6話
いつも通りの寝床。いつも通りの天井。いつも通りのクソッタレな朝を迎えると、私はベットから起き上がった。
「……今日か。」
そう、今日だ。
今日から変わる。
このクソッタレな変わらない『いつも』を今日、変えでやるんだ。
寝間着から着替え、帽子を深く被り、青い羽織を羽織る。
「ネイル。」
「はい、お嬢。」
名前を呼ぶと、すぐに部屋の扉を開けて入ってきた。
背の高い女だった。背筋をシャンと伸ばし、目つきは鋭く、髪は耳にかからないギリギリで切り揃えられている。
「父さんは?」
「既に。」
「分かった。」
部屋を出て、長い廊下を通る。入り組んではいるが、長年住んでいる場所だ。迷うことは無かった。
廊下の一番奥に部屋があった。
扉に手を掛ける。
「ふぅ~〜」
一度大きく深呼吸をする。
気持ちを整えると、一気に扉を開けた。
中に入って畳に敷かれた座布団に座った。
部屋には畳が敷かれ、『義』と書かれた掛け軸とスラム街にはとても似つかない高そうな壺がおかれており、和風という言葉が良く似合う部屋だった。
その部屋に居るのは私とネイル、そして、
「よぉ。ネル。話、聞かせてもらおうか。」
「ええ、父さん。」
威厳のある父だ。今でもそう思う。自分の信じた道を貫く強さ、人を助ける強さ、厳しくも優しさに満ちた人柄を持ち、〈義侠衆〉を作った頭領。この人の娘になれたことを本当に誇りに思う。
──それでも。
「随分と色んなとこに喧嘩ふっかけてるらしいじゃねえか。」
「必要なことです。」
「必要なこと?ネル、てめぇ〈義侠衆〉がなにか、忘れたわけじゃねえよな!」
「もちろんです。」
「良いか!!このスラム街は拾われなかった、取りこぼされた連中の最後に行き着く先だ。だからこそ、人の道だけは振り外さねえよう、俺たちが手で押してやらなきゃならねえ!」
拾って押し上げることは出来ずとも、せめてこれ以上落ちないよう、押してやることはできる。
父はいつもそう私に教えてくれた。
立派だと思う。それだけだとも、思う。
「人の道……果たしてそれを守れるだけの力が今の〈義侠衆〉にあるでしょうか?」
確かに、昔なら、父さんの時代ならあったかもしれない。それでも世代の交代と共に力は落ち、もはや〈義侠衆〉の権威は地に落ちた。
「今こそ!力を示さなければなりません!この街の名のある強者を討ち、取り戻すのです!我等の強さを!我等の義を!」
「そのために今持つ義を無くせと?」
「力ある者のみが理想を語れるのです。これは取り戻すための戦いです。もはや今の〈義侠衆〉に義を守るだけの力はありません。分かってください。」
「ならん!」
「…………そうでしょうね。父さん、貴方はそう言うと思いました。だから。」
ネイルが刀で父さんを突き刺した。
血が滴り落ち、畳に染み込み、壁に飛び散り、部屋中が赤く染まる。
ネイルが刀を回し、傷口をえぐりながら、父さんを蹴飛ばして引き抜く。
父さんは蹴飛ばされた衝撃に抗うこともなく、床に倒れる。
もはや動かなくなった父を見つめる。
強い意志を宿していた瞳は光を失い、優しさに満ちた声は二度と聞くことは出来ない。
それでも、それだからこそ、この瞬間から〈義侠衆〉は変わるのだ。
「…………ネイル。私は誰だ?」
「貴方様はネル・モルリル。我等の、〈義侠衆〉の新たなる頭領でございます!」




