取り敢えず監視人に会いに行きます
「そうね。何でもバレなければ良いのよね。」
ただただ監視をするには、時間も魔力も何もかもが勿体無くて。
結局はそう言った思考に、落ち着いてしまった。
マグリット頭は悪く無いのだが、なまじ実力があるせいでチカラで解決出来そうであれば、そうしてしまう気がある。
今回に関して言えば、魔力不足による思考力低下も理由のひとつであるだろうが。
試験は終わったが、事態も動いていない。
魔力の監視にも、正直限界がある。
そうと決まれば善は急げ。
グイッと魔力回復薬を飲む。
然程回復をする訳では無いが、飲まないよりはマシだ。
そして監視をしていた男の元へと転移する。
一人。路地裏に居るのは確認していた。
男の真後ろに転移して、気配で振り向く前に襟元をガシッと掴み再度転移で移動する。
帝都からは適度に離れた森の中。
男をうつ伏せに倒し両手を背中側に回して魔法で固定させて動けなくする。マグリットはその男の背中に乗り上げ、首元に右手に持っていた短剣を突き付ける。
男はこの世界にない転移魔法に驚愕を露わにするも、それでも少しでも状況を把握するために視線だけで周りを見渡す。
やはりこの男、状況判断も早く順応能力も高い。
「フレデリック殿下とカンバーラント公爵令嬢を監視していた理由は?」
惜しげもなく、殺気を放ちながら問い掛ける。首に添えている短剣をより一層、首に近付ける。首元に小さな傷を作り、赤い血が一筋流れ出る。
「・・・・・・・・・・・・」
「答える気は無い?」
実は声で正体がバレる可能性もある為、声を変えるための魔法を使っている。これも転移魔法同様、過去やり直しでマグリットが魔法学者であった時に作った魔法で。
つまりはこの魔法の存在は知られていない。
流石に体格などで女である事には気付かれるかもしれないが、声を変えるための魔法が存在していない現在、マグリットである証拠もないし、普通ならマグリットである事さえも思いつかないであろう。
しかし。
それは、間違いだったのだと。
甘い見通しだったのだと、知る。
「俺をどうするつもりっすか?
カンバーラント公爵令嬢?」
気付かれた事は想像以上の驚きであった。が、それは表には出さない。
驚愕や図星を突かれた時に驚いて、ピクリと動いてしまうのでさえ、隠し事をしている者にとっては致命的である。
だからこそ、公爵令嬢としての仮面では無い時。
今のような行動をする時は、マグリット自身全ての動きをコントールする。
「答える気は、無い?」
此処でも「何故正体が!」とか、ましてや「何の事?」何て誤魔化す事ですらも怪しまれる要因だと、マグリットは思う。
その為、今出来ることは正体の話どうこうよりも。相手の言葉は全スルーで、マグリットの質問の答えだけを引き出すこと。
「俺の疑問には答えてはくれないんすか?」
「答える気が無いと見做しても?」
この男程の使い手が、ポコポコと居る訳では無い。此処でこの男から答えを引き出せなくとも、死ねば大抵は何も出来ないのだ。
この男以上の使い手が、フレデリックに害をなすとも考え難い。
雇い主の貴族にこの男以外に腕の立つ者を雇えるとも、思えない。
つまりはこの男が死ねば、一旦の問題は解決すると思われる。
この世ではまだ、一応貴族として存在している。
だからこそ本音としては、屠るのは避けたいのだがーーー
そう考えが過ぎた瞬間、この男から焦った雰囲気を感じる。
「ちょっとちょっと!!俺を殺してどうなるもんでもないっしょー。」
思わず疑問が顔に出る。
元々殺す気のような殺気を充てているのだ。そんな中、本気で殺そうと思った時の殺気に、反応した態度である。
「元々殺してもいいと思ってたのだけれど・・・・・・何故わかったのかしら?」
思わず本音がポロリと溢れる。
「それそれ、知りたくないっすか?」
知りたいか知りたく無いかと聞かれたら、気にはなる。
けれど。
「・・・・・・・・・だからと言って殺さない選択を取ることも無いわね。」
こんなよくわからない者など多くはない。
先程も同じ事を思ったが、死ねばそこで終わる。
同じような人間がもう一人出てきたのなら、その時に対処、考えれば良い。今は取り敢えず、この男を野放しにする方が危険だ。
「待って待って待って!!!
ちょっと、公爵令嬢なんかが、そんな暗殺者みたいな事言言っちゃダメっすよ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
言われた通り、待つ必要性は感じないのだが。
「ちょっ!!!」
そう言って男は魔法を使って抜け出そうとするも、抜け出せない。
それはそうだろう。
マグリットはこの森に転移した瞬間、魔法が使えなくなる結界を張っている。これは現存する魔法ではあるが、かなり難易度が高い。
それをやはりマグリットは詠唱どころか詠唱破棄でも無い。
無詠唱での発動である。
この男が腕の立つ男であろうとも、転移魔法の魔力がまだ漂っている中での、殆ど発動を感じさせもしない、無詠唱での魔法には気付かなかった。
「魔法なら使えないから。」
「いやいやいやいや、あんた使ってるじゃないか!」
この男が力尽くでも抜け出せないのは、マグリットの魔法の所為である。
「私が張った結界だもの。」
マグリットはそう言うが、そんなのは普通あり得ない。
結界を張った本人だろうが、その結界内にいるのだ。普通使える訳ない。だからこそ、この男もマグリットの規格外に絶句する。
「思い残す事は?」
取り敢えず殺す者として、一応聞いてみる。
相手がそれに答えるかどうかは、正直関係無いのだけれど。
「あるっすよ!あんな依頼で死ぬ予定なんて無いっすよ!!」
あんな依頼、ねぇ・・・・・・
確かにあれ以来、この男はフレデリックにもマグリットにも近づいては居ない。居ないが、こんな危なそうな男を放置もやっぱり出来ないな、と独り言つ。
「貴方があんな依頼と言ったとて、相手は皇族。
殺される覚悟くらい持ってても良かったのでは?」
至極、当然の疑問だと思うのだが。
「そもそも気付かれる予定じゃなかったんす!!」
確かに皇族付きの影も気付いていなかったし、人選は悪く無かった。本人も自分の実力をしっかり把握出来ていると、こんな場で無ければ拍手を送ったかもしれない。
「最悪の展開、ってものを考えておくべきだと思うわよ?」
何事にもね。と小さく呟く。
「公爵令嬢がこんなバカみたいな実力持ちだなんて、どう考えても反則っすわ。」
「まぁ、そうかもしれないわね。」
正体を隠し続けるのにも限界だと、素直に答えてみる。
どうせこの男は、今自分を殺そうとしているのはマグリットだと確信しているのだ。意固地になってまで否定する気にもなれないし、やる必要も感じない。
此処まで来たら隠し事を増やす事を厭うよりも、始末した方が早い。
それに関してもこの男は気付いているようで、何だかんだと殺されないための言い訳を並べ立てている。
「それで?」
が、それを親切に聞いてやる意味も無いので聞き流す。
「話を聞いて欲しいっす。」
「私が貴方を殺さない理由が無いのだけれど?」
「あるっしょ!!あんた公爵令嬢っすよ?
そんな人が人殺しちゃダメっすよ!」
今世では確かにそうだけれど、だからと言って手を下すのを辞める理由にはなりえない。
「よくわからないけれど、貴方は命乞いをしたいのかしら?」
「当たり前っす!あんな依頼で死ぬなんてゴメンっす!」
「私にこのまま貴方を開放しろ、と?」
流石にそれは出来ない事を知っている男は、思わず黙り込む。
「ほら、出来ないのなんて一目瞭然じゃない。
それに私のこんな姿を知ってる貴方を、ただただ皇宮に罪人と差し出すのも、それはそれで有り得ないのだけれど?」
どうせ魔法で動けなくしているのだ。
男の上に跨っていたのだが、佇まいを直し背中に座り込む。短剣を首元から離し、手元でクルリと回す。
「話さない、って言っても信じてくれないっすよね?」
「そうね。信用する要素はカケラも無いわね。」
「どうしたら助かるっすか?」
チラッと顔の方を見てみる。男はうつ伏せの所為で、後頭部しか見えないが。
「本気で命乞い、したいの?」
「だから当たり前って言ってるじゃないっすか!?」
そうは言っているが、どうも釈然としない。
「私には貴方がどうしても死にたく無いと、思っているようには見えないのだけれど。」
「・・・・・・何でそんな風に思うのかわかんないっすけど。」
「貴方から生きたいっていう意欲を、どうしても感じ取れないのよね。」
「そんなのわかる訳ないじゃないっすか。」
口ではそう言いながらも、声は小さく頼りない。
死にたく無い、は嘘だと確信さえ持てる。
けれど、死ぬ訳にはいかない、という意思は本物かな、とは思える。
「死ぬとマズイ事があるのね?」
それをわざわざ考慮してあげる必要は、本当なら無いのだけれど。
「・・・・・・・・・」
ふむ、と考える。
「それをわざわざ聞く気もないのだけれど。」
これからどうしたい?と敢えて相手に問い掛けてみる。
「死ぬ、のは困るっすね。
確かに死にたくないと、切望してる訳ではないっすけど。」
言葉を一度切る。
敢えてマグリットも続きを促したりもしない。
男の上に座りながら、クルリクルリと短剣をモテ遊ぶ。
「・・・・・・・・・何を言っても良いっすか?」
否も是も言わない。
「今死ぬのは困るっす。
だから俺を雇いませんか?」
クルリと短剣を回す。
無言の時間が続く。その間もクルリクルリと回す。
雇う、ねぇ。
スッと冷たい感情が過ぎる。
こんな爆弾を抱えてやる謂れは無いのだけれど。この男の事情はマグリットには関係ない。
さて、どうしようかと思う。
この男を生かしておくメリットデメリットを頭の中で羅列してみる。
デメリットの方が多い気もするが。
チラリともう一度男を見る。
どうやら人の感情に機敏なのは、確かなようで。
ビクッとしているのを横目で眺める。
「信用が無いのに雇う、ねぇ。」
マグリット側の最大のメリットはひとつ。
単純に手だれの人手が増える事。
皇族と公爵令嬢という立場の割に、使える手駒が少ない。
「どう言う雇用形態かしら?
それとも。
今までのように他の仕事も出来るなんて思っては、無いわよね?」
当然とばかりに、頭を縦にブンブン振っている。
「ただ・・・・・・」
「ただ?」
こんな状態で条件を上げるとは、豪胆なのか、バカなのか。
「金は、欲しいっす・・・・・・」
まぁ、それは予想の範囲内である。
監視の間、この男はずっと働いていた。こういう暗躍するような危険と隣り合わせであるような仕事は一貫して、そこそこ稼げる筈であるにも関わらず。
寝る間も惜しんで、とはこう言う事を言うのだと言わんとばかりに。
逆に働いている姿しか見せなかったとも言える。だからこそこの数日程度の監視では、お金を稼ぐ理由までは確認出来なかった。
「お金は仕事をしてもらうなら、払うわよ。
当然の対価でしょ?
そもそも雇う、と言っては無いけどね。」
「死ぬ訳には、いかないっす・・・・・・・・・」
悔し気に、しかし実は意識の奥で熱情を抱えながら、それでも唸るようにはっきりと、死なない為なら何をしても構わないという意思を感じる。
此処まで来れば、殺すのも面倒で。
やはり話しなど聞くものでは無いな、と思う。
殺す予定の者の話を聞いてしまえば、躊躇ってしまう。
今世ではそこまで非情になる理由も、得に無いから余計か。
「条件があるわ。」
「何なりと、お嬢。」
珍しい呼び方だな、とどうでも良い事を考える。




