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sideフレデリック 今までの事

 


 初めは、やり直そうだなんて考えた事など無かった。


 たまたまなんだ。

 たまたま、やり直すなんて事が、出来てしまった。




 一度目の時。


 皇帝陛下が倒れてから、少しずつ、少しずつ狂っていったような気がする。

 皇帝陛下が倒れた事により、俺は周りに目を向ける事も出来ない程に政務の激務に翻弄されていた。


 まだまだ慣れない政務に四苦八苦している間に、あっという間に皇帝陛下が崩御された。



 呆然と、した。


 幾ら何でも、このままでは帝国が立ち行かなくなるのは明白で。


 皇帝陛下の側近が有能であろうとも。

 マクシミリアンが皇帝陛下となれば、側近が入れ替えられるのは間違いなく。


 それを取り仕切る為に、居る筈のマグリットは未だ婚約者。

 皇太子妃ではないものに、政務に関わるような事はさせられなかった。

 まだ、そこまで焦る必要は無かった、筈であった。


 皇帝陛下が、若かったからだ。



 でもその考えさえも、甘かったのだ。


 俺はマグリットがこの時、牢屋で捕まっているなどと、知らされもしていなかった。



 知ったのはマグリットが何故か、処刑されたという事だけだ。



 何を、やっているのだと愕然と、した。


 けれど、既にマグリットは居ないのだ。


 マクシミリアン皇帝陛下を支えるべき、皇后陛下として選ばれた女は、どれだけ良い所を見ようとしても、全くもって貴族令嬢としての嗜みさえ無い、平民や貴族というよりも、まるで娼婦、いや娼婦にさえ失礼だ。毒婦とはこう言う者を差すのだと、体現してるかのようだった。


 事実、マクシミリアンは皇帝陛下の忠実な家臣をクビにするだけでなく、反抗すれば処刑していく。


 マグリットが言うように。

 帝国での女の言葉は、軽い。皇族の言葉は、確かに絶対なのだ。

 けれど、皇族であろうとも。

 皇帝陛下の言葉には、勝てない。


 俺が何を言おうとも、マクシミリアンは聞く耳を持とうともしなかった。貴族の半数は処刑や、解雇された頃だと思う。その頃には流石に、誰も逆らう事が出来なくなっていた。


 皇帝陛下が崩御後、たった数年。

 たった数年で潤沢であった国庫は、枯渇する。


 マクシミリアン皇帝陛下とジェシカ皇后陛下が、見境もなく国庫を食い潰していった。

 そうなれば、より一層俺は忙しくなっていく。家になど帰る時間さえ取れず、謀反が、一揆が、反逆が、内乱が、全てを起こさないように、宥めすかし騙し騙しで国を運営するのが手一杯で。


 けれどそんなのは、何れ限界が来る。


 そして気付けば、帝国は他国に侵略され名さえ残さず滅びるのだ。


 滅びで、俺は何故か死にはしなかった。死ななかっただけで、多くの、平民とか貴族とかそんなものは関係無く、多くの血を、死体を、見た。


 血みどろの海かと思う場所に立っていた時は、気が狂うかと思った。


 いや、きっと。

 もう既に。

 その頃には、俺も狂っていたのかもしれない。



 そして、俺はやってはいけない事をやってしまった。


 もう一度、と。


 そう、願ってしまった。




 過去、偶然に偶然を重ねた結果、もう二度とは作れない魔道具が出来てしまった。

 解析にも時間をかけ、どうやら本当に出来るようだ。という所で止まった。

 だからどうだと言うのだ。と当時、自問自答をした。


 これは世には出てはいけないものだ、と。


 けれど破棄するには、魔道具の作り手としては出来なかった。

 しかし見つからないように、隠す事さえも不安であった。

 見える所に無いと、誰かに見つかり悪用されかねないと疑心暗鬼になり、結局はずっと持ち歩く選択をした。


 常に付けているそれに手を、触れる。


 悩んだ。

 幾ら悲惨な事があったからと、そんな人道的で無い事をやるのに抵抗を覚えない者は居ないだろう。

 だからこそ。

 悩んだ。



 正直、このまま帝国は滅びたまま方が良いのかと、思った事さえある。

 マクシミリアンが皇帝陛下として即位し、滅びの道を辿った。


 なら別の者が、例えば俺が即位をすれば解決するのかと考えた時。

 やはり争いは避けられないと。

 だから俺は皇帝陛下になろうなどとは、思わなかった。

 皇帝になりたいという、野心があった訳では無いし。



 このまま、生き延びた事を知られずに。

 又は、皇族らしく自決して。


 此処で終わるべきかと、血塗られた国の真ん中で立ち尽くした。


 その時、まだ息があったのか。倒れている者の呻き声が聞こえた。

 そちらに顔を向けるも、顔色から何から助かる雰囲気は、感じない。


 むしろ呻き声のみで、何かを話せる様子も無い。


 けれどそれを見た瞬間。

 後悔ばかりが、募った。


 別にこの呻き声に特別なものなど無かったし、むしろ今ではそれが誰だったかも覚えてなど居ない。辛うじて皇宮内で働いていたであろう人物だった、と言うくらいしか覚えてなどいない。



 苦しそうな声、叫び声、恐怖からくるであろう絶叫、恨み声、怨み声、隠れるように啜り泣く声、絶望から狂った声、喚き声、怒声、傷が痛むのか苦痛に満ちた声、ブツブツと声を絞り出しながら聞こえる恨み言、奇声、押し殺すかのような殺気を伴う声、号泣、ヒイヒイと言葉にならない言葉で命乞いをする声、悲痛な叫び、壊れてしまったのか逆に歓喜に満ちた声、嘲り、断末魔、金切り声、咆哮。



 散々、聞いたのに。


 何故かこの唸り声ひとつで、心が決まる。


 特に何の装飾も無いカフスに手を掛ける。

 カフスの裏側に、付けてさえ違和感を感じさせない程に小さな小さな魔石がある。


 こんな小さな魔石にこんな魔法陣を刻まれたのは、本当に奇跡で。

 俺のスキルでさえも、これ程までの物は本来であれば不可能なのに。




 起動させる為に、俺の少なくは無い魔力を全力で流し込む。


 俺の限界まで、全ての魔力を食った魔石がどうなったかはわからないけれど。俺は魔力の枯渇で意識を失っていたと、思う。


 実際には、わからない。

 ただ意識を失っていただけなのか、魔道具の起動で魔力を使い過ぎて、実は死んでしまったのか。




 気付けば、自室のベッドの上だった。


 自分で作った魔道具で、研究、解析の結果出来るだろうと判断はしたが、本当にやり直しなんてものが、出来たのか。

 その段階でさえ。疑心暗鬼だった。


 けれど皇宮内に充満しているであろう、嗅ぎ慣れた血の匂いは感じなかった。



 本当にやり直しが出来たと知った特には、喜びなんかの感情は正直全く感じなかった。

 やってしまった。とそう思った。


 やってしまったからには、それ相応の責任を。

 そう感じたのは、確か、で。



 けれど罪の意志かなんなのか、俺自身にも判断出来ない複雑なモノが心に渦巻いて。

 結局は、俺の側近に話した。


 本気で信じていたのかどうかは、わからないが。表面上は主人が言う事と、そう信じているようには振る舞ってはいた。




 そして同じ未来を辿らないために、どうすれば良いのかを考えた。

 実は言うと、俺はこの時全く何もかも周りの状況がわかっていなかった。


 本音を言うと、マグリットが処刑された事は知ってはいたが、それがいつ執行されたのかも、そもそも牢屋に入れられていた事も、知らされてはいなかった。


 それは当然だったのだろう。

 マグリットの牢屋入りは、かなり秘匿にされていた。


 マグリットが牢屋に入っている頃はまだ皇帝陛下が生きており、マクシミリアンはまだ皇太子。

 俺が知れば、皇帝陛下の耳にも入ると流石に気付いていたんだな。全くもって何もかも、俺の元へと情報は入っては来なかった。


 だからこそ、この二回目のやり直しの初めはマグリットが処刑された事しか知らなかった。


 当然、一回目の時でさえ調べた。

 調べたが、既にその頃にはマクシミリアンが皇帝陛下で。俺では情報の尻尾さえ、掴ませてはもらえなかった。



 こんな許されざる事をしたのだ。

 神が居るかどうかなどわからないが、これがまさに神への冒涜というモノだと、思った。

 同じ事を繰り返す訳にはいかないと、そう決心したんだ。

 この時は、本気で。



 けれど二回目も、結局はマグリットが牢屋に入った事は知らないまま。

 皇宮が管理する所とは別の、個人の所有の場所なのかもしれない。

 今となっては調べる事も、叶わないのだが。


 そしてマグリットを秘密裏に捜索している間、皇帝陛下の崩御。あっという間にマグリットが処刑だ。正直、何の冗談かと思ったよ。

 何故此処まで、手際が良いのかと。


 マクシミリアンの手駒に。そこまで優秀な者が居たのかと、本気で驚いた。



 その後の事もどう頑張ったところで、マクシミリアンとジェシカの暴走は止められない。

 殺されると知っている者に関しては、どうにか助けようと奮闘もした。

 けれど、何も変わらないんだ。



 マクシミリアンが皇帝陛下になる前に軌道修正が出来なければ、恐らくは駄目だったのではと気付く。

 この国は、皇帝陛下の権限が強過ぎる。


 今更権限をどうこうする事は、叶わない。

 マクシミリアンが皇帝陛下になる前に、何とかしなければならなかったのだ。


 それでも何とかなるのではと一回目の時と同様、政務を熟し皇帝陛下への不満を爆発させないようにしながらも、フレデリックとジェシカにこのままでは帝国は立ち行かなくなる事を、口酸っぱく伝える。


 結局は、暖簾に腕押し。

 全くもって俺の言葉は、受け入れてはもらえなかった。



 やはり最後は同じように全てが血みどろで、何故こうなったんだと放心する。

 やはりやり直すべきでは、無かったのか。


 何処が駄目だったかと自問自答するも、わからない。

 どれもこれも、と間違っていたような気がする。


 やり直したつもりが、同じ結末になって。

 悔しいよりも、悲しいよりも。


 虚しい。


 どうする、とやはり血みどろで鉄の臭いが充満する皇宮内の通路で佇む。


 マクシミリアンの悪政の中、それでも残っている忠義の心を持つ者達がフレデリックを逃し、生き残らせてくれた。

 けれど最後は、前回も今回も。こうしてたった一人、こうして立っている。皇族とて、一人で生き残ったところでどうしろと言うのか。


 マクシミリアンやジェシカが、どうなったかはわからない。けれど流石に此処まで侵略されて、無事だとは思えない。


 カフスに、触れる。


 また、やるのか?

 また、繰り返すのか?


 それとも。

 やり直す機会があるのなら、やるべきなのか?


 このまま此処で終わり、後悔は、無いのか。

 無念だと、悔やまないのか。


 今は確かに、俺も生きている。

 けれど皇宮は、敵国に囲まれている。


 此処から無事に、生きて出る事は叶わない。


 此処で、死ぬのか。

 此処で、またやり直すのか。


 俺が死ぬのは、別に構わない。

 けれど、俺に託した者達が、居るのだ。


 望みを、無念を、希望を、恨みを。


 運命に、抗っているのは承知の上。

 既に、一度はやり直したのだ。


 決意を固め、カフスを耳から外す。

 一度目の時と同じように、魔力全てを注ぐ。




 そして二度目のやり直し同様、気付けばベッドの上だった。


 一度目は周りが全く見えていなかった。だからこそ何故滅亡へと進んだのか理解出来なかった。

 二度目は出来うる限り、どう言う状況だったのか確認する事に費やしたと思う。

 けれど二度目でさえ、結局は大まかな事しかわからなかった。これでは又、繰り返す。そんな事はわかってるんだと嘆いた。


 まずマグリットの処刑迄の道筋が、見えない。そう、思った。

 何故か、誰もが口を開かない。


 貴族なんかは情報のやり取りが重要で、ちょっとした事でさえ噂話に上がる。なのに、マグリットの話をする者が居ない。

 他にも変な事は多くある。


 考える事も、多くあった。

 けれど二回目と同じように、側近にやり直している事を話す事は、出来なかった。



 もしかしたら、もうこの時には諦めていたのかも知れない。

 どうせやり直す事に、なるのではと。

 だからこそ誰かに話した所で無駄だと、そう思っていたような気がする。


 一回目ならまだしも、二回目の時さえも、滅亡回避の道は見つけることは出来なかった。今回もそうなるのでは無いかと。


 だからかもしれない。二回目の時に側近に話した以降、何度やり直しても誰にも話さなかったのは。

 同じ人物に同じ説明をするのも、信じてもらえないような話をするのも、結局は忘れられるのも、全てが嫌だった。


 そんな風に諦めてるくせに。この時にはもう既に、やり直しを止める事さえも、出来なくなっていたような気がする。


 三回目からは事細かに、破滅へ向かう道を確認し続けた。

 その過程で誰が死のうとも、誰が消えようと。何も気にならなくなっていた。


 どうせやり直す。


 死んだ事を覚えてなど居ないのだから、別に構いはしないだろうと。そう考えていたような気がする。


 誰を犠牲にしようとも、帝国が破滅へと向かわないように。情報を集め続けた。

 今回は無理でも、次回には。

 次回が無理でも、その次には。


 そう、思い続けていた。


 だからこそマグリットの死にも、余り目を向けなかったのかも知れない。

 どうせやり直すと、どうせ誰も覚えていないと。

 誰かが死なないように、足掻くだけ無駄だと。


 そう、思っていた。


 最低だな。俺は。



 けれど、前回のやり直しの時にやっと気付いたんだ。


 一人で全てを秘密裏に調べるのは、何度やり直した所で時間は足りない程だった。だからこそ死に鈍感になっていた俺は、その時まで全く気付かなかったんだ。


 マグリットの行動が、変わっている事に。

 マグリットの情報は、確かにかなり隠されていた。


 けれど確かに三回目以降、学園に通ってなかった事は知らされてはいた筈だったのに、何故疑問に思わなかったのかと、自分を叱責したよ。


 俺が関わった事で物事が変わると同じ様に、俺が関わらなければ同じ道を辿っていた。それを知っていた筈だったのに。


 俺が関わっていないにも関わらず、マグリットの行動が変化している事に驚愕した。

 しかし気付くのが、遅かった。


 前回のやり直しの際、俺に隠されていた情報をやっと見つけ、マグリットの元へと急いだが、間に合わなかった。

 まさに息絶える直前であった。

 その際の君の様子で、やはりやり直しを繰り返しているのは俺だけでは無いと、確信したんだ。


 もっと早く。

 気付くべきだった。

 そうすれば、君を何度も死なせはしなかったのに。


 後悔しても、仕切れない。



 俺を、軽蔑する?

 皇后になると、宣言した後にこんな風に言う俺は、狡いだろう。

 やり直しの原因となった俺を、マグリットは恨むのではと言えなかった。


 君が決意して言った事を、反故にしないと知っていて。

 俺の手を取ると言った後に、こんな事を言うなんて卑怯なんだろう。

 けれど俺はどんな事をしてでも、マグリットを手に入れたいと、そう思った。


 それとも。

 俺を許せない?


 俺は君のためなら何でもするけれど、君のためになら命も差し出すよ?君が俺を殺して、気が晴れるのであればそれも良いだろう。


 そうして君の中に俺と言う存在が刻みつける事が出来るのであれば、それだけで俺は幸せだ。



 狂っている自覚なら、ある。


 それを隠す術なら知っているから、普段は困らないのだけれど。

 マグリット。

 君には全てを見てもらいたし、君の全てを見たい。


 本当に、君になら何をされても良いんだ。


 だから。


 俺の事を嫌って手を離すくらいなら、殺して?

 恨まれても嫌われても、君の顔を見れなくなるくらいなら死んだ方が良い。


 何故此処まで君は、俺の心に入ってきたのだろう。

 こんなに、こんなに長い時間生きてきて、特別なんて無かったのに。

 それでも、嫌じゃ、無いんだ。




 愛しているよ。マグリット。








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