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〜sideノア 旬殿を連れて行きます

 




 正直俺が世話を焼いてやる必要は無いっすけど。


 それでも何となく放って置けないな、と思っちゃった訳で。しゃーないっすね。


 お嬢に教えてもらった魔法のひとつに、監視魔法があったのを使って。


 流石にお嬢程の魔力を持ち合わせてる訳じゃないっすけど、それでも一日程であれば行けるかと当たりをつけ。


 お嬢の依頼の確認をしたら、お嬢に何を企んでるのかって言われちゃったっすけど、お嬢が止めなかったから別に大丈夫だろうと結論付けて。


 俺がやろうとしてる事、お嬢も何となくでも察してるんじゃないかと思うんだけど、どーっすかねー。

 どうであれ、止めなかったお嬢にも責任があると言う事で。


 まぁ、お嬢から責められてお仕置きされても別に良いっすけど。


 結局は俺は俺のやりたいようにやるっす。



 けどこの監視魔法を数日間やりっぱなしで、俺を監視してたとは想像以上の魔力っすね。

 俺も魔法と暗躍系が得意っすから魔力が多い筈っすけど、一日でさえかなり魔力が持ってかれるっす。


 倒れないっすよ、ね?


 魔力回復薬をお嬢から貰い受けてるから、何とかなるっすね。多分。




 お嬢に「動きがあった」と報告後のあの様子であれば、今日の依頼の魔物はなかなかに可哀想な事になるかもしれない、とは思ってはいるっすけど。


 そこまでは考慮する必要は無い、無い。


 お嬢の側に居るならば。

 お嬢の本質を知れ。


 それが俺のお嬢の側に居る為の条件っすよ。

 旬殿。



 ーーーーーーーー



 お嬢は全てを俺に話した事を殿下には伝えていたみたいで、いきなり転移で現れた俺を見ても驚いたりはしなかったっすね。


 それでも執務室の窓からノックして現れた俺に対して、あんまり警戒心が無かった事には、他人事ながらにこの国の皇族は大丈夫かと一瞬心配してしまったっす。


「転移出来る者は、今のこの世には居ない。」

 そう言って笑う殿下は、男の俺から見てもイケメンだったっす。


 殿下もやり直しを繰り返してるのだから転移出来るのでは?と聞いてみた。実際転移を公表した時期があるって事は殿下にも使える筈では?と思っても間違いでは無いっすよね?


 転移魔法は難しい。


 公表した時も出来る者は余り多くなかったって言ってたっす。

 つまりは。


「よくそんな直ぐに使い熟せたな?

 難しくなかったか?」

 使えなかったっす。


 殿下に魔法を教える教師も使えなかったのは、皇族を教える教師としてどーなの?って思うっすけど、確かにかなり難しい魔法っすから仕方が無かったっんすかね?


 んで殿下が転移を覚える前に、またやり直し。

 当然次は誰もが覚えて無いから、覚えれないままになってしまった、と。


 皇族の教師もたいした事ないっすねー。


 まぁ、戦う為の勉強じゃなくて、教養の為の勉強だから別に良いものなのかもしんないっすね。


 今ならお嬢が居るから教えてもらわないのかって聞いてみたら、そもそもそれを教えてもらえるような時間が取れないって、言われたっす。


 まぁ、そんな世間話しに来た訳じゃないっすけど。


 本題の旬殿を借りる話は、全く問題無かった。


 むしろ今はマグリットの為に動いてくれれば充分だと言われたっす。わざわざ旬殿は仕事を抱え込んでた訳っすね。


 旬殿は難儀な性格っすねー。



 ーーーーーーーーー



 俺が一人で会いに行った事に不審そうな顔を向けられたっすけど、殿下からの許可がある事を伝えたら、それならばと付いて来た。

 付いて来たっすけど、やはりそれで良いのかと思うのは俺が捻くれてるんっすかね?


 幾ら俺がお嬢付きとは言え、俺の言葉をそのまま信用して一緒に来るなんて、素直過ぎやしませんか?と言ってやりたい気分になるっすねー。


 影として働いている以上、旬殿にも何かしらの事情はあるかもしれないっすけど。市井で暗躍するには些か、邪悪さが足りない。


 そんな覚悟で、お嬢の側に居るというのかーーーー




 表面上は旬殿には和かに接しているからか、旬殿は何も気付いては居ない。

 でも実際俺はこう言った感情を隠すのを得意としている訳じゃないっすから、それに気付かない旬殿は、戦闘の腕だけじゃなくまだまだヒヨッコっすね、としか思えない。


 少しは腹芸も出来なければ、影なんぞは務まらない。よく今までやってこれたな、というのか旬殿への俺の印象っすね。



 此処で本気で付いてくる気になるのか、本気で離れようと思うのかに関しては、正直どっちでも良い。ただ俺が、半端な覚悟でお嬢の側に居る事だけが許せないだけっすから。



 魔力の多い赤ん坊みたいに、実力だけはある純粋な旬殿は俺のスピードにもちゃんと付いてくる。

 まぁ、俺の本気では無いっすけど。


 流石にお嬢程転移の扱いが長けてる訳じゃないっすから、誰かを連れて転移するなんて荒技は出来ない。だからこうして走ってる訳っすけど、転移も便利であるっすけど、こうして走る方が適度な鍛錬にもなって、お嬢が場合によっては走ってるのはこう言う事かと思うっすね。


 転移は便利っすけど、確かに運動不足にはなるかも知れないっすねー。

 流石に仕事柄、移動を全て転移にした所で鍛錬不足にはなりはしないっすけど。


 今日のお嬢の依頼が、余り遠い場所で無かったのは僥倖。

 転移があるお嬢や俺と違って旬殿をその場へと連れて行くとなると、遠くては意味が無い。依頼に間に合う間に合わない以前に、その場に辿り着く前に別の街に泊まりになってしまうっすもんねー。


 やっぱりお嬢は俺が旬殿を連れて行くのに気付いてるっすね。じゃないとこんな近い依頼をわざわざ今日を選んでヤルとは思えない。


 これはお嬢が優しいとかじゃなく、間違いなく中途半端な立ち位置にいる、覚悟が決まりきらない人物を側に置く危険性を感じたんじゃないっすね。

 今までは人手が足りなかった。


 けれど俺が現れて、俺が動けば良くなった。ってとこっすね。


 いやー、それはそれで。

 お嬢から信頼されてるみたいで、良いっすねー。



 あれ?これわざわざ旬殿を何とかするよりも、俺が一人でお嬢を支えれば良かったんじゃね?


 気付くのが遅過ぎたなー。

 もっと早く気付いてれば、旬殿を殺す事も厭わなかったのに。



 そう思った瞬間。

 バッと旬殿が離れる。


 しまった、しまった。

 一瞬殺気が漏れてしまったっすねー。


 こんなんだから殺意を隠すのは、得意じゃ無いんすよねー。


 走っていた足を止め、旬殿の顔を見る。

 警戒心バリバリの猫みたいな顔してるっすねー。


 初めからその顔を向けてきていたなら、まだマシだったのに。


 ヘラリと毒気の抜けるかのような、気の抜けた笑顔を振る舞う。

 旬殿は顔を殆ど隠している影スタイルだが、間違い無く眉間に皺を寄せたのがわかる。


 旬殿も感情隠せてないなー。俺より酷いっすね。

 俺が隠せないのは殺意くらいっすから。


 それはそれで致命的っすけど、それはそれ。

 殺気を悟られたところで殺せば良いっすからね。


「ほら、行くっすよー。」

「さっきのを無かった事にでもするつもりか?」

 答えずにもう一度ヘラリと笑って、そのまま又走り出す。


 旬殿は悩んだみたいっすけど、結局は付いてくるのを選んだようっすね。何をもって信用してるのか。




 お嬢の今日の依頼は帝都からは然程離れていないからこそ、普通なら皇宮から騎士団が出る感じの依頼だったみたいっすけど、何故かお嬢が受ける事になったみたいで。


 騎士団が出なければいけないような依頼を、ギルドが請け負っている事をお嬢の家族である第一騎士団が知っているのかどうか確認してみたくなるのは、ちょっとした悪戯心からっすけど、流石にそれはお嬢が嫌がるだろうなぁ。


 お嬢の為なら何でもする。それをお嬢が嫌がったとしても。

 でもただ嫌がるような事をするのは、俺の本意じゃ無いっすね。



 そうそう。今日の依頼は騎士団って言うくらいで。普通なら一人で請け負うようなもんじゃないんじゃないっすかねー。

 流石はお嬢。


 既に戦闘音が聞こえてくる。

 俺もあんまりお嬢の戦いを見る事なんて無いから、ちょっと楽しみっすねー。こんな事でも無かったらお嬢の戦いを見ることなんて無かっただろうから、その点では旬殿に感謝っすね。


 でももう既に戦闘は終盤っすねー。もっと早く来れれば良かったんすけど、転移出来ない旬殿となら仕方無いっすね。


 相手の魔力が結構低下してるみたいっすけど。

 この魔力は・・・・・・




 なーんで、こんな所に居てるっすかね?

 こんな帝都の近い場所で、居て良いモンじゃないっすね。


 そりゃ騎士団が討伐に来ない訳っすわ。


 だからってお嬢がこんな依頼をするなら、俺を連れて来て欲しいっすねー。流石に危険過ぎて看破出来ないっす。


 これからはお嬢が嫌がっても、依頼の確認はさせて貰うっす。




 旬殿と一緒に辿り着いた時には辺りは魔法でかなり荒れてたけど、お嬢に大きい傷が無くて少しは安心した。


 旬殿は驚いて辺りを見渡している。

 が、ピタリと一つのところで視線が止まる。


 俺は当然そこを見てる。お嬢が立っている所。


 お嬢が人型の生き物の首筋に、刀を突き付けている。


 見た目は人間と変わらない。でもビリビリと肌に感じる魔力が人間でないと伝えて来る。

 魔族。


 当たり前にこんな帝都の近い場所に、現れて良いモノでは無いっすよねー。


 魔族には魔族の棲家がある。それは此処よりも全然遠い。つまりはわざわざ此処まで来たって事。

 碌な用事では無いのは確かっすね。


「何をしていたのか、このまま言わないつもりかしら?」

 お嬢が首筋に当てている刀をスッと滑らし、血が流れる。


 魔族側も言う気がないのか黙ったままお嬢を睨み付けてる。流石に仕事の邪魔はしないっすけど、気に入らない目っすね。


 お嬢が指をパチンと鳴らす。魔族がその見えない魔力で縛られたかのように動けなくなり、それに気付いた魔族は暴れようともがいているのが傍目から見てもよくわかるっすけど、まさにあれこそ無駄な抵抗ってやつっすね。





 そこからは激しくは無いものの死にはしないが、動けないから逃げられない拷問であった。


 それを目も逸らさずに旬殿は見てるっすね。

 どんな感情かは本人じゃないからわかんないっすけど、これでお嬢の側に居るにしろ去るにしろ覚悟が決まれば良いな、と思うだけっす。



 でもこの魔族。

 もしかして。


 お嬢もそう思ったみたいで、俺を見る。


「拷問は?」

「出来ないとでも思ってるっすか?」

 それもそうね、と笑ってお嬢は何の感情も無く魔族の指を切り落とし、その後傷口からの出血を止めるために焼き切る。

 指は恐らくギルドの依頼達成に必要なのだろうと俺は知ってるっすけど、旬殿はどうっすかね?


 取り敢えず真剣に、眺めてはいるみたいっすね。

 そもそも皇族の影が、こういう事と無縁なんて事無いと思うっすけど。


 まぁ拷問的な所には、拒絶は感じられないっすね。

 やっぱりお嬢の強さの底が見えなかったのが原因か。


 それも戦い後の見学じゃ、解消されなかったかもしれないっすねー。

 さて、旬殿はどーするのか実物っすね。


 俺はお嬢から渡された魔族の首根っこを掴むと、魔族側から再度抵抗が感じられるっすけど、流石に此処まで弱った奴にどーこーされやしないっすね。まぁ、魔族といえど簡単にはヤられたりはしないっすけど。


 お嬢はチラッと旬殿を見るも特に声を掛けずに、そのまま転移で去っていく。

 皇太子殿下関連でなければ、お嬢が旬殿と仲良くする道理は無いっすからね。

 でも旬殿は何だか傷付いたかのような雰囲気を出してるっすねー。

 俺に言わせれば自業自得っすけど。


 さて俺はお嬢から託されたから移動したいんすけど、旬殿どーしよ。


 本音は子供じゃないから現地解散で良いと思うっすけど。


 どうするか聞いてみたら、置いて行っても良いとの返事。


 なら遠慮なく、と魔族を引き摺りながらその場から飛び去る。




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