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黄金が降る  作者: 毎路
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05 部屋割り

 階段を上がる足取りは軽い。そりゃそうだ、新たな住居とくれば、テンションも爆上がり。専属エージェントになってもらった年下の幼馴染ネムにすべて任せたので、その間取りすら知らない。他にも住人がいるということなので、小声を心掛けて話すには、どうやらこの建物は2階から3階が貸し物件になっているようで、1階は共有スペースや、管理人がいる空間らしい。外から見ると屋根に窓がついていたので4階建てだと思ったのだが、そこは屋根裏の空間なのだろう、と。


「2階は単身者用の部屋で、3階は2人用と3人用の部屋があるの」

「だから3階なのか」


 階段は思ったよりきつくない。それは、一段が一段が低い作りになっているのと、一階上がるまでの中間に折り返しの踊り場があるせいだろう。板張りの階段が傷まないように、渋みのある葡萄色の絨毯が敷かれている。


 階段を上る最中に、外窓がついており、光取りになっている。

 細い窓なので、ものすごく明るいわけではないが、暗くもない。


 2階から3階に上がる時に、耳を澄ましてみたが、人の生活音というのは聞こえなかった。昼前だが、まだ寝ているのか、それとも学期前の長期休暇にあたるので帰省して不在なのかもしれない。


 階段を上って右手に昇降機の扉があったので開くと、きちんと荷物が二つ載っていた。転がして、そのまま向かいの突き当りの扉の前に立つ。ネムが受け取った鍵で開けてくれた。角部屋だ。301号室。ここがこれから新しく始まる生活の拠点だ。


 真鍮のレトロなドアノブがいちいち芸術的だ。

 くるりと回して引きあけ、ネムが一番乗りを譲ってくれるので、お邪魔する。


「廊下からうかがえるアクイレギアンサイズ感」

「ここで布団を敷いたら人が寝られそうね」


 広い玄関に大型スーツケースを二つ置いてもゆとりがある。

 とりあえず、置きっぱなしにして、靴を脱ぎ、置いてあるスリッパを履く。


「………あれ、土足じゃないんか?」

「イクシオリリオン学生限定、とあるから、そうしてくださっているのかも」


 あまりにもスムーズに違和感なく上がったので、ここが異国だと忘れるところだった。廊下には左右に扉が二つ、斜め向かいにあり、玄関からまっすぐ突き当りにはすりガラス付きの扉から既に外の陽光が差し込んでいた。扉を開けてみるとそこはリビングダイニングキッチンと呼ばれる三点セットの部屋だった。左手に小窓のあるキッチン、真ん中に大きな出窓のあるダイニングテーブルと椅子、右手にリビングのソファと壁付けのモニター、側面の壁に中くらいの窓がある。入ってみると、右手のモニター横には扉がもう一つあった。


「おお……家具付きだと初めからセンスがいいな」

「日当たりも良好ね。ルヴ、こっちへ来て」


 壁にはりつく用にして外を確認したネムに手招きされ、テーブルを避けて出窓から外を見下ろすと、濃緑のテントが見えた。


「あそこは、昔から日用品から食料も売っている雑貨店だそうよ」

「マジか! 超便利じゃん」


 外つ国には24時間営業の何でもそろっているコンビニはない。代わりに通販大手のアンスリウムがあるのだろうが。今すぐに欲しいというときは、あの目と鼻の先の店に行けばよいわけだ。ほとんど真向かいだ。


「よく見つけたな、この物件」

「カレッジのあるマグワートではないし、電車で片道20分かかるけれどね」

「いやそれにしたってだろ? ここ、いくらだっけ」


 ルヴィも一人で留学を考えていたときに一通りのことは調べたのだ。

 マグワートの単身者向けの物件はひと月12万が最低ラインだった。

 その環境は劣悪。

 壁にはカビが生えたり、アクイレギアとは思えない極狭な部屋だったり。


「マグワートで何不自由ない水準の一人部屋だと、月40万することを踏まえてほしいのだけれど」

「踏まえる踏まえる」


 すると、柔らかそうな唇が動いた。


「ここはひと月、ふたりで30万ほどよ」

「つまり、一人15万……安くね!?」


 散々見て来た、アクイレギアの家賃にバグってしまったので思わず出た感想がこれだ。……もちろん、地方出身のルヴィたちからすると、まず間違いなく高いと悲鳴を上げる金額だ。この半分の金額で、一軒家に住めるくらい。


「マグワートの二つ隣の区になるのと、ここは主に中流家庭の住宅街だから、かしら」

「これで中流?」


 隣もその隣も豪邸だ。

 向かいの建物は、住宅街というよりは住居と店が一体化したような建物が並んでいる。


「芝生の庭と、建物の背後に森があるけど?」

「自然がとても好きなのね」

「…………………まあ、土地も広いしな」


 区とまたぐと、同じ国でもまるで刑務所の部屋のような間取りの物件が倍以上の価格である現実を一旦横に置いて自分を納得させる。


「さすがにここはマグワート片岩(シスト)が途切れてるんだろうな」


 高くても、ルヴィたちがいる3階くらいまでの建物ばかりである立派な住宅街を見渡す。マグワートで見られたような超高層ビル群は見当たらない。


「……マグワート片岩?」

「そ。およそ4億5千万年前に形成された硬い基盤岩が、マグワート島の地表近くに露出してるんだ。その岩盤が、リグナムバイタを象徴するたくさんの摩天楼っていう異様な景色を可能にしてるんだ」


 でなければ、100階越えのビルなんて、とても夢物語だ。

 いくら母国ほど地震が少ないとはいえ。


「リグナムバイタは水はけが悪いと聞くけれど、それも岩盤が関係しているの?」

「それはさっき言ったことも関係するんだけど、まあ人為的なものが要因」


 高層ビルを建設し続け、マグワートはその大部分をコンクリートで地面を覆っている。雨水はどこに行くかと言えば排水溝だが、ここにも問題がある。生活排水と一緒に流れる方式だ。昔はこれでもよかったのだが、環境異変で今までにない豪雨が起こるようになると、処理可能量を越え、逆流してしまい、瞬く間に汚水に浸かる街になってしまう。


「マグワートの賃貸物件は、除湿してないとカビだらけになっちまうって話だ」

「そうすると乾燥の問題が出て来るのではないかしら?」

「カビって見た目が悪いだけじゃなくて、吸い込むと有害だからそれどころじゃないんだろな」


 きらびやかに見える巨大都市リグナムバイタの生活も、いざ住むことを考えて調べてみると、綺麗なものばかりではない。


「それに引き換え、ここは天国だな。どうやって見つけたんだ?」

「祖父の知り合いから教えてもらったの。ここは犯罪率も一桁だから。……それでもイクシオリリオンの一番治安が悪い地域の2倍の発生率だけれど」


 思わず舌を出す。一度外に出てみなければわからない。外は危険なことでいっぱいだ。幼馴染がそっと壁から部屋の中心に離れていくのを見て、ルヴィも窓から離れようとして視線を感じ外を見た。人が通りを歩いているわけでもない。あるのは、深い緑のテントがある全面ガラス張りの雑貨店ぐらいだ。首をひねり、ネムに続く。――いざ、部屋割りだ!

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