取り敢えず魔力不足です
その後は特に問題無く、夜会は終わった。
監視をしている男は特に変化は、無い。あの貴族のお抱えではなさそうで、様々な仕事をしているようだ。
引き入れれば話は早いだろうが、こういう様々な仕事を様々な人物から請け負っているような者は、逆に引き込むには骨が折れるだろう。信用第一で仕事を請け負っていると思われる。
つまりは現状、進捗はない。あの監視だけが依頼であったのなら問題無いのだが、流石にそうはいなかないか。
あんな確認ひとつするだけで、この者を雇うのは大層である。
ただし、雇い主がこの男の実力をしっかり把握している場合によるが。
魔力での監視、というだけでなく。バレないように最小限に気を張りながらの為、なかなかどうして気を使う。
その上最小限過ぎて、どうしても監視が甘くなるのは否めない。非効率だなと思うも、かと言って監視を辞めて動向を探らないようにするのも、それはそれで不安が付き纏う。
学園に通う以外の時間をマグリット自身で監視するのであれば、魔力の心配は要らないのだが、あの者にそこまで隠れ切ることが出来るのかがわからない。
マグリットも気配を消す事は出来るが、あの者程ではない。
その点ではやはり見つかる可能性も多大にあるという事。
ただ戦うとなれば負けはしないかな、と思う。逆に真っ向勝負となればマグリットの方が強い。
一層、強襲も考え無いでもなかったが、現状少しの監視だけで実害があった訳でも無いし、そもそも証拠も無い。
マグリット自身が暗躍として動くのならともかく、公爵令嬢としてもギルド員としても、証拠も無しにそう言う事は、立場的に出来ない。
はぁ、とひとつ大きな溜息が出る。
試験は恙無くひとつずつ問題無く終わっていく。
日が経てば経つ程、休みなくしている魔力の監視は、マグリットの体力、気力、魔力を否応無しに奪って行く。
試験は熟すが、その他の時間はボーッとする事が増えた。
マグリットの魔力は、やはりそこは上位貴族。かなり多い。
しかし無尽蔵では無い。
魔力不足による意識が朦朧とする状態が、少し前から続いている。魔力回復薬は定期的に飲むが、減る量の方が多いし、やはり飲み物の為、水っ腹になってしまう。普通にそんなに飲めない。
こんな状態を続ける訳にはいかないと、試験が終われば絶対に対処しようと決める。
本日分の試験も終わっているため帰るべきなのだが、やはり怠い。試験の最中皆が足早に帰る中、億劫で意味もなく教室に居座る。
ガラッと音がして教室の扉が開く。
誰かが近づいて来る事さえも気付かなかったのは、流石にらしくなさ過ぎたな、と思う。
そう思えど、顔を向けるのも面倒臭い。
「ちょっと何してんのか知んないけど、魔力減り過ぎだろ。」
呆れた様子を隠しもせずに、教室に入ってきたのは旬であった。
「ん〜?そうね。」
取り繕う程元気でも無いし、そもそも旬を相手に取り繕えるとも思えない。
「俺が来ても防音の結界張らないぐらい、魔力枯渇してんだな?」
いつもなら確かに、すぐさま結界を張っているのは確かで。
誤魔化す為に今更であっても結界を張るには、流石に魔力が勿体無い。
「ん〜無理すれば張れない事は無い、と思うけど。」
「いや、無理だろ。
今だってギリギリだろ?」
動くのも億劫であったが、旬の方へと顔を向ける。
「本気の本気でギリギリなら試験さえ受けれないから、ギリギリじゃない。」
「いやいや、流石にそれは嘘だろ。」
扉付近で話していた旬が、マグリットへと近付く。
「・・・・・・・・・嘘、じゃない。」
「何してるかは聞かないで居てやるから。」
そう言ってマグリットの腕を引っ張り、立ち上がらせる。
抵抗する気力も無いため、なすがままだ。
「送ってってやるよ。
どうせ馬車までだろ?」
それはそうだが、流石に皇族の影である旬が、姿を現しながら歩いているのは不味いのでは?と思う。
しかし旬はマグリットの腕を離さない。
「いや、流石にまずいでしょ。」
「我も気配は読めるし。」
「そりゃそうだろうけど。」
「それに。」
態とらしく、言葉を切る。
「それに?」
「主からの命令だ。」
思わず、バッと旬から離れる。
確かにボーッとしている時間は増えた。増えたが、バレない様にしていた筈だ。
人目がある時は、いつも通りに見えるように過ごしていた自信だって、ある。
「気付かれないとでも?」
思ってました。とは言えない。
「言っとくけど、マグリットの状況は報告してないからな?」
なら何故?と視線だけで問い掛ける。
「普通に主が自分で気付いたんだよ。マグリットの体調が悪いんじゃないかって。主自身で送って行く事は出来ないから、って頼まれた。」
そう言ってまた、マグリットの腕を掴む。
抱っことかになったら、嫌だろ?と聞かれたから即座に頷く。
「殿下が気付かれたの?」
「そう。
でもマグリットの魔力が減り続けてる事にはまだ気付いてない。気付いてたらもっと怒ってると思うけど。」
「報告、しないの?」
「・・・・・・・・・して欲しいのか?」
「そう言う訳じゃないけど。」
報告義務はあるのでは、とは思う。
「我の仕事はマグリットの手足となって動く事。
マグリットが何かをやっているのを止める権利は無い。」
それで良いのか?と思わないでも無いけれど、これは恐らく旬の優しさであろう。
「まぁ、聞かれたら答えるけどな。」
優しさは中途半端だった。どうせなら黙っとけよと突っ込みたいものの、確かに主と敬っているのはフレデリックなので仕方がない。
行くぞと目線だけで伝えられ、腕を引きながら教室を出る。
この広い学園内を黙って歩いていたが、もうすぐで馬車まで辿り着く、という段階で旬がピタリと立ち止まる。
「・・・・・・??」
何かあったのだろうか?と考えるも思い当たる事は特に無い。
旬の顔を見る為見上げると、旬もマグリットを見下ろしていた。
「我は今はマグリットの手足だ。
遠慮無く使え。」
問い詰めたりはしないけれど、一人で全てを抱えるなと。
言われた台詞を理解すると同時に、へにゃりと笑う。
どうやら魔力が枯渇しているせいか、いつも無意識でも緊張している表情が崩れる。普段のマグリットならこんな気の抜けた表情はしない。
旬はその表情を見てピクリと片眉を上げるも、それ以上に表情を変えたりはしなかった。
「何かあるか、まではわからないのだけれど。
もし何かあれば、ちゃんと伝えるから。」
だから大丈夫、と笑う。




