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仕様!これは仕様です!

 ルイエの後を追い、せっかくやってきた都会を離れて再び郊外へと向かう。


「実は建設途中の防壁付近で魔物が大量発生してしまい、その討伐に向かわなければならなくなりまして」


 せっかく、新東京の案内をするために色々と準備してきたのに……と不満げにため息をつくルイエを正面に、安人は緊張でいっぱいいっぱいだった。


 窓の外から見える景色はとても広く、青い空が美しく。

 目の前にいるのは美少女で、とても落ち着いた様子。

 普通であれば表面上は取り繕いつつも、内心でガッツポーズをとるくらいのシチュエーション。


 ……しかし、それが空の旅でなければ話は違っただろう。


 ルイエに招かれ高層ビルの屋上に来たかと思えば、耳を切り裂くようなプロペラの音。

 物々しく鎮座するヘリコプターの姿を見て、高所恐怖症の安人は絶望した。


 魔物を狩ることには躊躇ないくせに、足元が不安定で吸い込まれそうになるほど遠い地面を見ると気を失いそうになる。


「それは、大変、ですね……」

「そうなんです。ですが、いい機会でもあります。ここで日森さんが成果を出せば、魔物討伐協会で立ち回りやすくなります」

「へ、へぇ……」


 そんなことはどうでもいいから早く現場についてほしい。





 ……それから、三十分後。


「地面だ……地面、だぁ……!」


 大地の存在にありがたみを覚えながら、一歩一歩を踏みしめる。


 現場は寂びれた工事現場という感じで、作りかけの防壁が見える。

 その向こうは倒壊した建物で溢れかえっており、世紀末感がすごい。


 現場にはスーツ姿の成人男性や、制服を着た女子高生などバラバラの恰好をしている人たちがちらほらと確認できる。

 それこそ安人と同じような普段着の恰好をしている人まで。


「おい……あれって」

「ああ、間違いない……ルイエ・フェアウェルンだ」

「すっご~、本物なんて初めて見たわ~」


 統一性のなさに困惑する安人だけれど、その全員がルイエの姿を見て驚いているというのはなんとなく分かった。

 そんなに有名人なのか……と意外に思っていると、ルイエの近くにやってくる女の子が一人。


「お疲れさまです、ルイエさん」

「はい。お疲れさま……準備は万全なの? 涼子ちゃん」

「いつでも出撃可能です。……ところでそちらの男性はどなたですか?」


 明るい茶髪を肩にかからない程度に切り揃え、垂れ目で優しそうな瞳で安人のほうを見ている。

 彼女の名前は、牧屋まきや涼子りょうこ……『治癒強化』という回復系の能力を有するルイエお抱えのヒーラー。


「紹介します。新しく雇うことになった日森安人さんです」

「どうも」

「で、こちらが同じくわたしに雇われている牧屋涼子ちゃん」


 お互いにぺこりと会釈して挨拶をする。

 見たところ年下だけど、先に雇われているならこの人は安人の先輩にあたるのだろう。


 しかし、優しげな雰囲気というか……花のような人だなという安人の第一印象。

 見た者を虜にするルイエとは違って、安らぎを感じるような容姿。

 近くにいるだけで心が浄化されてしまいそう。


「……では挨拶もそこそこにして、急ぎましょう。魔物が現れたようです」


 見れば、周りにいた同業者らしき人たちは移動を始めていた。

 遅れを取らないように安人たちも歩き始める。


「配置についてなのですが、涼子ちゃんは回復担当なので後衛、わたしと日森さんが前衛という感じです」

「はい。怪我をしたらすぐに言ってくださいね」

「りょーかいです」


 ルイエは歩きながらそれぞれの役割について説明する。



「…………あと、わたしのアーツについてなのですが」


 一通り説明を終えたあと、ルイエはとても言いづらそうに切り出す。

 少し大人びた表情から恥じらう年頃の少女のように顔を赤らめながら。


「その、戦いになるとちょっと、はっちゃけちゃうみたいで……あまり気にしないでくださいね?」

「???」


 その言葉の意味は魔物と遭遇してすぐに理解させられた……。





「……あはっ」


 防壁の近くに湧いたのは、オークという豚の顔をした人型の魔物。

 分厚い皮膚と巨体に見合った怪力が特徴で、硬いし強いしで単純に火力で倒すしかない厄介な相手。


 ……だと言うのに、ルイエは肉をえぐるように得物で切り裂いていく。


 魔物と遭遇し、刀を抜いて倒そうとした安人よりも早く二本の剣を出現させて切り掛かっていった。


 ルイエの剣は、片刃の黒いただの剣だった。

 けれど、魔物を切り裂きその血が刀身にかかった時、その血はノコギリ状に変化し振動し始める。


 魔物の血は全て剣に吸われていき、普通なら返り血で溢れているはずのルイエの体は綺麗なまま。


 血を吸うたびに切れ味を増していく。同時にルイエの様子もおかしくなっていった。

 頬は紅潮し、吐く息は荒っぽく。


「うふふ……」


 魔物が切り裂かれいく度に嬉しそうに笑う。

 その血はまるで酒かのように。

 少女は血に酔いしれていた。


 まず、腹を掻っ捌いた。

 そのまま右手の刃をひねり上に向けると、そのまま巨体を駆け上がるように肩まで切り裂く。

 上空で左手の剣を横に構えて、一気に振り抜いた。


 オークの顔面はぐちゃぐちゃに切り裂かれ、そのまま地面に突っ伏した。



「はぁ、はぁ……はぁ、ふぅ……」


 魔物を倒したことで荒かった息も整い、剣を仕舞う。

 と、同時に顔を覆いそのまましゃがんでしまった。


「あ、あのー?」


 どこか怪我でもしてしまったのかと心配になり声をかける安人だが……


「気にしないでくださいあれは仕方ないことなんです戦うと何故か気分が上がって普段とは違う自分になっちゃうというかそんなつもりはないのに血が大好きみたいな危ない奴に見えるせいで同業者からは避けられる一方で――」

「うわ怖っ!?」

「仕様! これは仕様なんです!」

「えっと……これは?」


 もう訳も分からず、後ろの方で控えていた涼子に問いかける。


「ルイエさんのアーツは『切った相手の血を糧に斬撃性を増す』というものなんですが……なぜかその度に精神が昂揚して血に酔ってしまうみたいなんですよ」

「……それで、どうしてあんな風に……」

「アーツを解除すると一気に素面に戻って、さっきまでの自分の行いを振り返り、羞恥心に悶えているところです」

「ルイエさん、酔ってても記憶に残るタイプか……」


 未成年相手にこんな感想抱く日がくるとは。


「――なので、こうして優しく接してあげてください」


 涼子が急にルイエに近づいたと思ったら、そのまま背中に手を添えて、寄り添うにゆっくりとルイエに話しかける。


「は!」


 現実に戻ってきたルイエはのろのろと起き上がり――


「……と言う訳なので、敵味方の区別はつくけど、戦ってる時のわたしはわたしでないので」

「あっはい」

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