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厄介な味方

「うぅ……」


 未だに先程のことを引きずっているのか、ルイエは顔を俯かせていた。


「いい加減に慣れてくださいよ、ルイエさん」

「でも……戦ってるときのわたしは、ヤバイ奴じゃない?」

「……まあ、それは否定できないです……」


 ルイエと涼子は仲がいいのか、単なる雇い主と雇われという関係には見えない。

 友達……というほうがしっくりくる。


「…………」


 肝心の安人といえば、後ろの方で話の輪に入らずに黙ってついていくだけ。

 すでに出来上がっている仲の間に割って入ることも憚られるし、そもそも話題が何にも思いつかない。

 そもそもあったとしても話かけはしないだろう。

 安人はルイエからスカウトされた身であるとはいえ、ただの単なる雇われの他人でしかなく……安人も雇い主と雇われという割り切った関係のほうが好ましい。


 ……そう、思っていたのだけど。


「――それで、日森さんはどうなんです?」

「……?」

「聞いてなかったんですか? 涼子ちゃんが敬語をやめてくれないって話ですよ」

「はぁ……そうですか」

「一応、同い年なのに、涼子ちゃんは『上司だから』って堅苦しいんです」

「はぁ……」


 安人にそう言われても、立場の違いというものに年齢は関係ないだろう。

 現に、安人もルイエに対しては敬語っぽいものを使っている。

 そういう考えが態度に出ていたのか、余計に不満を募らせてしまいルイエは頬を膨らます。


「……日森さんもタメ口でいいんですよ?」

「いえ、いいです」

「そこをなんとか!」

「と言われても……」


 身長差のせいで自然と上目遣いになるルイエを無視しつつ、歩を早めていく。





 ――安人たちはどんどん奥に進んでいく。


 進むたびに景色は荒廃していき、魔物による被害の規模をうかがえる。

 奥に進むほど魔物との戦闘も増えて、少しだけ疲労が見え始めていた。


「ふぅ……さすがに、この数を相手にすると疲れますね」

「……ですね」


 とは言うもののこれといって疲労感を感じていない。

 刀を抜けば敵は弱くなり、こちらは簡単に倒すことができる。

 もっとサクサク進みたいなとは思う。

 けれど、無理に急いで疲れることはしたくない。


「なんだか、戦うときだけ体が重い気がします……気のせいならいいのですが」

「そうなんですか? 後ろから見ててもいつも通りでしたよ?」

「……だと、いいんですが」



 なんて会話もありつつ、ついに目的地である最深部に辿りついた。

 そこにいる強力な魔物を討伐することで、今回の仕事は終了する。


「――これは」


 そこに足を踏み入れるとすぐに怪我人がそこら中に転がっているのが目に入る。


「涼子ちゃん! 怪我人をお願い!」

「っ、はい!」


 すぐさまルイエは涼子に指示を出し、戦闘態勢をとる。

 魔物はウェアウルフという狼人間で、灰色の毛に鋭そうな爪。

 その全身には返り血と思われるものが付着している。


 魔物の姿を見て安人も刀を取り出し、いつでも戦えるように。


 ……すると、ルイエに異変が生じた。


「っ! また体が……!」


 体から力が抜けていき、全身に圧力がかかるように体が重くなる。

 全力には程遠いコンディション。

 けれど、そんなことで止まるわけにはいかない。


 わずらわしいものを振り払うように、足に力をこめて怪物に立ち向かっていく。


 いつもならすぐに詰めれる距離でも、数秒ほど時間がかかってしまう。


 ウェアウルフも接近するルイエに気付き、大振りに右腕の爪を振るう。


「っ!」


 両手に持っている剣で、その攻撃を弾き、かすった傷から噴き出た血を剣にまとう。

 スッと目を細め、標的を見据える。

 姿勢を低くし、相手の視界から消えるように意識しながら動く。

 そのまま懐に潜りこみ、その胴体を切り刻む。


 ……しかし、硬い毛並みに守られて思ったように斬撃が通らない。

 ならば、と相手を切り刻むようなチェーンソーの形から鋭く、薄い刃のように形を変えて胸に突き刺す。


 ――ズブリ、と確かな手ごたえと共に、傷口から魔物の血を吸い上げていく。


 ……いつもならすぐに失血死するか、動きが鈍くなるのに血を吸い上げる速度が遅くて大して効いている様子がない。

 そのため、魔物は反撃しようとルイエの胴体を掴み引きはがし、そのままぶん投げる。


「くっ……」


 感覚がずれて、いつものように戦えない。

 ――でもそれは、魔物も同じようにルイエには見えた。

 でなければ、投げられても無事であるはずがない。

 

 ここに居る同業者たちの実力はルイエよりも劣るが、それでもあっさりと負けるとは考えづらく……どういう訳なのか今のルイエには体に不調を抱えている。

 そんな状態で同業者を圧倒する魔物に投げ飛ばされれば、怪我の一つや二つをしていてもおかしくない。


 ……つまるところ、魔物にも同じように体に不調をきたしているとルイエは推測を立てた。


 その原因は――


「……日森さん?」


 目にも止まらぬ速度で、横を通りぬけ魔物に斬りかかる安人。


 通りづらいはずの斬撃がいともたやすく効いていて、一秒たつ度に傷が増えていく。

 遠くから見ているからこそ、安人と魔物の実力がかけ離れすぎていることが良く分かる。


 ルイエには安人の動きが目で追えず、ただただなぶられる魔物の姿しか映っていない。



「……ふぅ」


 それから三十秒ほど経っただろうか。

 魔物は地に伏せ、安人が刀を仕舞ったとたんに体の不調が取り除かれていった。


 それに気づいたとき……ぞくぞくと、背筋に冷たいものが走る。

 周囲に影響するほどの強い能力。

 敵味方を問わず、その場にいるものを弱体化させる力なんて、想像すらできない。


「日森さん……」

「ああ、ルイエさん。終わりました」


 何事もなかったように振る舞い、魔物と戦ったあとなのに先ほど話していたときと変わらぬ雰囲気でこちらに戻ってくる。



 初めて会ったときは、とても頼もしく思えた。

 だからこそルイエはスカウトしたのだ。

 味方にできれば必ず戦力になると確信もしていた。


 そんな安人の姿が……今はとても恐ろしく見える。


「とても、厄介な能力ですね」


 ルイエは思う。

 ……自分たちなんて、この人にとって単なる足手まといでしかないのだろう……と。

Q.どうして主人公ばかりが活躍するんですか?

A.剣を抜くと無差別にデバフをまき散らすから

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