年下の少女に雇われる
――などとハプニングがあったその日の夜。
玄関のチャイムがなり、珍しく安人に客が来ていた。
今から夕食で、飯テロ動画を見ていた最中だったため、ちょっとだけ不機嫌。
けれど、その客人が魔物から助けた少女――ルイエだったことで、一気に吹き飛んだ。
「こんばんわ。日森さん」
「あ、どうも」
ペコリと律儀に挨拶をしてくるルイエに合わせて同じように挨拶をする。
昼間にあった傷なんてなかったかのように元気に動くルイエに安人は圧倒されてしまう。
なんだか弱々しい印象があって、こう元気に動く姿を見ると少し違和感を感じる。
けれど、昼間にあった少女であることは疑いようもない。
透き通るような金髪と幼い顔立ち……真っすぐできれいな青い瞳の少女なんてそうそういないだろうから。
「あの……上がらせてもらってもいいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ……」
なんか流されるままに部屋に上げてしまう。
最近は、家に帰っては食って寝る生活を送っているせいか、部屋が汚い。
どれくらい汚いかというと、脱いだ服とかそこらへんに放り投げてるレベル。ほこりが見えるほど積もってはいないけど、確実にほこりまみれな部屋なことだけは言える。
そんな状態で人を……ましてや女の子を上げるなんて正気の沙汰ではなかった。
「すいません、汚いところで」
「いえ……突然、押しかけたわたしが悪いので」
「それで、いったいなんの用で俺の家に?」
「……提案を、しにきたんです」
「提案?」
「はい。ですが、その前に少しだけ新たに施行された法律についてお話させてください」
「? はい……」
昼間とは打って変わって、なんだか社会人を相手にしているような感覚に陥る。
相手は年下のはずなのに……。
「今年の二月に表れた魔物に対抗するように、人々には『アーツ』……特殊な力が発現するようになりました」
「それは、まあ知ってます」
「その力を利用して、魔物を倒し、自分の身を守るように動くものもいれば……その力を私利私欲のために悪用する者も出てきました」
「あぁ……」
まあ、考えてみれば自然なことだ。
安人だって、楽に生きたいなんて私欲まみれなことに使おうとしていたくらいだし。
そういった輩が現れても仕方ない。
「そこで、国同士が協力し、『魔物討伐協会』を設立。ここに属さぬものはアーツの使用の一切を禁止。もし破れば、その場で殺されても文句は言えません」
「うわ、物騒」
「逆に協会に所属するものは、アーツの行使や魔物を討伐するために支援を受けたりとかなり優遇されます。……代わりに、魔物を討伐するという義務も課せられますが」
なるほど、などと納得している安人だが、だんだんとルイエの言いたいことが分かってきて冷や汗を隠しきれていなかった。
「従って、日森さんのようにアーツを勝手に使うのは違反行為でして……助けられた身でなんですが、その、日森さんを拘束しないといけなくて」
「…………」
ダラダラと汗がとまらない。
なんかもう、めんどくさいとか言ってる場合ではなくなってきた。
「そこで、わたしから提案させていただきたいんです」
どこか固い雰囲気がとけ、こちらに寄り添うようにルイエは口調をやわらげる。
「失礼ですが、軽く日森さんのことを調べさせていただきました」
「は、はぁ……」
「現在、この町の大学に通われているそうですが……二年度から授業に出なくなったとか」
「まあ、そっすね」
「つまり、大学生活に執着がないと見ます」
「…………」
「……正直、日森さんの力はすごいです。羨ましいくらいです。拘束して処分するにはもったいないです」
「…………どうも」
「そこで提案についてなのですが……協会に属するものは、私兵を雇うことが認められていまして」
すこし間をおいて、ルイエは安人にとってとてつもなく魅力的な提案を繰り出す。
「きちんと報酬や健康で文化的な生活を保障します。わたしに雇われませんか?」
「え? まじ?」
降って湧いた展開に思わず素の口調でつぶやいてしまう。
いや待て、働きたくはない。雇われるということは働かなきゃいけなくなる。
「もちろん、日森さんには魔物の討伐だけをお願いするつもりです」
「……それ、なら、まあ……」
魔物を狩るのは苦ではないけれども……いや、よく考えよう。
魔物を倒すだけで生活とお金が保障されてるんだ。
こんなにおいしい話はない。
逆に考えよう。
いつもの日課にお金が付くようになった、と。
そう考えると、なんてお得な提案なんだと目の前にいる年下の少女が輝いて見える。
「よろしくお願いしますッ!」
「? は、はい、よろしくお願いします……?」
急にテンションが高くなり手を取る安人の様子を疑問に思いながらも、とりあえず話はまとまった。
「それじゃあ、引っ越しの準備とかしておいてくださいね。大学とかご両親への説明はこちらでやっておきますので」
帰る直前。
玄関で体を翻しながら、ルイエは安人にそう告げる。
これからの生活を思い、うきうきな安人は返事をするけど心ここにあらずな感じで浮かれていた。
……寝る前に、「あれ? 年下の女の子に金と生活の面倒見てもらうってこと?」という事実に気付くまでは。




