〜過去編六回目の始まり〜
今までに無い程に、落ち着いた目覚めであった。
「これから、どうしようかしら。」
やはり目覚めたのは夜中であったため、ベッドから立ち上がり窓から空を見上げる。
どうしようかとは思ったけれど、屋敷を出る事だけは決めていた。
なのでタイミングを見計らい、屋敷を飛び出した。
飛び出したのはいいが、やりたい事など思いつかない。
五回目と同様、帝都で冒険者となったとて、同じような終わりが見える。
ならば、と思えど。
冒険者以外の道も、今のところ思いつかない。
当面の食い扶持のため、冒険者登録はした。
したが、同じような死に様は嫌だと思う。
死ぬのが運命なのだとしたら、せめて、死に方くらいは選ばせて欲しいものだ。
帝都から出て、帝国内である別の領地に行くことも考えた。
それはそれで悪くないのだが、結局は冒険者になるのか、と思うのだ。
やりたい事がある訳では無いマグリットは、その考え通り取り敢えずは帝都から出ようと歩き出す。
急いでいる訳では無い事もあり、のんびりと歩く。
街道の途中、川があったので立ち寄る。
歩き疲れた足を休めるためでもあるので、川辺に座り込む。
何となく。
何となくだが。
手持ち無沙汰であった、それ以外に理由は無かった。
指先に魔法で炎を灯し、消す。
次は指先に水球を浮かべ、消す。
雷、風球、光球、石、闇球と作り出せるモノを出しては消してを繰り返していた。
ただ何となくしていたのだが、それを見ていた人物がいた。
「随分器用な真似出来るんだね。」
振り向くとそこには、キレイな女の人が立っていた。
サラサラの赤い髪は女性にしては短く、けれど決して男装をしているように見えないが、身長も高い女性であった。
歳はマグリットよりかは上であろうが、それでもまだまだ若く二十代であろう。
「・・・・・・貴女は?」
「私?私はしがない魔道士さ。」
「魔道士・・・・・・」
ポツリと呟いた言葉に、魔道士は首を傾げる。
「あんたもだろ?」
そんな事出来るんだから、とマグリットの指先を指し示す。
マグリットは思わず自身の指先を見つめ、フルフルと違うと言う意味を込めて首を横に振る。
「はぁ?そんな器用なこと出来るのに魔道士じゃないのかい?」
「はい。
むしろ大した魔法は使えません。」
マグリットは今の今まで魔法の訓練をするような時間も場所も、恵まれてはこなかった。
貴族時代ではそもそも魔法図鑑のようなものさえ見せても貰えず、やり直し後さえも牢屋の中で読めた魔法の本といえば、平民さえも頑張れば手に入る程度のものでしか無かったし、前回の五回目も生活全てをギルドの所得で賄っていた事もあり、多くの本は読めはしなかった。それもまた平民が買える程度の本だ。
魔法をしっかり習うのならば、魔法学校へ行くか、上級魔法の記述があるような本を読める財力が無ければ、到底無理な話なのである。
結局は長年続く帝国といえど、まだまだ市民まで教育は行き渡ってはいない。そもそも識字率さえ低いのだから、仕方が無いのかもしれないが。
つまりは字も読めない市民が多いのに、上級魔法の記述がある魔法書を売ったところで意味は無いのだ。
他にも理由はあるが、それが一番大きいと思う。
「随分と勿体無いね・・・・・・」
「そうですか?」
よくわからず、首を傾げる。
「さっきの見てたけど、全属性使えるのかい?」
キョトンとした顔を思わず向けてしまう。
「使えるのか、って・・・・・・使えないんですか?」
変な沈黙が二人の間に流れる。
「・・・そんな事さえも知らないのかい?」
「それは皆さん、知っているものなのでしょうか?」
「魔法を多少なりとも、使えれば知ってるだろ。
そもそも使える属性と使えない属性がハッキリしているからな。」
五回目では確かにギルドに登録して依頼を熟してはいたが、他の人と組んで依頼をやる事は余り多くなかったし、魔法の属性なんかは切り札となる事も多いため、基本的には誰もが軽く言うものでは無いない。
そう言う事もあり、マグリット自身全ての属性を使えるだけに、皆そういうものだと疑ってもいなかった。
「こう言うところが、平民は全てにおいて不便ですね。」
思わずポツリと呟く。
「まるでお貴族様みたいな事言うんだね。」
「そうですか?」
「そうだね。普通の平民は日々の生活でそんな事思いもしないと思うよ。」
「それは少し、違うのでは、と思うのです。
そんな事を思う程の知識も無いのですわ、きっと。」
同じような事を五回目の時にも、思ったことがある。
知識が無さすぎて、不便を不便だと、思わない。
これが普通の生活なのだと、思わされているのだ。
それ程までに平民は、無知を強いられていると思う。
そうは思っても、何も出来ない。
この国は皇族の言葉が絶対なだけでなく、女の言葉は何よりも軽い。
貴族としていた所で、公爵でもなければ時期公爵でもない、幾ら時期皇后だと言われていようとも、マグリットは現状ではただの貴族令嬢。そんな者の言葉を、真面目に聞いともらえるような場はない。
次期皇后としての厳しい教育ですら、マクシミリアンの影に隠れ、全ての功績をマクシミリアンにするためのものであった。
マグリットに能力があるのを知っていながらも、それを全てマクシミリアンのためであれと言うこの帝国は、恐らくこのままいけば破綻する。
マグリットには、処刑後の未来などはわからないけれど。
マクシミリアンがこのまま帝位を継いだとて、より良い未来は見えやしない。
マクシミリアンとジェシカの次の皇位継承者が、反面教師として育てば少しはどうにかなるかもしれないが、それはマグリットにはわからない。
「それで、こんな所で何をしているんだい?」
ボーッと湖を見ていた瞳を魔道士に向ける。
「特に、何も。」
やらなければいけない事も、やりたい事も、今の所特には無い。
帝都を出ようと歩いた以外に、目的など無い。
「あんた、もしかして行く所無いのかい?」
「そうですね、行く所も行きたい所も今の所思いつきません。
ただ帝都以外に、行きたいとは思っております。」
川辺に座っていたが、立ち上がりパンパンと砂を落とす。
「行く所無いんじゃないのかい?」
無いけれど、此処にいる理由もないのだが?と不思議に思う。
「よくわからないけど、途方に暮れて此処でボケっとしてた訳ではなさそうだ。」
本気でよくわからないという顔のマグリットを見て、その人は笑った。
「ただ休んでいただけです。」
「そのようだね。」
肩をすくめて、苦笑に変わった顔をマグリットへと向けている。
特に話し続ける理由も無い。
マグリットはその場から歩き出そうとする。
「あんた、行く所が無いならウチに来ないかい?
あんたみたいな、変わった奴は大歓迎なんだよ。」
変わっているつもりはないのだけれど、と少し不服に感じる。
この人に着いて行く。
思わず、凝視してしまう。
普通ならこんな風に、見知らぬ人に着いて行くなど有り得ない。
けれど。
変化があれば、別に良かった。
この人が悪人であっても。
殺されようとも、売られようとも。
待遇次第では、自死を選ぶかもしれないが。
それでも。
マグリットはそれ以上に、変化を求めていた。
本当か嘘かはわからないけれど、魔道士と言っていたのも大きい。
この人に、そこそこの魔力があるのは感じ取る事は出来るのだ。あながち魔道士、というとの嘘ではないのかもしれない。
つまりはこの人に着いて行けば、魔法の使い方に詳しくなれるかもしれない。
魔法に関して、抑制されていた知識欲が勝ってしまった。
「はい。行ってみたいです。」
警戒心さえも、皆無かのように頷く。
「・・・・・・自分で言うのもなんだけど、怪しい勧誘みたいになったんだけど、本当に大丈夫かい?」
「はい、問題ありません。」
マグリットの迷いのない返事に魔道士は大笑いする。
「危機管理能力を疑うけれど、気に入ったよ!!
帝都でやってる訳じゃないから、安心しな。」
そしてそのまま、着いて行く。




