〜sideフレデリック 決意
「フレデリック殿下は、私とこれからどうなりたいのでしょうか?」
マグリットは手持ち無沙汰かのようにずっと持っていた紅茶のカップを、やっと下へと置く。
どうなりたい、ね。
厳密にどうなりたいかと問われると、正直なところ決めかねている。
俺が、マグリットへと向ける好意が、何処から来るものなのかは測り兼ねているのも一つの要因か。
けれど、触れたいと。
むしろ一層の事、閉じ込めて自分だけしか見れないようにしたいという情欲があるのは、間違いないのだ。
これが綺麗なだけの愛情であれば、問題は無かったのだが。
いや、弟の婚約者の事をこんな風に思う時点で問題だらけか。
苦笑が、漏れる。
手をマグリットへと伸ばして、髪の毛に触れる。
サラリと手触りの良い質感で、いつまでも触っていたくなるな、なんてちょっと意識が逸れる。
マグリットも、嫌がらずに大人しくしているものだから、ちょっと調子に乗ってしまう。
「どうなりたい、か。」
サラリと触っていた髪の毛から手を離し、座っているマグリットの目の前に座る。
キョトンとした顔を、向けてくる。その顔を俺の手で歪めさせたいと思うのは、やっぱり純粋な愛では無いのかもな、と思う。
けれど、その考えは止められない。
むしろ止められるくらいなら、そもそも閉じ込めてやりたいなど思わない。
本当にする事は、叶わないけれど。した所で、転移で逃げられて終わりだ。
マグリットの背中方面まで手を伸ばし、地面に掌を置く。
当然の如く、かなりマグリットに接近する。
流石のマグリットも、驚愕を露わにしながら後ろに手をつき、上半身を少しだが後ろへと逸らす。
触れては、いない。
「な、なに、を。」
普段から動揺どころか、感情の起伏さえ殆ど見せる事の無いマグリットの焦っている動揺に、仄暗い愉悦を感じる。
ニヤリと笑いそうになるのを辛うじて、いつも通りの微笑みに変える。が、それを見たマグリットの顔がピシリと固まる。
しまった、バレたな。と思えど、別に構わないかと思い直す。
「どうなりたいか?と聞かれても、俺にも明確なモノは無い。
けれどーーーー」
微笑みながらもっと、とマグリットへと寄る。
これは確かに触れてはいないが、もう既に囲い込んでいると言っても差し支えはない程に、近い。
引き攣った顔をするも、マグリットは逃げない。
今度こそ愉悦を湛えた笑みは、隠すことが出来なくなる。
此処まで寄っても逃げない、という事はマグリットも覚悟があるのだ。
それに気付いてしまえば、もう俺は俺を止められない。
「俺はマグリットと共に有れるのであれば、何でもする。」
「・・・・・・・・・嫌で、今まで避けていた事であろうとも?」
「当然。
俺にとってお前は、それ程の価値がある。」
暫し、その体制のまま見つめ合う。
「どうしてそこまで想われているのかは、正直わからないのですが。」
目をパチパチとしてて、ちょっと今日は普段と違う表情ばかりを見ているような気がするな、と嬉しく思う。
美人、というのは知っていた。
事実、見惚れる程である。が、俺自身はそう言う事を余り気にした事は無かったんだが、普段の貴族然としているマグリットも良いが、こうして貴族の仮面を外したマグリットの方が、可愛いな、と笑ってしまう。
「俺もなんで此処までお前を想うようになったのか、疑問に思ってるんだが。」
それでも。
お前が良いと、俺の中の仄暗い感情が疼く。
「やはり私には皇后陛下になる道しか、無いのでしょうか?」
「お前はーーーーーどうしたい?」
マグリット、君が望むなら俺は。
「どうしたい?
そもそも、私に選択肢は、あったのでしょうか・・・?」
少しだけ、いつもよりも頼りなさそうな声で呟くのが、愛おしくて堪らない。
「さぁ?どうだろうか。
けれど、マグリットが皇后陛下になりたくないというのなら、俺はお前の手を取って逃げようか。」
距離は近かったが触れていなかった手を、マグリットの手に合わせる。
ピクリと反応するも、マグリットはやはり逃げない。
「逃げれる、ものでしょうか?」
今まで逃げれなかったのに?と言葉には出してはいないがそう、聞こえるようだった。
「俺は、お前のためなら何でもするよ?」
そう。
それが、家族殺しであろうとも。
いや、この場合は国家反逆罪になるかな?
父である皇帝陛下に、弟である皇太子殿下を殺すとなると。
口にしなくても、それは伝わったようで。
目を見開いて、俺を見る。
マグリットの手の甲を、指先でゆっくりと撫でる。マグリットの手が、その行動により緊張からか固まっているのがよくわかる。
けれど、話は止めない。
「誰よりも簡単に、事は成せるよ?」
皇宮内では俺は誰よりも、信用に足る者であると自負している。
そんな俺が、皇帝陛下に害を成そうとしているなどと誰もが思わない。だからこそ手を下すなど、息をするくらい簡単に出来る。
「そんな事は、望んでいません。」
そうだな。
君ならそう言うと思っていた。
けれど。
俺は本気だ。
「やり直しを何度も繰り返して、ずっとずっと生きてきた。
けれど、欲しいと、触れたいと、渇望したのは、お前だけなんだ。」
そんな君を手に入れる為なら、俺は何でもする。
「私を手に入れさえすれば、何でもするのですか?」
「するよ?」
「私が殿下に傾倒していなくともですか?」
「ん〜そうだね?」
それもいずれは、手に入れるつもりではある。
あるが、無理でも構わない。マグリットが俺のモノだと公言出来る立場になれるのであれば、それだけで俺は歓喜する。
「なら「皇帝陛下にだってなるよ?」」
君の為なら。
君がこの帝国を、捨てれないと言うのなら。
君がこの帝国の民を、捨てれないと言うのなら。
それを背負うのも、俺はもう厭わない。
幾ら、マクシミリアンより優れていると言われようとも、わざわざ皇太子という立場を奪う気も無かった。
皇位継承に興味は無かったし、それ以上に争いの種にはなりたく無かったから。
自分さえ静かにしていれば、帝国法がマクシミリアンを皇帝にし、争いなど起こりはしない。
けれど俺が皇位継承に興味を持てば、話は変わる。
皇帝陛下以下、第一皇子派が俺を祭り上げる。
当然そこに否を唱える者がいる。
皇后陛下以下、第二皇子派の面々だ。
間違いなく、皇位継承を争う事態となる。
この国だけで収まる問題であれば、まだ良い。
しかしこの国の亀裂に付け込んで、他国が攻めてくるのは頂けない。
事実やり直しを顧みれば、それは当たらずと雖も遠からずと言った所か。
頂けないのだが、俺がマグリットを手に入れれるのであれば、そんなモノは些末な事。
そもそもそんな事、マグリットにだってわかっている筈なのだ。
それでも。
それでも俺の手を取るという、選択をすると言う。
これに愉悦を感じないで、居られる訳が無い。
「愛しているよ。マグリット。」
仄暗い感情に蓋をして、それでも心からの笑顔でマグリットへと伝える。
思えば、直接的な好意を口にしたのは初めてだったな、と思う。
マグリットはキョトンとした後、俺の言葉を理解したのか少しだが顔に赤みがサッと増し、挙動不審にキョロキョロとしているのを暫し眺める。
何だこれ。ずっと見てても飽きないなんてモノ、あるんだな何て馬鹿みたいなフワフワした思考で見つめ続ける。
可愛い。
流石にマグリットもいつまでもそんな状態でいる訳もなく、しかもニコニコを通り越してニヤニヤしている俺の顔を見て、逆に冷静になったようであった。
勿体無いと思えど、確かにこのままでだと話が止まったままになってしまうのも困る。
「私はそこまで殿下の事を、想っている訳では無いのですよ?」
「そこまで?そこまでって事は少しは想ってるって事?」
それはそれは予想よりも上で、なかなかに嬉しい。
「・・・・・・いや、想っているかどうかなど、わかりません。」
今まで恋愛など有り得ないと、皇后陛下になるのに必要では無いと言われ続けた弊害かもしれない。
マグリットはおそらく、どう言う感情が恋愛的好きなのかわからないのだ。
皇宮で施していた、マグリットへの教育。
あれは、一種の洗脳だ。
「今はそれで全然良い。
俺を少しでも意識してくれれば、それで良い。」
こうして少しのふれあいを、拒否しない距離感でさえ、今までに無かった事。それを許されるのであれば、問題無い。
「であれば、私は皇后になりましょう。」
決意のこもった眼差しで、フレデリックから目を逸らしもせず、凛とした態度で、マグリットはハッキリと告げる。
「ならば、俺は皇帝陛下に。」
忠誠を誓うように、触れていたマグリットの手を取り手の甲へとキスを送る。




