続・お兄ちゃんと神絵師
夏休みに入って飛鳥 花は。とあるバイトに、元気に励んでいた。
仲間にも恵まれ、今日は、嬉しいお客さんが来るのだが。予想外の出来事がプラスされてしまって?!
抑えた照明のオレンジ色の灯り。JAZZの音楽が流れる感じの良い空間は、エアコンで適温になっていて。
静かに音に耳を傾け。コーヒーを楽しむ大人達。
そう。大人だ。ジャズってそんなイメージ。今は、ランチタイムで食事をする人が多い。
指でリズムを刻みながら、お仕事する可愛い中学生の同僚に癒される。この子は、ジャズが大好きなんだ。
店内を見渡す。
伊織が家に来た日から、月も変わり。夏休みが始まった。先月のバイト代で、水着など買ってしまった。それと・・・それと。楽しみ♪
んん?さっきから、綺麗なお姉さんがずっと、私を見ている気がするのだけど?アシンメトリーの、メッシュの入った肩までのオシャレな髪型をした人。
不思議な表情を、来た時からずっと向けている?お水?コーヒーのお代わりかな?
他のお客さんのお水もそろそろ。氷水の入ったピッチャーを手に動く。
「お水のお代わりはいかがですか?」
ウッディ調な外観。閑静な住宅街の中程に在る2階建て。
そこは、1階部分が喫茶店になっている。
看板には、JAZZ喫茶トゥー・シスターズとある。
JAZZ、ジャズという音楽は、アメリカ発祥の音楽。ルイジアナ州ニューオリンズで誕生したとされる。
アフリカ系アメリカ人の音楽がルーツだ。
その、スイングするリズム、即興演奏。独自のスタイルに、虜になった人は多い。
ジャズの帝王や、鍵盤の皇帝など、歴史に名を残す凄い肩書きで呼ばれるに至った巨星が、何人も何人も現れ。作って来た至玉の音楽。
まるで、一子相伝の武術の様に、洗練された音の芸術作品。
昔は、ジャズ喫茶というと、タバコを吸うお客さんがいたとマスターは言う。今では分煙となったと。
タバコの煙は苦手だ。ガンになるとか聞くと怖くなる。私の様な学生でも、ジャズが聴けて嬉しい。ニコッ♪
カランカランと、ドアベルが鳴って扉が開いた。
黒いエプロン姿の少女達が迎えた。
「喫茶トゥー・シスターズへようこそ♪」
私と同じエプロン。もう1人は、明るい笑顔の少女。
「お兄ちゃんだ♡真白さん、ここは私が」
「こんにちは♪将お兄さん。良かったね。花さん♪」
「こんにちは、真白さん」
優しく声をかける。
バイトリーダーの、藤林 真白さんは、女子中学生。店長の、上のお嬢さんだ。
長く美しい髪は、背中へ届き。やや光に透ける様に、茶色みを帯びた黒。
すらりと、まだ成長過程だが、均整の取れた身体。胸も、同年代の平均程は有る。
スカートから覗く脚は、男性の目を釘付けに。美しい脚線美を。
当に美少女。
そんな彼女は、喫茶トゥー・シスターズの看板娘の1人。
寺社仏閣の御守りや、御朱印を集めたり。戦国武将の逸話、三国志等を愛読する。
部活動は、弓道部に所属。
明るく可愛い外見に似合わない、色々、渋めの趣味を教えてくれた。
物心付く前から、このJAZZ喫茶と、音楽と共に育って来た。
楽器には素養は無いと、彼女は言う。
「歌を歌うのは好きだけど、私の歌は、ただ旋律をなぞっているだけかもしれない」
「私は、JAZZジャズが好き。楽器が自分で演奏出来なくても。聴いているだけで幸せを感じる。往年の名プレイヤーも、新しい人の音も、探すのが好き・・・・・・」
真白は、母にそう言ったと言う。
愛らしい。彼女には、好きな人がいるらしく、お兄ちゃんが取られる心配が無いのも良い。
私、お兄ちゃん、真白ちゃん。三者三様に微笑み、お店の中に案内する。
センスを感じる照明の光が、外観と同じくウッディな店内を優しく照らす。外から入ると、やや仄暗い。
数席の、4人掛け席、2人掛け席が有り。音楽室に有る様な、グランドピアノ。このピアノは、週末不定期に開催されるミュージシャンによる生ライブの際、使われる。
普段は、年季の入っていそうなレコードと、大きなスピーカーから、音楽が流れている。
これがジャズ。雰囲気が良い。今流れるのは、ピアノを含む、3つの楽器で独特のリズムを奏でる。トリオと言う編成。
オス○ー・○ーターソン・トリオの名曲が、神業の様な美しい旋律を奏でる。
音楽雑誌が置かれた机、レコードのジャケットが壁に飾られ、カウンターに、楽器を演奏をしている風な、黒人の人形達。人気漫画や、ジャズ関連の雑誌も揃えている。このお店が紹介された情報誌も、置かれていた。
でも、この抑えた照明のなかで本を読むのは、かなり目が疲れそう。お兄ちゃんなら、目に良いビタミン剤飲むだろうな。
お兄ちゃんのお仕事は、ディスプレイを見て作業するから、目が疲れるんだと言ってた。目は大事だから、気を付けてね?
ボードにメニューが書かれている。テーブル席、抑えた照明で。おじさんや、女性。・・・お客さん達が、音楽を聴きながら憩って寛ぐ空間。
ジャズ喫茶。
この照明の明るさは、音に集中してリラックス出来る気がする。
お兄ちゃん♪
微笑んでくれてる。きゃっ♡
「来てくれて、ありがと♪お兄ちゃん♪」
「仕事がひと段落したからね。働いてるところ見て行くね」
嬉し過ぎる♪バイトして良かった。
(見てて、頑張るからね)
「こちらメニュー表になります。・・・お決まりになられましたら、お声掛け下さいね♪」
そう言いつつ、お兄ちゃんの側から中々離れられない私。
真白さんが、微笑んで仕事に戻った。
(ザワ)
(花ちゃん?!その男?!彼氏?!顔が赤らんでる様な?!アイツ、モデルか?!狙ってたんだけどなぁ。俺の花ちゃん)
(凄いイケメンが来たよ?!彼女持ちかなぁ。残念。あの子には勝てない)
(あー。だねぇ)
(レオーネ!?)
一瞬、店内がザワザワした?音楽を楽しむJAZZ喫茶店『トゥー・シスターズ』では珍しい。
飛鳥妹、花は高校1年生だが。性格の出る、ピュアで清楚な整った顔立ちは、絶世の美に例えられる、ライトノベル刀剣神姫のイラスト、ラウィニア姫に生き写し。
そして健康的な瑞々しく美しい肌と。背中まで伸ばした、烏の濡れ羽色に透き通り艶が有る髪は、絹の様に柔らかく、滑らか。
スラッとした体型は、やや幼くも見え。中学生の真白にも負けず若々しいが、真白以上の魅力的なプロポーションをしている。
兄の将は、イラストレーターだが。こちらも運動をやった事のある、細いが筋肉も付けた体格。
花の兄という遺伝子が、整った顔立ちも保証する。
2人とも他のお客さん達の目を、惹き付けてしまうのだ。
「じゃあ、アイスコーヒーと帆立のグラタンを貰おうか」
「はい♪ご注文繰り返します。アイスコーヒー、帆立のグラタンですね♡食後にケーキはいかがですか?」
「ラウィニアだけで無く、レオーネ迄来ちゃった!?く、勇気を出せ、綾瀬!」
その声は、音楽がかかっていても、私達に聞こえたんだ。
室温が、急に冷えた気がする。
「お兄ちゃん。読者さんがいる」
「みたいだな」
お兄ちゃん、帰っちゃう?
お兄ちゃんの袖を持つ。ううん。でも仕方ないか。後ろ髪ひかれるけど、諦めてそっと指を離す。
お兄ちゃんは帰らなかった。私の手に優しく触れてくれる。
向かって来た。席を立って。少し緊張した顔で歩み寄る、綺麗なお姉さん。さっきから私を見ていた、アシンメトリーの髪。美人さんだ。
お店に来てからずっと、驚いた様な顔だった彼女。今はお兄ちゃんと私を見比べる。
「んん、あの。レ、レオーネさんと、ラウィニアさんの、コスプレイヤーの方ですよね?」
(コスプレイヤーさんの本気って凄いのね?!きっと、名の知れた有名なレイヤーさんだ)
「「え?コスプレイヤー?」」
私達の反応に。
「?んんっ?違った?え、・・・じゃあ、そっくりさん・・・・・・本物?」
・・・どうしよう。このお客さん。
こんな日が来るのではと、思っていた。
何で私達をモデルにしたキャラクターを、お兄ちゃんは描いたんだろう。嬉しいけど、ヒットした今となっては、今後が心配だ。
このお姉さんの中で、私達が本物の騎士レオーネとラウィニア姫だという可能性が生まれたみたい。そんな風に考えるの、面白い。
お兄ちゃんが立ち上がる。
「刀剣神姫の読書の方ですよね?」
「は、はい!大ファンです。仲間に布教されて、今では私も、ふ、布教していまふ。ます。レオーネさん!」
「そうですか。では、少しお話します。出来たら秘密にして欲しいのだけど。僕達は・・・作品のモデルなんです。イメージを壊してしまったでしょうか?」
「?!モデルさん!刀剣神姫、公式のモデルさんですか!凄い!出版社さん凄い!?いえ、壊して無いです!全然!クオリティ高くて驚いた。もう、本物ですね」
汗汗
「あ、あの。一緒に1枚で良いので、お写真良いですか!?」
(公式のモデルという事で良いのだろうか?まあ、確かに?僕と花がモデルだから。あれ、でも新選文庫さん的にはどうなるかな?編集の八巻さんにも、花の事は伝えて無いんだけど。大丈夫かな?)
考える。
(それに、この女性・・・はて?何処かで見た事が有る気がする。会った事有るのか?ただ者では無い気が)
「ごめんなさい。仕事中と、家族のひと時なので、写真は困ります」
「そ、そこを、何とかなりませんか。刀剣神姫のイラストレーター飛鳥 カフェ先生に、写真送ってあげたいんです」
「「ん?」」
「え?」
「あの、どこかでお会いした事有りましたっけ?」
「えっ?・・・・・・え?・・・・・・」
逡巡から、
「もしかして?飛鳥 カフェ先生ですか?」
「・・・はい」
教えて良いのか?
お兄ちゃん、顔出しして無いよね?あ、してるのか?イラストで。でも、今、この人絶対お兄ちゃんと飛鳥カフェ先生が一致してなかった。知らなかったよ。
今迄、家族と伊織以外に、ずっと秘密にしてたのになぁ。(しょんぼり)
「?!は、初めまして!SNSのコメントではご挨拶していた、橘 綾瀬です♡私も描きます!絵師です!」
笑顔が溢れるお姉さん。そうだ、と言って名刺入れ?から、名刺を指し出した。
「「なっ?!」」
お兄ちゃん好みの綺麗な女の子のイラストがプリントされた名刺だ!
「橘先生が、何故ここに・・・」
(神絵師、橘 綾瀬先生か!会った事が有ると思ったのは、ネットの写真で見た事が有っただけか)
知り合いだったの?私、びっくりしてばかりだ。
真白さんが、こちらに気をかけて。仕事を引き受けてくれている。ごめんね!真白さん。でも、ちょっと離れられない。
「飛鳥先生のSNSのご投稿を見て、私と生活圏が近かったんです。私もコーヒーが大好きで。ご投稿に、いいねをしていて。この喫茶店が、頻繁に紹介されてたから、これは、行ってみたいなと」
「そ、そうしたら先生が!私、先生のイラストのファンなんですよ。ご本人が、こんな素敵な方だなんて。レオーネなのは反則ですよ♡」
この人、語尾に♡して?モヤモヤしてしまう。
「お兄ちゃん。女の子なら、私で良いでしょ?妹の私を捨てないよね?私、お兄ちゃんの為なら何だってするよ。だから」
訴えた。驚いた顔のお兄ちゃん。
「花さん、告白?!きゃー♡」
真白さんが赤面している様な。
(ザワッ!!)
「花ちゃんが、何でもするだと!!?自分を大事にして!?彼氏、許さん!だが、花ちゃんを捨てるなら、お、俺にくれ!何万でも出すから!」
お客さん達がまたザワ付いた。
トゥー・シスターズ。名前の由来の2人姉妹も美少女と評判だったが、そこに今はバイトとして飛鳥 花が加わり。彼女達狙いの男性客が、連日増えている。
昔からの客層も、お店に癒しを求めて。音楽だけで無く、髭のマスターの作る料理も美味く。可愛い店員さんの接客も明るく気持ち良い。
今、人気店となりつつあった。
綾瀬はお兄ちゃんから目を、私に移す。
「い、妹さんですか?作中、ラウィニアは絶世の美少女ですけど。まさにですね」
綺麗な人に、絶世の美少女と言われて、悪い気はしないけど。これだけは。
「私もお兄ちゃんも、同じ飛鳥です。だから、夫婦も同じ。お兄ちゃんは私のです」
言っておかないと。
(ブラコンだ♪)
真白さんが、暖かい目を向けている。
「お兄ちゃんが選んでくれるなら、誰もいない山の中でも良い。後ろ指指されない場所で、2人だけで暮らすんだ。私、尽くすよ」
「ああ、やっぱり!レ、レオーネとラウィニアは、最後そういう関係になるんですか?」
「・・・それは、カーター・ノー先生に聞いてみないと」
「なると良いな・・・」
私が答えた後に、お兄ちゃんが何か小さな声で、ボソリと言った。
「やっぱり、貴女の様な美少女でも。お兄ちゃんは、好きになっちゃいますか」
「なっちゃいます。お兄ちゃん以外を好きにはならない」
私は生まれた時から、お兄ちゃんのものなんだ。
「私は、1人っ子だけど、カフェ先生がお兄ちゃんだったら良かったな・・・」
!あげない。
「花は可愛いですが、俺なんかは」
「「お兄ちゃんは(飛鳥先生も)、格好良い!」」
可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、別の人に照れないでよ。(泣)
前から知ってた。お兄ちゃんは、自己評価が低いのかな?でも、刀剣神姫の主役を自分にした。ヒーロー願望が有るのかな?
「花さん。ごめん。店長が呼んでる」
心配そうに眉を下げる真白さん。
「!すいません!真白さん!」
流れる音楽より、大きな声で話してしまって。大事なお店の雰囲気を。店員が壊すなんて。最悪だ。しかも、お仕事を抜けていた。
青ざめる。
キッチンから顔を出していた口髭と顎髭のオシャレな男性。優しく頷く店長は、中学生の真白さんと、小学生のお嬢さん桜ちゃんを持った30代の男性。
明るい奥さんもいて、家族経営のお店。そこに、私はバイトで来てる。
「お客様、修羅場ですか?」
真白さんが、興味津々の顔で聞いている。
「す、すいません。真白さん。妹の働いているところを見てみたかったんだけど。お仕事の邪魔をしてしまって」
「ごめんなさい!私こそ、お店の中なのに。憧れの人に会えて、嬉しくてつい・・・舞い上がってしまって。恥ずかしい。もう、帰りますね」
店長が、お兄ちゃん達に歩み寄る。
「やあ。飛鳥さん、良くいらして下さって。お顔覚えてますよ。ありがとうございます。お客様、ゆっくりして行って下さい。ただ、音楽を楽しむ場なので、音量を気を付けて貰えれば」
「花ちゃんは、今日はお兄さんも来たし、上がっても良いよ?」
「ごめんなさい!店長、まだ頑張れます!」
「そうか。分かった。あと少しだから、頑張って行こうか」
「はい!」
何故か、その後。お兄ちゃんと橘 綾瀬は、同じテーブル席に着いた。
私は、涙目で、仕事に戻った。
(続く)
僕のもう一つ書いていた作品『ソーサリースフィア』から、藤林 真白ちゃんを登場させてみました。
懐かしかったです♪




