取り敢えず死ねばそこまで、では無いのです
ーーーー私は、死なねばならぬと、そう思って参りました。
「・・・・・・・・・」
そう呟くと、フレデリックは瞳を閉じる。
それは懺悔なのか、後悔なのかはわからないけれど。
「違う事をしてみても、帝都から離れてみても、何故か皇太子殿下が皇帝陛下に即位すれば見つかる。
運命など、信じた事など・・・いえ、そもそも考えた事さえも有りませんでした。
にも関わらず、それを信じろと言わんばかりに何度繰り返しても、見つかるのです。
だからこそ、考えた事さえもなかった運命というモノが存在しているのだと、そう突きつけられているのだと思っておりました。」
だからこそ、死なねばならないと思っていた。
「今でも正直なところ、死なない未来は考えられないのですが。」
苦笑を、浮かべてしまう。
フレデリックは相槌さえもないが、真剣に話を聞いているのがわかる。
少しだけ、痛ましい表情を浮かべる。
「それでも。
これからどうして行くのかを、考えて動かなければならないのだと、そう思っております。
私が死んだとて、世界が動いているのであれば。
そしてそのまま回帰を繰り返さないのであれば。
私が、何かをして変わる事があるのであれば。
私は、私が死んだ後の帝国の事を考えねばならなかったのだと、漸く気付くことが出来たのです。
私は。
私が死んだところで、何も変わらないのだと、そう思っておりました。
いえ、それはきっと違いますね。
死んだ後の事など、考えた事などありませんでした。
ただ、カンバーラント公爵家が何の憂いもなくあればと、そう願っていただけで。
けれど、それは間違いだったかもしれないと、やっと思えるようになったのです。
だからこそ。
この帝国の貴族として。
責任のある生き方をしなければいけないと、今はそう感じております。
私が貴族として満足な寝食を出来てきたのは、誰かが苦労したモノ。誰かの命。
それこそが貴族が、平民に課す搾取。
だからこそ私は、それに報いなければならなかった。
死ねば終わりでは無かった。
やり直しが出来るからと思っていた訳では、決して有りませんが。
死ねばそこまで、と思っていたのは確かで。
私が死んでも世界は周り、そして私が死んだ事を理由に、なにかしらの行動する者がいる。」
そう。
マグリットが死ねば、カンバーラント公爵家が反旗を翻すように。
「だからこそ、死のうが死ぬまいが卒業パーティー以降のことを考えねばならなかったのです。
その後の事を考えれば、そこに至るまでの行動も、全てが変わる。
それはきっと、必要な事。」
少し、長くなりそうだとマグリットがひと息吐いて。
空間魔法から簡易机に紅茶セットを出す。
流石に目の前の湖の水を直接使うのは、皇族としては頂けないだろうと魔法でお湯を用意し、お茶の葉を蒸らす。
「そうか・・・・・・それは、必要な事だったんだな。」
マグリットが紅茶を淹れているのを、何とはなしに見ながらポツリと呟く。
「どうせやり直す事になると、俺はいつからかずっと、そう思っていたような気がする。」
その後に言葉が続くかと思い、少し待つも話し続けるつもりはないのか、静かな凪いだ瞳で目の前を眺めている。
出来上がった紅茶を渡し、再度話し始める。
「それを思った後、では私はどうしたいのかと考えるようになりました。
私の立場からやはりこのまま居れば一番初めに来る将来は、マクシミリアン皇太子殿下の婚約者のままでいる事。
それはやはり有り得ないのです。
恋愛結婚をしたいとか、そういう事を考えている訳では無いのですが・・・私の全てが、皇太子殿下を拒否していて。
これだけ言うと、貴族令嬢失格ですわね。」
目を伏せ苦笑する。
貴族であれば嫌いでも、政略結婚が当たり前で。
「失格では無いだろ。
幾ら政略結婚であろうとも、相手を尊重するのは当然で、その権利もある。
マクシミリアンには、その気がない。
だからそう思ったとしても、それが普通で。
尊厳を貶されてまで、一緒に居る必要は無い。
そもそも相手に記憶が無いからと言って、何度も殺されればそうなるものだろう。流石に記憶が無いのに責める事は出来ないが。」
「確かに普通の貴族の政略結婚であれば、私もそう言えたかもしれませんね。でもこの結婚は貴族の中でも特殊ですから。」
皇帝陛下が、マグリットに固執しているからだ。
「皇帝陛下が何故嗚呼も、時期皇后をマグリットにと推す理由を知らなければならないかもしれないな。」
聞いたことが、無い訳では無い。
けれど答えてもらったことは、無いのだ。
「他国に出る事も考えましたわ。
実際、やった事も過去にはあるのです。
けれどこの帝国の貴族であるという矜持ゆえか、それとも時期皇后と教育されてきた意識の所為か、なんなのかわかりませんが、私には帝国を忘れる事が出来ませんでした。」
毒のように、纏わりつくかのように、帝国を忘れるなと呪いでもあるのか夢には毎日出てくるし、白昼夢まで見る始末。
元々眠れもしないのに、益々酷くなった。
だからこそ帝国を出る選択は、無い。
精神をガリガリと削られるような、あんな体験は一度で充分だ。
何より帝国に居たいと、私の心が言っている。
既に冷めた紅茶を飲み干し、カップの縁を何となしに触る。
「なら私は貴族で居たいのか、別の道どちらを選べば良いのかと思いました。
このまま帝国に居て、殿下の手助けにより処刑を回避出来たとしても、皇太子殿下に婚約破棄された傷物令嬢という名はついて回ります。
しかも、この国は女の価値が低いので、余計ですわね。
結婚しなくて良いで終わるのならまだしも、変な人物に嫁ぐ事になるのは目に見える事実ですわ。」
過去そう言う人物が確かに何人も居るのは確かで、フレデリックはそれを否定する事は出来ない。
かと言って公爵令嬢であるだけに、良縁であっても側室として立つ事さえも許されないのだ。
「ならば全てのしがらみを捨てて、市井に降りたとしましょう。
市井でも女は結婚して子供を産むのが当然とされるなか、流れに逆らわず、どなたか平民の方と結婚し子供を産み平民として慎ましく過ごす。
そんな事が可能なのかと。
政略結婚でもない?好きになった男性と結婚??
考えた事もなければ、想像さえもつきません。
それをした所で幸せになれる気にさえなれません。
安穏と日々を過ごすなど、私には似合いません。」
妖艶に、誰もが振り返るであろう顔で微笑む。
「似合わない・・・・・・な。」
確かにそうかもしれないと、失礼かもしれないが思う。
貴族界でさえ、飛び抜けた美人として注目されているし。こうして冒険者として居る姿でさえ、それは損なわれる事も無い。
逆によくこれで、市井で過ごして居れたなという感想を思う。
幾ら何でもずっとフードは被ってはいないだろう。男に声をかけられた事も、一度や二度では無かった事は想像に固く無い。
しかし気になるのはそこでは無い。他の者と恋愛結婚?とそれは頂けないとフレデリックは眉間に皺を寄せ、それを隠すかのように紅茶を飲み、カップを横へと置く。
マグリットが言っているのは、きっとそういう事だけではない。
そう。
違うのだ。
全てを捨てて、安穏を取る事はマグリット自身が許さないのだろう。
「後は考えてもやはりこの二つしか、残りませんでした。
ひとつ目は、このままギルド員として過ごす事。
Sランクの称号さえあれば、貴族からの面会でさえも拒否出来ます。
仮にお父様やお兄様に見つかったとしても、私と会う事は叶わないでしょう。
流石に皇帝陛下からの呼び出しとなれば、話ば変わるでしょうが。
ふたつ目は・・・・・・・・・」
一旦言葉を止めて、フレデリックを見る。
フレデリックもマグリットを見ていた。
あぁ、来たか。とそう思う。
覚悟を決める時だと。
それを宿した瞳でマグリットを見つめ返す。
マグリットが、フッと表情を和らげる。
「フレデリック殿下は、私とこれからどうなりたいのでしょうか?」
想像よりも直球だな、と少し笑える。




