取り敢えず気付いていました
明けましておめでとう御座います。
これからも宜しくお願いします。
フレデリックが話している間、手は触れたまま。
距離も、近いまま。
むしろ手以外触れてはいないが、マグリットにほぼ覆い被さる形となっている。
マグリットも跳ね除ける事も出来ずに、途中から地面に寝転んだ状態となっている。
公爵令嬢が寝転んでいる、というのは流石に不味かろうとフレデリックも思っている。むしろ平民の女性でさえ、こんな事はしないだろうと思うのだが、マグリットがフレデリックに組み敷かれているかの様に感じるこの体制に、フレデリックが離れ難くなっている結果である。
このまま衝動のままマグリットに触れる事が出来るのなら、と願わない事もないのだが。流石に、自重している?ようで。
それでも今までにない距離感が嬉しいのか、蕩けるような微笑みを向けている。それはもう、惜し気もなく。
それを目の当たりにしているマグリットは、正直どうしていいかわからないまま、目の前にいる見目麗しい男の顔を凝視しながら固まる。
今までの、経緯を聞いていた筈が。
途中から熱烈な告白になったのは何故なのか、と混乱しているのだ。
「俺と共に歩んでくれる?
それとも。
俺を、利用する?
それともーーーー
俺を、殺してくれる?」
最後の言葉の時。
今まで以上に、綺麗な微笑みで。
本当は、きっと。
フレデリックも解放されたいのだと、気付く。
一度でもやり直してしまっただけに。
恐らくは、後戻り出来なくなってしまったのだ。
マグリットを手に入れたいと、思っている心も本当。
このままマグリットの手で終わらせて貰いたいと、思っている心も本当。
生きたいのか、死にたいのか。
矛盾した心を、狂ってしまった心を、必死で維持しているのは皇族としての矜持か、義務か。
本人にも、きっともうわからない。
「今更ですわ。
この繰り返しが、殿下が関わっている事には気付いていましたから。」
「・・・ん?」
「気付いていました。」
フレデリックの雰囲気が、ガラリと変わる。
考えてもいなかった事を言われて、毒気が抜けたかの様である。
「むしろ、気付かれないと思っていた事に驚きです。」
呆気に取られたかの様になった事もあり、今なら振り解かなくてもこの体制から逃れる事が出来そうだと、上半身を起こし囲い込まれている腕の中からズリズリと出る。
「あっ!!」
マグリットを逃すつもりがなかったのだろう、呟き。
閉じ込めてしまいたい欲がそれで、少しだけだが溜飲が下がっていたのに、逃げられてしまったと舌打ちが出そうになるのを、無理矢理唇を引き締めて耐える。
「・・・殿下。」
呆れた顔で見ると、フレデリックは渋々と言った体で座り直していた。
それでも最初に座ったのは横だったにも関わらず、正面。
やはりその距離は、近い。
「嫌か?」
本気で嫌がっていそうなら、今の所そこまで無理強いをするつもりはない。
「嫌、というよりも。駄目って感じですわね。」
マクシミリアンと婚約を解消している訳ではないため、当然である。
「それにしたって、危機感無さ過ぎやしないか?」
俺は、別に無害な男じゃないぞ。と呟く。
「けれどあれ以上するつもりなど、無いではありませんか。」
欲は感じるも、無体を働く気が無いのも伝わるのだ。
「一時の感情で、お前を失うつもりが無いからな。」
そう言いつつも、ギリギリだという自覚はあるのだけれど。
コホンとひとつ咳払いをして、仕切り直す。
「それで、俺がやり直しの原因だと気付いていたと?」
「むしろ気付かない訳、無いじゃ無いですか。」
「いつから・・・」
気付いていた?と声にならない声で唸る。
「割と初めから。」
フレデリックのショックなど何のその。何でも無いことの様に答える。
「初めから・・・・・・
それでも、気にしなかったのか?」
「流石に、何も思わなかった訳では、ありませんが。」
そう言いながら、マグリットはフルフルと首を横へと振る。
「憎む相手も、嫌う相手も、軽蔑する相手も。
殿下では無い、というだけです。」
確かにやり直すなど、非人道的かもしれない。
けれど、マグリットが嫌だったのはやり直す事ではない。
何度も、どんな手段を用いてでも、マグリットを殺すという執念が嫌だった。むしろやり直しの半分以上は市井へと姿を消しているのだ。それをわざわざ見つけ出してまで、殺しに来る意味がわからない。結婚後、姿を見せるとでも思っていたのか。
別にマグリットとて。
死にたい訳では無いのだ。
どうせ死ぬなら、と思っているだけだ。
その思いが、今も無いとは言えないけれど。
やり直しがいつまでも続くなど、そんな都合の良い事は無い。
今更かも知れないが、死んだとて無念を、後悔を、残さないように、とは思っている。
「マクシミリアンを、憎んでいるのか?」
「・・・・・・憎む、というよりも。
もうそこまでの激情さえも、皇太子殿下には持てそうにもありません。
どうでも良い、が一番適切でしょうか?
帝国の行く末は心配ですが・・・皇太子殿下が皇帝陛下になったとて忠誠を誓い、臣下として共に支えていく、という道さえちょっと無理そうです。」
例え、皇太子殿下が改心したとしても。とマグリットは何かを思い出しているかのように、何処か遠くを見ながら呟く。
「俺が皇帝なら?」
「私は、帝国の貴族です。
皇太子殿下で無ければ、誰であろうとも帝国に尽くす所存ですわ。」
「そこは、俺のためにって言って欲しい所だけど。」
仕方が無いかと、肩をすくめる。
「どんな事を言った所で、皇太子殿下が皇帝陛下になったら、やっていけないと言っている時点で、貴族としては失格ですわね。」
自虐的に嗤う。
「別に構わないのではないか?
どうせマクシミリアンが皇帝陛下になれば、滅ぶのだ。どう思おうが、何も変わらない。
それに相手が忘れていようとも、いや、忘れているからこそ。どう足掻いた所で、同じ選択を取るだろう。
つまりはジェシカに唆されて、マグリットを断罪する選択を。」
確かにマクシミリアンはジェシカの魅了に、どうにか少しは抗っている様子ではあるが。それがいつまでも続く訳が無い事は明白で。
しかもこの長期休みでマクシミリアンへの抑止力となっていたマグリットに会えないだけでなく、逆にマクシミリアンとジェシカがどれ程の頻度で会うのかもわからない。その為、魅了の効果がどこまで作用しているかも、現実問題、判断が付かない。
監視はさせているが、やはり伝え聞いたものよりも自身の目で見た方がハッキリとわかるだろう。
特にフレデリックとマグリットは、魅了の効果が完璧な状況を知っているのだから。
マグリット自身で確認する事も出来るが、マクシミリアンには必要最低限近付きたくない。監視が別で居るのならマグリットが見る必要は無いと思っており、どうせ最終的にはどう足掻いた所で、魅了されるだろうと思っている。
フレデリック自身で確認するには、流石に目立つ。
皇族として守られる立場の割には、フレデリック自身も腕は立つのだが、隠密性は持ち合わせていない。
学園内でも無いのに、二人が居る場に現れた時点で見つかってしまえば言い訳が厳しい。散歩などと気軽に言える立場では無いから、余計に。
「帝国を捨て切らずに、帝国に囚われているのは。自分でも、滑稽だと思いますわ。」
「・・・・・・・・・っ。」
思わず、口をつぐんでしまう。
「これが、自分の意思なのかどうかも、正直疑わしいのは確かですが。」
「君に施された教育は、洗脳に近いものもあったと、思う。」
「そうですわね。
客観的に考えてみるとわかるのですが、わかるからと言って抜け出せる訳でも、無いのです。」
想像でしか無い。
けれど知識としては、フレデリックも知っている。
皇族のみに許された、洗脳術。
恐らくは、それを使われていたのでは無いかと思う。
それこそ妃教育が始まった幼少の頃から。
だからこそ、マクシミリアンを好いてはいなくても皇后になる事。又は帝国に尽くし尽くす事が当然だと、思わされていたのではないかと思われる。
本当の所は、フレデリックにさえも知らされては、いないけれど。
けれどやり直しを繰り返す内に、洗脳に綻びが出たのではと予測される。だからこそマグリットは、市井へと降りる事が出来たのだろう。
あくまでも、綻び。
恐らくは、完全に解ける事は無い。
だからこそ、マグリットは皇后陛下になると決めた。
フレデリックはそれでも、構わないと思っている。
それでマグリットが手に入るのならば、と。
幸い?マグリット自身、洗脳の自覚症状もあるようだし、これを盾にフレデリックがマグリットを囲い込んだとて、問題無い。
それに。
この洗脳術を解く術は、無い。
今後自然と大きく解ける事も、無いだろう。
忌々しいモノだとは、思う。
思うがフレデリックには、もうそれを忌避する程の善良性も、持ち合わせてはいないのだ。
手に入るのならば、何でも良い。手に入らないのであれば、殺してくれ。そう思う程に、フレデリックはマグリットへと傾倒していた。
「皇家を恨むかい?」
フレデリックがマグリットの顔を覗き込む。
マグリットはそれに対して、驚いたりもせずフルフルと首を横に振る。
「恨める程、呪縛は解けておりません。」
何の感情も灯っていないかのような瞳で、そう呟く。
帝国の事を忘れる事は叶わない。だから帝国に骨を埋める覚悟がある。
けれどマグリットの本音には、愛国心とやらはあるのであろうか。
けれどそれはきっと、フレデリックも同様。
過去に持っていた愛国心、帝国を支えようとする意思、貴族としての矜持、義務。
色んな物を持ち、誇りとしていた記憶はある。
それが二人を縛る。
正義感のためでは、無い。
けれど、それで帝国が滅亡しなければ、それで良い。
マクシミリアンが皇帝陛下にならなければ、その後などどうとでもなる。それこそフレデリックが早い内に皇子を成し、家督を譲る事だって可能だ。
元々多くの政務を熟しているのは、フレデリックだ。
ハリボテの皇帝陛下であろうとも、表面上は取り繕う事は出来る。
賢王にはなれないだろうし、そもそもなる気もないのだが、フレデリックの次に家督を継ぐ者が、そうであれば衰退などさせはしない。それくらいのプライドくらいなら、フレデリックにだって残っている。
「なら、次は。
婚約発表は、いつにする?
君を名実共に、俺のモノって公言したいんだけど?」
マグリットの髪の毛に手を伸ばし、一房取りそこにキスを落とす。
「殿下だってそれは、出来ないと知っているではありませんか。」
そのマグリットの言葉に、皇子様らしい顔が子供の様にムスッとする。
「チッ!直ぐにでも婚約破棄すれば良いモノをっ!」
先程堪えた舌打ちを、とうとうしてしまう。
「いつもの顔が崩れてますよ?」
「別に構わないだろ。此処には俺と君にしかいないのだから。」
「私が、殿下に幻滅するかも知れませんよ?」
コテンと首を傾げて、笑う。
「可愛い。」
「脈絡もない事をいきなり言わないで下さいませ!」
意外とマグリット。美人は良く言われるが可愛いは言われ慣れていない事もあり、突発的な言葉に動揺して照れる。
(ますます可愛い。)
そうは思うも、これ以上言うと怒られそうだと自重する。
それでも顔がニヤけるのは止められない。
それを見たマグリットは不満そうな顔をするも、それに関しては言及しない事にしたようだ。
残念、と思えどフレデリックも話を続ける。
「マグリットが俺に幻滅しても、結婚はしてくれるんだろ?
帝国のためとはいえ、俺はお前が手に入るのならば構わないよ?
好かれる努力はするし、好意を隠す気も無いんだけど。」
「隠して下さいませ!」
変な噂になっても困る。動き辛くなるのは、間違いないのだから。
「それは・・・もう手遅れって気もするけど。」
建国祭での事は、かなり噂になっているのだ。
フレデリックがマグリットに好意があるのでは、と。
しかも皇帝陛下はそれを許容しているのでは、と。
確かに皇帝陛下がフレデリックにマグリットのエスコートを頼んだだけに、違うとも言い難い。
「手遅れ、ではありません。
まだ、噂ですわ。」
「まぁ、それは置いておいてだな。」
置いておくな、と思うも話が一々脱線するのも、と言葉を飲み込む。
「今までマグリットに対して酷い扱いをしてきた皇族を。
洗脳が、あるとはいえ。その洗脳も恐らくは、帝国を守る事に重点を置いているのであろう。
皇族に好意を持つような洗脳では、無いはずだ。
だからこそ初めから、マグリットはマクシミリアンを好きな訳では無かったのだろう?
俺だって、全容を知っている訳では無い。
洗脳だってマグリットの話や様子を見て、そうかも知れないと思ったぐらいだ。
それでも教育という名を着せた、虐待のようなものがあったのは把握していた。
止めようとした事が、無い訳では無いが、止められなければ同じ事。
そんな皇族である俺が、マグリットから心から愛してもらえる等と、過ぎたる事を望んで良いとは思えない。」
刹那げに、それでも離す気が無いようにと、ずっと触れていたマグリットの髪の毛をキュッと優しくだが、離さないように握り込む。
此処でマグリットが気にしない、と言ったところで慰めにもならないだろう事は想像に固く無い。
「でもアピールはする、と?」
「それはそれ。
触れたいし、好きだと伝えたい。それに万が一、少しであろうともマグリットが好きと言ってくれるかもしれない。そんな望みを持つくらい構わないだろ?」
マグリットの髪の毛を自身の頬に持っていき、スリッと頬ズリする。
恥ずかしげも無く全身で好きだと訴えてくるようで、感情を隠す事が出来る筈のマグリットでさえ、少しずつだが気圧されていく。
そもそも、誰にも此処まで何度も好きだ、愛してる、なんて言われた事等ない。
動揺するなと言う方が、無理である。
「手慣れてますね・・・」
女性の扱いに、と聞こえるようであった。
「・・・・・・・・・そう、か?」
その言葉の意図に気付いたフレデリックは、少し気まずそうで。
「さぞや、今まで「いや!やましい事など何も無いからな!!」
まるで、浮気を疑われている男である。
「何も、無い?」
それは流石に、嘘だろうとマグリットの顔が物語っている。
「いや、今回は、本当に、何も、無い、からな!」
焦り過ぎて、吃り過ぎである。
「今回は。」
「いや、いつまでも独身で居られなかった、だけ、だ!」
そこまで焦らなくても、とは思うが此処まで焦った様子を見せる人物では無いだけに、マグリットは内心笑っている。
「ふーん、そうなんですね。」
笑っているつもりなのだが、少しだけ面白く無いのも確かで。まるで拗ねてるかのような口調になってしまう。
「・・・・・・もしかして、妬いてる?」
「妬い、てる?」
「ヤキモチ、妬いてくれてるんじゃないの?」
思いもよらない事を言われた時に、言葉が理解出来ないなんて本当にあるんだな、と後になって思ったのだが、この時は本気でフレデリックが言った意味を理解するまでに時間が掛かった。
理解が及んだ瞬間、今の今まで仮にも皇子だからと振り解いたりなどの不敬を避けてきたのだが。
マグリットは思わず、緩りと髪の毛を掴んでいたフレデリックの手を振り解く。
「妬いてません!!」
淑女にあるまじき大声で叫んでしまう。
色んな感情が混じり合って、思いっきりマグリットの顔が赤面する。
(おぉ!!)
思わずフレデリックは心の中で感嘆の声を上げる。
これはこれは。想像以上の手応え。
実際にはマグリット自身の気持ちがフレデリックにあるか、と言われると二人共が首を傾げるのだが、告白後最初の雰囲気としては悪くは無いのではと、フレデリックは嬉しくなる。
諦めていたに近い、マグリットの心が、もしかしたら手に入るのかもしれないと。
捉えて仕舞えば、離す事など出来はしないのだけれど。
と、黒い欲望が頭をもたげ、ニヤリと嗤う。
年明け一発目、ちょうど百話になりました。
此処まで続けれたのは、読んでくれる方が居るからです。
本当に感謝しております。
これからも頑張ってみますので、優しく見守ってくれると幸いです。




