取り敢えず動きがあったそうです
授業終わり、転移で移動して依頼を熟して、そろそろ帰らなければいけない時間だと、再度学園へと舞い戻る。
馬車が迎えに来てなければわざわざ学園に戻る事はしないのだが、流石に公爵令嬢という立場的に、学園から屋敷まで歩いて通うのは許されないのだ。転移の存在を知られていないから余計に。
いきなり人通りのある場所に現れる訳にはいかないため、教室へと転移する。
そういえば図書館に行きたかったのだと思い出す。時間を確認して、少し位であればいけるかと再度図書館近くの人気がないところへと転移し、図書館へと入る。
見たかった本を借りて図書館を出る。わざわざ教室に戻る理由も無し、そのまま今度は歩いて馬車の迎えがある正門まで歩く。
すると突然目の前に人が降り立つ。
「いきなり何よ。」
「マグリット!お前転々と転移で移動するなよ。」
そんな事言われても、使えるモノは使うだろうと言いたい。
「その転移、我には教えてくれないのか?」
その台詞に思わず目をパチパチしてしまう。
「教えてほしいの?」
「むぅ。そりゃそうだろ。
あんな新参者に教えて、我に教えないとは。何故だ。」
まさかそんな事を言われるとは、思ってはいなかった。
確かに暗躍する者同士、旬とノアの顔合わせをしたのはまだ記憶に新しい。
その際に、確かにノアはその場に転移で現れた。
「何故って・・・・・・
確かに今は私の手足として動いてくれるかもしれないけど、貴方は殿下の影じゃない。」
「なら彼奴は何だ。」
拗ねた雰囲気を感じるも、マグリットもどうして良いかわからない。
「俺の話っすか?」
そう言ってやはりマグリットの背後に転移で現れる。
「ノア、何でわざわざ毎回背後に現れるのかしら?」
殺されたいの?と視線だけで問い掛ける。
「転移じゃないと、お嬢の背後なんて取れないっすから。」
ケラケラと、何でも無いことのように笑う。
旬を見ると不機嫌そうな顔を隠しもせずに、ノアを睨み付けている。
「俺はお嬢に忠誠を誓ったんっすよ。
お嬢に死ねと言われれば、いつでもこの命捧げる所存っす。」
睨み付けられているのなど何のその。冗談が本気かわからないような軽い口調で、それでも本気だとその瞳は物語っている。
「必要も無いのに、わざわざ死ねなんて言わないわ。」
「そんな事より、結局こいつは何だ。」
顔合わせはしたけれど、それだけだ。説明などしていないし、する気もない。
何?と言われると何だろう?と思わずノアを見る。
ノアもマグリットを見る。
「お嬢は俺に取ってご主人様っすね。」
「なら、私に取っては・・・・・・婢僕?」
「間違って無いし、お嬢に存在さえ認めてもらえれば何でも良いっすけど・・・・・・
今のお嬢、めっちゃお嬢様っすからそういう事言うと、違和感が凄いっすね。」
「めっちゃお嬢様ってどういう意味?」
旬もよくわからないらしく、ノアを睨み付けていた視線が疑問の視線へと変わる。
「あれ?自覚無いっすか?
この学園に居るお嬢と、俺が外で会うお嬢は最早完全に別人っすよ。」
旬は思わず、マグリットに視線を向ける。
旬はあくまでもフレデリックからの命で動いている。だからこそ学園外では余りマグリットとの接点は無かったりするのだが。
今の主な業務は、マクシミリアンとジェシカの監視だからこそ余計。
学園を出て、マクシミリアンとジェシカの監視は続けはするが、交代制である。その後はフレデリックの影へと戻る。影は影として仕事がある。
Sランク任務としてフレデリックの元に通っていたのは、魔法陣の説明という事もあり、マグリットも物騒な気配は纏っていなかった。
つまりは、マグリットの外での雰囲気を旬は感じる事は無かった。
「別人と言われるほどでは無いと、自分では思っているのだけど。」
「いやいや、今は本気でただの貴族のお嬢様っすけど。」
貴族に向かってただの、というのもどうかとは思うのだがそれは一旦飲み込む。
「外では俺も近寄り難いっすね。」
マグリットを見ていた旬が、その台詞に驚愕を露わにする。
旬も気付いているのだ。
ノアの実力に。
敵わない、とそこまで露骨には思う訳では無いけれど。
それでも、本気でやり合ったところで勝てるイメージの湧かない男、それが旬にとってのノアであった。
そのノアが。
近寄る事さえも出来ないと明言する、人物。
強い事には気付いていた。けれど、そこまでとは思ってもみなかったのが正直なところ。
表面上、大きく変わった事は無い。
けれど、旬の意思がマグリットから一瞬、畏怖からか離れる。
マグリットは微笑む。
それはそれは貴族の華と言われた御令嬢らしい、全てが洗礼された微笑み。
それは合図のように。
一線を、引く。
マグリットもノアも、旬の一瞬の心の機敏に直ぐ様気付いた。
ノアは元々、そういったモノに聡い。
マグリットは少しでも懐に入ってきた人物の心情だったからこそ、気付いた。
仕方が無い、とは思う。
旬も無かった事には出来ないと、気付いている。
しまったと、あからさまに顔に書いてある。
だからと言って別にこれから旬を邪険にするつもりは無いし、これで良かったかも、とも思う。
これで何故ノアを特別扱いするのか言及したりはしないだろう。
これで良いのだ。
傷付いているのか、と言われると否とは答える。
けれど心の距離が離れるのは、仕方が無いと思ってもらう他無い。
「これで転移の話は無しで、良いかしら?」
強くなった事に後悔は無い。それを怖いと思われるのも別に構わない。
私には私の生き様がある。
「・・・・・・っ!」
何も言えない旬をその場に置いて馬車がある方へと再度歩き出す。
「あれ、放って置いて良いっんすか?」
マグリットの斜め後ろをノアも歩きながら付いてくる。
「良いんじゃない?別に私がフォローしてあげる必要も無いんだし。」
まぁそうっすね、と呟いてチラッと一瞬だが置き去りにされた旬を見る。
「それで、わざわざやって来て一体何の用?」
「つれないっすねー。」
「貴方に愛想を良くする必要も無いもの。」
無駄話する前に、もう直ぐ馬車がある所に着くのだ。早く話せと視線を向ける。
「例の件、動きがあったっす。」
「・・・・・・・・・そう。」
周りの温度が急激に下がるかのような威圧感が、辺りに充満する。
「どうするっすか?」
「想像以上に早いわ。
そのまま動きの確認を継続、接触があれば再度報告を。」
「御意。」
そのまま転移で消える。
あぁ、やはりそうなのかと冷たい感情が過ぎる。
今日もまた気持ちが制御出来なさそうだ、と苛立つ気持ちを今は無理矢理胸に仕舞う。




