取り敢えずノアです
夜。静かな森の中。
依頼を受け、倒した魔物が足下に転がっている。
感情の伴わない瞳で、魔物を見下ろす。
血に濡れた刀を一振り。
魔物の血が飛び散る。
気分がどうも、暴力的で。
魔物を殺す依頼を受けてみたけれど、余り気分は晴れなかった。
考えることは多くある。
しなければいけない事も。
建国祭が終わり、その後続いた試験も終わった。
監視をしていた男の問題も解決して、フッと時間が出来たのが良くなかった。
元々監視をしていた男を殺す予定だった事もあり、少し暴れた程ではこの暴力的な気分が晴れる事は無かった。
いつもなら。感情の切り替えは得意な方で。こんな風に気分を引き摺る事も無いのだけれど。
パキッと枝が折れた音が後ろから聞こえる。
今の今まで確実に誰も居なかった場所に、一人立っている。
「何か、用?」
マグリットは振り返りもせずに突然現れた者に問い掛ける。
その質問には答えずに、ただマグリットを遠目で見る。
立っているのは男。
まるで血かと思える程のどす黒い赤い髪に葡萄色瞳。
背は高いが、余りがっしりとした体格では無く、かといって筋力が無い訳ではなく。伸びやかな筋肉のつき方をしておりスラリとした印象を抱かせる。
マグリットが今の所、顔を合わせなくない人物である。
「ノア。」
「お嬢が帰ってこないっすから。」
ノア。あの監視をしていた男である。
「帰らない理由に、気付いてるんでしょ?」
「そりゃ、まぁ。」
俺の所為ですし?とアッケラカンと答える。
別にマグリットは戦闘狂ではない。
けれども、戦いに身を置く身としてはこういった感覚になる事は然程珍しいことでは無い。
殺し損ねたノアが目の前に居ると、仕留めたくなってしまうのは仕方が無いと思う。だからこそこの暴力的な感覚が無くなるまではノアには会いたくなかった。
「俺と手合わせ程度じゃ、どうにもならないっすよね?」
「手合わせで終わらなければ、どうとでも?」
軽薄な嗤いになってしまう。
ノアは流石にそれは勘弁、とばかりに頭を振る。
「少しの間、放って置いてくれれば良いわ。」
他にも討伐依頼はあるし、そもそもいつまでも切り替えが出来ない事は無いのだ。今回はこういう事をしたのが久しぶりだった所為か、コントロールするのに時間が掛かっているだけ。
「そうはいかないっす。俺はお嬢に忠誠を誓ったんすから。」
ノアの命を奪うのを辞めた後、紆余曲折ありそういう感じになってしまった。
ノアが死なずにやらなければいけなかった事を、マグリットが肩代わりしたのだ。それ故にノアはマグリットを裏切らないし、マグリットも裏切られる心配は皆無となった。
だからこそ。
ノアには、全てを話した。
過去全ての九回分のやり直しや、転移などの今世では知られていない魔法を全て。
最初は当然呆気に取られていたようだが、忠誠を誓った相手が本気でそう言っているのならと、疑う余地さえ無いとばかりに全てを信じた。
だからこそ。マグリットの背後に転移で突然現れたのだ。
マグリットは接近戦タイプだが、ノアは暗躍、魔法が得手であった。だからこそ、難しい筈の転移魔法をあっという間に覚えたのは、純粋に拍手を送りたくなった。
「なら私と戦うのかしら?」
「いやー、それ死んだりしないっすか?」
死なずに居られるなら付き合いますよ?と顔が物語っている。
「死なないなら良いって、それはそれでちょっと違うと思うのだけれど。」
「そうっすか?別に死んだって良いんですけど、こうなったからにはどうせ死ぬなら、お嬢の盾になって死にたいっすね。」
まぁお嬢に死ねと言われれば、従いますけど?と何でも無いように、世間話をするかのように軽やかに言う。
「そんなのゴメンだわ。」
マグリットもノアと同じ。
死ぬのは怖くない。
けれど、他人の命を背負うつもりなど無いーーーーーーー
いつも読んでくれてありがとうございます。
葡萄色と読むらしいです。
赤みがかかった少し薄い紫色。
髪も瞳もあんまり明るく無い印象を持ってもらえれば良いかな、と。




