人生楽して生きたい
「あーあ、人生ってめんどくせー」
高校二年の六月。
差し迫った進路希望調査票に白紙のまま提出した日森安人は憂鬱に教室の窓から青空を眺めていた。
彼は、なんとなくこのままだといけないと思っていた。
自分の性格を客観視したとき、めんどくさがり、努力できない、つまらない性格……総じてやる気のない人間。
ここら辺だと有名な進学校であるこの学校では、二年のうちから進路を決めそれに向かって進んでいくものが多い。
けれど安人は目標も将来の夢もなく、漫然と「働くくらいならヒモになりたい」と願うような一般男子高校生。
そんな人間が進路なんてまともなことを考えるわけもなく、今日も進路指導室で担任に呼び出され、バックれていた。
「うし、帰ろ」
校舎を抜け、商店街を通り家に向かう。
その途中で、本屋を見かけなんとなく寄り道をする。
「お、新刊みっけ」
なんとなくで買っているラノベの続刊を見つけて、購入する。
いいよなー、ラノベの主人公は。
特別な力があって、それで人生がうまくいっている。
俺にも特別な力とかあれば人生楽していけるのに。
なんて、淡い夢を見る。
▼
翌日。
進路指導をバックれたことで顔を合わせづらくなった安人は学校をさぼり、町をぶらついてた。
片田舎であるこの町では少し足を伸ばせば、人通りの少ない森に出る。
なんて特別な事もない、普通の日常。
退屈で、仕方ない。当たり前の日常。
もしかしたらいつもと違うことをすれば、特別なことが起きるんじゃないかとここまで来てはみたものの、なんにもないただの森。
でも、人気のない森で少しだけテンションの上がった安人はなぜかそこで筋トレを始めた。
なにか特別なことをしたかったし、学校をサボったことへの現実逃避。
ダラダラと何もしないよりは、こうして何かしている気分でいるほうが気持ちがよかった。
……つまるところ、遅めの中二病である。
こうして安人は学校をサボり、森で独自で考えたトレーニングをするようになった。
筋トレや走り込み……瞑想といった精神修行。
さすがにオリジナルの魔法とか呪文を考えるほどではなかったにしろ、何か一般人とは違うことをしてるという感覚に嵌り、のめりこんでいった。
そうして、単位スレスレ、成績最低の状態で高校三年を迎えた。
さすがにまずいと思ったけど、今更がんばることもできず、とりあえず最低限の授業だけ受けて成績はなんとかしようと試みた。
結果、地元から離れたところの地方大学に受かることには成功。
友達もいないし、家族からは「独り立ちして、世の中をなめ腐った性根を治すいい機会」だと言われてしまった。
そうして始まる大学生活。
もしかしたら、面白いことが待っていると期待していた。
でも、現実は――やる気のない顔、下品な会話、ほこりっぽい校舎。
つまるところ、高校のときとなんにも変わっていない。
面白いことも、ワクワクするようなこともない。つまらない生活が待っているだけだ。
唯一の楽しみは、日課のトレーニング。
もはや人目を憚ることなく、そこらへんの公園で筋トレを行い、そのまま瞑想する。
時折、変人を見るような目で子供たちが安人のことを見てくるけど、興味の欠片も示さない。
もとより、なにも期待していない彼は、なにかに期待することすらやめてしまった。
「大学一年……こんなもんかぁ……」
すでに大学一年も終わりを迎えようとしており、今は二月。
何事もなく、面白みもなく一年が終わろうとしていた。
なにもしてこなかった自分が悪いと分かってはいる。
だけど、生きるのが苦しい。おもしろくない。
親からの仕送りで生活はできるからバイトはしなくてもいいけど、もししなくちゃならなかったらもっと嫌になる。
「どうして人は働かなくちゃいけないんだ……働きたくない」
答えは簡単だ。生きるために。
じゃあ、生きるのやめたら? と何度思ったことか。
だけど、安らかに死ぬ方法を模索したところで良い案なんて浮かぶはずもないから、今日も惰性で生きていく。
「クソだりぃ」
いつもそうだ。
なんとなくで流されるだけの人生。
面白いことも、劇的なこともないまま、ロクな人生を送っていくんだろう。
「こんなことして、何になるっていうんだか」
惰性、なんとなく。
そんなことばかりの人生だった。
変わる努力もしないのに、何かが変わることなんてないと。
……そう、思っていた。
『――各地で出現する謎の生物は、無差別に人を攻撃し、政府はこれを「魔物」と呼称し今後の対策をすべく日夜会議を行っており――』
「え?」
その日入ってきたニュースは信じられないものだった。
東京など、各地の主要な都市で不可思議な生物が暴れて、町を破壊する映像。
ネットで調べれば簡単に、各地の悲惨な現場が画像として出てくる。
人の集まる場所のみが集中して狙われているのはすぐに分かり、人の少ないここら辺だと被害はなかった。
「やべぇ……やべぇって」
自然と口角が上がるのを感じる。
ニヤケるのをやめられない。
同時にこうも思った。
――なんでそこに俺がいない。どうしてこんな地方にいるんだ。
もちろん、成績悪くてここしか選べなかったからである。
「へぇ……不思議な力、ねぇ」
SNSで物を浮かしたり、燃やしたりする動画がバズっていた。
突然、当たり前のように力に芽生えたらしく、使いこなすさまは物語の主人公のようで……羨ましいと純粋に思う。
……自分にもあるのだろうか。
でも、そんな感じはいっさいない――
「あ、なんか出た」
わけもなかった。
なんか、体の中に刀がある感じがしてそれを抜こうと思ったら、いつの間にか鍔のない真っ黒な刀を握っていた。
「うーん……しょぼくね?」
なんか力が湧き上がってくるとか、意識が刀に呑み込まれるとかそういったことも感じない。
特になにも変わらず、人生楽して生きていきたいと思う自分しかいなかった。
「まあ、こんなもんなのか?」
ちなみに仕舞おうと意識すると、刀は体内に取り込まれて消えた。




