは片足を宙に上げ、肩にモップを担いだまま、くるりと振り返った。
そして、漫画のキャラクターのように口笛を吹きながら、掃除を始めるために歩いていった。
「クビにならなかっただけでも、ありがたいっすよ」
……なるほど。
だから、あんなに嬉しそうだったのか。
もう少し厳しい罰にしておくべきだったかもしれない。
「それから、お前だ」
俺はアキを指さし、表情を引き締めた。
「ちょっと俺について来い」




