〜side旬 覚悟
本当は気付いていたのかもしれない。
マグリットが強い事など。
Sランク、と言うのは当然知っていた。
それでも、他のSランクを見た事もあってそれ位なら負けやしないと思っていたのは否定しない。
今までおかしいと、思わなかった訳では無い。
あの魔法の実力で魔法が得手で無いと聞いた時には、耳を疑った。
正直なところ、冗談かなんかだと思っていた。
ただ。
あそこまで実力を悟らせないのも、不思議だったのは確かで。
確かに畏怖の念を持ったのは否定出来ない事実だが。
相手は貴族だと、知っているけれど。
マグリットとの気安い、まるで友のように軽口を叩き合うのは我も気が抜ける瞬間であったのだと、こんな状況になって気付く。
もう、戻れないのだろうか。
仕事柄、誰ともそんな関係にはなれないし、なってはいけないと思っていた。
同じ影として暗躍している者でさえ、実は別の皇族の手の物であった、なんて事もある。
だからこそ踏み込まないし、踏み込ませない。
それはお互い様で、顔や名前は知っているが、それだけだ。むしろ名前さえも本名では無いであろうし、顔さえも普段は誰もが隠している。
我だって普段は顔を隠している。
確かに公爵令嬢であるマグリットが、まさか拷問まで熟すなんて考えもしなかったし、それに対して何も思わなかった訳じゃ無い。
そりゃそうだろう。我の中の常識が、貴族令嬢という者はこういうものだという固定観念が、ある。
それにマグリットが当てはまらない事など知っていたが、まさにこれが頭で理解していても感情が伴わない、という事なのだと知る。
畏怖の気持ちから少し一線を引いてしまったのは、否定しない。
だがそれは強い者に対する、生理的な恐怖であったと思う。
だから。
それは仕方が無かったと、思ってもらう他無いのだ。
そもそも。
いや、きっと何を言ったところで全てが言い訳になってしまう。
なら一層の事。
今まで通りマグリットの側に居るには、開き直るしか無いのかもしれない。
何故ノア殿は、わざわざ我をマグリットの元へと連れて行ったのか。
俺がこれからどうするのかを、見極めているのか。
ノア殿のマグリットへの忠義心は、並大抵のものでは無さそうで。
マグリットを見る目が狂喜に満ちていた。
それに並べと、そう言うのか。
流石にそこまでにはなれやしない。
マグリットとノア殿の間に何があったのかは、わからないけれど。そう成る程の事が有ったのだろう事は想像に固く無い。
そうなるような事が、我とマグリットの間には無い。
けれど。
それでも。
此処まで来て、用無し扱いはゴメンだ。




