取り敢えず葛藤しているようです
「話を戻して下さいませ!」
一瞬、何の話だったかと思い返す。
「あぁ、好意を隠せ?だっけ。」
「忘れないで下さい!
私と殿下が、噂になったところで、良い事など御座いません。」
「俺と噂されるマグリットとか、嬉しいだけなんだけど。」とフレデリックは小さく呟く。
小さくとも、二人の距離はマグリットが振り払ったとはいえ、然程離れてなどいない。
当然の如く、聞こえている訳で。
マグリットは一瞬だが、睨み付けるようにフレデリックを見る。
が、フレデリックはそれでも嬉しそうにニコニコしていて、ダメージは無さそうだ。
「嬉しい、嬉しく無いの話しでは有りません。」
はいはい、とフレデリックも真面目に話に戻る。
「でも俺がマグリットを好き、と噂になったところで問題あるか?」
「第一皇子派と第二皇子派の争いが表立つのでは有りませんか?」
確かにそうなるだろうけれど、と少し考えているのかフレデリックは腕を組み目を瞑る。
「遅かれ早かれって、感じもするが。」
「そうでしょうか?」
「あぁ、そうか。マクシミリアンがどうなるかによるのか。」
「はい。」
正直、マクシミリアンがどうなっても良いと言うのが、フレデリックの本音。
幾ら兄弟とはいえ、仲良しこよしで過ごしてきた事など無いし、むしろ向こうからは、敵対心まであるのだ。
「断罪の場まで、このままの方が良いって事?」
「そうですね。証拠が揃いきっている訳では無いですし。余り付け入られる隙も無い方が宜しいかと。」
確かに、そうなんだが・・・・・・と考えて、閉じていた目を片目だけ開けてマグリットを見る。
「マグリットにアピールするには、黙って無い方が、俺的には都合が良いんだけど?」
「そんな事は知りません。
まずは、皇太子殿下とジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢を何とかするのが先決かと。」
フルフルとマグリットが首を横に振っているのを見て、フレデリックは大きな溜息を吐く。
「なんとか、ね。」
「それに。」
言葉を一旦止める。
「それに?」
フレデリックは続きを促すように、復唱する。
「私が悪役令嬢の立ち位置に居たからこそ、余計に二人の恋愛は燃え上がったのでは?」
マグリット自身そんな恋愛の経験は無いが、恋愛小説の一つや二つ位であれば読んだ事もある。
それに実際目の前でマグリットを悪役に仕立て上げて、楽しそうに恋愛に準じていたのだ。そういう心理がある事くらいは、知っている。
「あぁ、成る程。俺が横恋慕すればする程、マクシミリアンがマグリットを離したくなくなる可能性が上がる訳か。」
面倒臭い奴だな、と独り言のように呟く。
「皇太子殿下が私の事をどのようにしたいのかは、わかりませんが。それでも以前旬が言っていたのですが、無くならないと思っていたモノがいきなり無くなると、それは自分のモノだったと主張したくなるような、そんな心理かと。」
「素直に魅了に掛れば良いものを。無駄に抵抗するからこんな事になるんだ。」
それは幾ら何でも、八つ当たりではなかろうか?と思うも口には出さない。
「抵抗は無駄、でしょうか?」
「無駄だろ。マクシミリアンが抵抗し続けられる気はしない。存外もってはいるが、それでもあの調子であれば近い内に掛かり切るだろう。」
最後に見た、二人の様子を思い出す。
確かにマグリットに文句を言って、その後二人仲良く何処かへ向かった姿は確かに、抵抗感は感じなかった。
もう一度大きな溜息を吐く。
余程嫌なのだろう。
「仕方が無いな。噂を消せば良いのか?」
「消せるのであれば。」
「あ〜、まぁ少し手間は掛かるが、出来ない事は無いだろう。」
「お任せしても?」
「あぁ。」
余り気の進まない手しか思い付きはしないが、と思うも口にはしない。
「後は・・・・・・」
今話しておくべき事は、と考えて二人して同じ答えに辿り着く。
「皇帝陛下か。」
そもそも皇帝陛下が崩御するからこそ、マクシミリアンが皇帝陛下となるのだ。
「話すか、話さないか。
話すとしても何処まで話すか。」
フレデリックとマグリットの心は決まったのだ。
話さない訳にはいかないが、それをいつ話すかが問題なのだが。
「話します。」
マグリットは即答する。
まぁ確かに話さない選択肢は無いが、それでもそこまでキッパリと言う理由はフレデリックには思い当たらない。
「どうした?」
「動きが、あったと報告がありました。」
ピクリと眉間に皺を寄せる。
「つまりは、そう言う事か。」
「はい。」
フレデリックは思わず、片手で頭を抱える。
「・・・・・・そうか。」
信用が、信頼が、ガラガラと崩れる様な気がする。
仕方が無い、と言われればそれまでなのだが、感情は納得出来ないものである。
「引き続きノアには監視と調査をしてもらっています。」
「まだ、大丈夫なんだな?」
「少しずつですから。
ですがそろそろ自覚症状が、出てくる頃かもしれません。」
マグリットは気落ちしてしまったフレデリックに、そっと紅茶を差し出す。フレデリックはチラッとそれを見て受け取り、ひと口ゆっくりと飲み、気を落ちつせる。
「つまりは早い方が良いんだな?」
「はい。まだ倒れたりはしないとは思いますが。」
「なら、面会を取り付けておこう。」
「お願いします。
しかし内密にお伺いしたいのですが。」
皇帝陛下の元へ内密に近付く事は、不可能に近い。
かなり難しい要求に、フレデリックは考え込む。
「あ〜なら、皇帝陛下に転移を見せるのは有りか?」
「本音は見せたくは無いのですが、そこは諦めておりますので大丈夫です。」
「それなら、何とか、なるかな?」
そう言いながらも、フレデリックはマグリットの服装を見る。
「何とかなったとして、皇帝陛下には誰と会うと話したら良いのだ?」
マグリットとして会うのか、Sランクとして会うのか。
「ギルド員である事を伝えるとなると、少々都合は悪そうですが・・・・・・黙って居られないかと。
転移を見せる時点で、何かしらの追求があるのでは、と思われます。」
それは間違いない。
益々、皇帝陛下のマグリットへの固執が高まりそうだと、頭が痛くなる。
「つまりはマグリットがギルド員だとバレたとしても、黙って居てもらわなければいけない理由も必要という事か。」
「恐らくは。」
「って事は・・・・・・」
かなり渋い顔をしているも、それ以外には無いかと悩む。
「やり直しを。繰り返している事を伝える必要が出る可能性も、有りえます。」
フレデリックは地面に、仇でも居るかのように睨み付ける。
誰にも、言うつもりが無かった。
それを伝えなければいけないのは、どんな気持ちなのかはマグリットには想像もつかない。あくまでもマグリットは、何故かはわからないが、巻き込まれただの乱入者だ。
処刑後の事は、話を聞きはしたが体験している訳でもない。
だこらこそ、そこにどれ程の苦悩があるかも、わからない。
「その話し合いに、俺は居ては駄目か?」
地面を睨み付けたまま、マグリットへと問い掛ける。
「むしろ居るものだと、思っておりましたが?」
婚約話もするのだ。
居てもらわないと、締まらない。
「あぁ、そうか。それも、そうだな。」
少し、動揺しているのかもしれない。
片手で頭に手をやり、髪の毛をくしゃっとする。
幾ら市井に溶け込めるように、とはしていても、そこはかとなくセットされていた髪が崩れる。
「私には皇帝陛下と殿下達の確執が、どう言ったものなのかはわかりかねますが・・・・・・
市井で見た平民の家族と貴族の家族の有りようが違う様に、貴族と皇族とでも違うでしょう。それを理解するフリは出来ても、私には本当の意味で理解する事は、叶いません。
それに・・・・・・」
「それに?」
続きを聞きたくて、復唱してみるもマグリットは実のない笑顔を浮かべる。きっとどう言う顔をして良いのかわからなかったのだと気付くも、フレデリックもどういった顔をするのが良いのかわからない為、複雑そうな表情を浮かべる。
けれどフレデリックは知っている。マグリットが言わなかった事を。
皇帝陛下はフレデリックとマクシミリアンに息子に対しての情を、父として愛情を、与えた事は無かった。
だからこそ、二人はマグリットが羨ましくて羨ましくて、堪らなかった。
何故、皇帝陛下はマグリットにだけ、まるで自分の子供はマグリットだけだとでも言う程に可愛がったのか。
血が、繋がっている訳でも無いのに。
結局はその態度の差が、マグリットを皇宮で孤立させたのだと、皇帝陛下は気付いていたのだろうか。
常に側に置いて置ける訳も無い、権力争いのど真ん中で。
気付いて、居ない訳が無いのだ。
この国で一番情報が集まる場所は、当然皇帝陛下の元だ。
それを知らなかったと、本来ならば言ってはならぬ事。
けれど皇帝陛下だからこそ、許される。
まさにこの国は皇帝陛下が白を黒と言えばそれは黒だと、体現するかのような国だから。
だから知らなかったと言われれば、それまでだ。
皇帝陛下から可愛がられたマグリットには、フレデリックとマクシミリアン二人の兄弟の気持ちはわからない。
つまりは、マグリットはそう言う事を言いたかったのだろう。
けれどマグリットの立場からしてみれば、それは欲しかったモノでも無かったのだろうと、今ではフレデリックだって知っている。
だからこそマグリットへの遺恨のような気持ちは、消化された。永い、永い年月は必要であるあったが。
けれど皇帝陛下に対する気持ちが、それと同じように消化された訳ではない。
フレデリックは未だに複雑な感情を、皇帝陛下に持っている。むしろ逆に臣下として、皇帝陛下に仕える事しか考えていないのかもしれない。
にも関わらず、全てを話さなければならない。
臣下として国に尽くす所存であろうとも、皇帝陛下に忠誠を誓っていようとも。
フレデリックが個人的に皇帝陛下である父親を、信用するかどうかは別問題。
苦悩、のようなモノを感じるも、マグリットは何もしない。何も出来ない。
これが本当の恋人同士なら、慰めるのだろうか。
叱咤激励でも、するのだろうか。
それとも共に苦しいと、分かち合うのだろうか。
本物では無いこの間柄では、マグリットはどうして良いかの判断は付かない。
ただ見ていないフリしか、出来ない。
流石に長い時間話していただけあり、辺りは夕焼け空で。
綺麗だな、と眺めていると。
「すまない。気持ちの整理は、キチンとする。」
と、幾分気落ちしたかの雰囲気を払拭したフレデリックが、苦笑を浮かべてマグリットへと手を伸ばす。
やはりマグリットは逃げない。
今まで避けていた。けれど。
(今だけはーーーーー)
一瞬、だった。
気付けばマグリットは、フレデリックに抱き締められていた。
ハッとしたのはフレデリックの胸元から、心臓の音が聞こえたから。
どうして良いか、わからずにマグリットは固まる。
フッと小さく笑う気配がして、フレデリックの腕の力が緩む。
けれどやはりどうして良いかわからないマグリットは、視線だけをキョロキョロさせて動けない。
背中に回されたフレデリックの手が離れて、ホッとしたのも束の間。マグリットの頬にフレデリックの両手があり、頬を挟まれたまま顔を上に向けさせられる。
当然、顔同士の距離は近く。
キス、だって出来そうな、距離。
驚愕からマグリットの瞳が零れ落ちんとばかりに、開かれている。
(何も考えず、奪えたら、良いのにーーーーー)
目を伏せる。
これ以上見てしまうと、奪い尽くしてしまう。
「すまない。もう、触れはしない。」
パッと手を離し、刹那げに笑う。
「婚約者なら、良かったのにな。」
それなら、此処で手を離すなんてしなかったーーーーーー
誤字報告ありがとうございます。
感謝してます。




