〜過去編六回目 着いて行った先〜
「此処が、私達の職場だよ。」
「職場?」
そう言って連れてこられた場所は、魔道士が来る様な場所には到底見えない。
「そう、職場。」
「魔道士、では無かったのですか?」
マグリットは周りをキョロキョロと見渡しながら、呆れたように此処へ連れて女に問い掛ける。
「魔道士、でも間違いは無いと思うんだけどね。」
明らかに研究室、といった風の場所で。
こんな所で魔道士が魔法を行使すれば、間違いなく部屋が大破する。
「研究者、ですか?」
「ちょっと、違うかな。
魔法学者だよ。
既存の魔法の研磨や、新しい魔法を作ったり、研究、実験をしたり、というのが仕事内容になるね。」
その人は部屋へと入り、ガサガサと机に積み上げられた本を漁る。
貴重な本。しかも魔導書だろうに、扱いが雑過ぎる。
思わずマグリットはそれを見て、眉間に皺を寄せてしまう。
そんな表情も何のその。
目当ての本が見つかったのか、一冊の本を持ってマグリットへと渡す。
【魔法初級全集】
表紙にそう書かれた本であった。
パラパラと見てみた所、全属性の初級魔法が全て乗っているモノであった。初級魔法だけとはいえ、全属性分だけあってかなり分厚い。
牢屋に居た事も含めても、一冊に纏められた本は初めてで。
傍目からわかる程、楽しそうな顔をして本を捲る。
「そんな所に立ちっぱなしでなんて、ずっと読んでられないだろう?
座りな。」
そう言って長時間座っても疲れなさそうな椅子に案内され、あっという間に目の前には飲み物まで。
「あんたの最初の仕事は、どんな魔法があって、どんな風に発動されるのかを理解する事からかな。
魔法を改修するにしろ、新しく作るにしろ、既存の物がどんな物かを理解しないと出来ないからね。」
「私は此処で、働くという事ですか?」
マグリットはあくまでも魔法を覚える事が出来るかも、と思って付いてきたのだ。
「あれ?嫌、だったかい?
どうせ行く所も無いんだろ?」
嫌か嫌じゃ無いかと問われると、正直どちらでも、良い。が一番正しい。
魔法を学んでみるには、悪く無い選択でもありそうだし。
「なら、ひとつだけ聞きたいことがあるのですが。」
「何だい?」
「私は、マグリットと申します。
お名前をお伺いしても、宜しいでしょうか?」
流石に名前も知らないのは、些か不便である。
「私の名前はイザベラ。
呼び捨てでも何でも、好きに呼んでおくれ。」
イザベラはそう言ってケラケラ笑って部屋を出て行く。
マグリットは他に人は居ないのかと、疑問に思うも目の前の書物よりも今は興味を持てなくて。
本の世界へと没頭する。
読み終わった後も、目に付いた【魔法中級全集】【魔法上級全集】【魔法最上級全集】までもを網羅する。
次は実践をしたいと、本から顔を上げると窓から入る光はすっかり無く、夜も更けている事に少し驚く。
そこまで集中していたのかと、凝り固まった身体を伸ばして扉側を見ると、イザベラが座ってうたた寝をしていた。
だから電気が付いていたのかと、天井を見上げる。
「んぁ?あぁ、読み終わったのか?」
熟睡はしていなかったのか、マグリットが動き出した事で目を覚ました様であった。
「すみません。集中していたみたいで。」
「別に構わないよ。
職種の所為か、そんな奴らは他にも居るからね。」
ふぁ、と欠伸をしながら立ち上がり、外へとマグリットとを誘う。
「あの、何処へ?」
「何処って、行く所ないんだろ?
当面の部屋ならあるから、暫くはそこで過ごせば良いよ。」
「すみません、ご迷惑ばかりお掛けしてしまって。」
「構わないよ。
それに、何だか将来有望そうだ。」
ニヤリと、悪い笑顔を浮かべる。
初級魔法の説明程度であれば、確かに何とかなるかもしれない。
けれど中級からはそうはいかない。
上級ともなれば、魔法行使する為の魔法陣、呪文の理解で普通でもひとつ一ヶ月以上掛かるのだ。
それを最上級の本にまで手を出して読んでいた。
つまりはそういう事。
ただ流し読みをしていた、とは見えない程の集中。
マグリットがちゃんとひとつひとつ、魔法陣を読み解いている事にイザベラは気付いていた。
(怖い程の才能だね。)
魔法研究でも、最高峰を自負出来る程のこの場所でさえ。
此処まで理解が早い者は居ない。
「魔法を行使出来る場所もあるのですよね?」
マグリットに気付かれない程度に、一瞬目を眇める。
「あるよ。
流石に最初の内は危ないだろうから、付いておくけどね。」
理解出来たとて、魔法を使えるかどうかは話は別で。
全く使えない、という事も無いようだが、それでも魔法を使うと言う事に関しては、かなりのズブの素人。
「あっ!確かにそうですね。
なら、いつならご都合大丈夫でしょうか?」
「暫くは、あんたに私が付くから明日でも大丈夫、だけど。」
だけど?とマグリットはイザベラを見つめる。
それにはぁ、と溜息を吐く。
「何でもないよ。
なら明日だね。」
その反応にマグリットは納得いかないが、文句を言える立場でも無いため何も言わない。
(化け物みたいな、拾いモノを、したかもしれないね。)
何となく、何となくだが。
魔法を行使するのに、苦労する姿が想像つかないな、とイザベラは思うのだった。




