取り敢えず二日目です
迎えに来たのは、フレデリック。
前日同様馬車に入ると、防音の結界を張る。
「皇太子殿下が来るかと思いました。」
「いや、最後までブチブチと言っていたがな。
皇帝陛下が許さなかった。」
「陛下が?」
「まぁ、なんとなく理由は想像出来るが・・・」
「まぁ、そうですわね。」
少し、少しだけだが気まずい雰囲気になってしまう。
「皇太子殿下の様子は?」
昨日少し話した後、見かける事も無かった。
「今日のマグリットのエスコート役を決める時に会った時は、いつものマクシミリアンだった。」
明らかに昨日の様子は、おかしかった。同じテーブルに着いていた三人以外の者達にも、気付かれていると思う。
ふーんとマグリットはコメカミに指を当てて、少し考える。
「あそこまで異常状態を他者に見せて尚、皇太子でいれるものですか?」
マグリット弾罪前に、マクシミリアンが弾罪されそうだ。
「最終決定は、結局は皇帝陛下だからな。
第一皇位継承程度であれば、直ぐ様撤廃も有り得ただろうが。
既に皇太子だからな。廃嫡となるとそれ相応の理由もいる。皇后陛下の手前、余計にな。
それに皇位継承権を持っている者が少ないのも、理由のひとつだろう。」
フレデリックにも考えが変わった部分はあれど、今は動く気はない。
「皇族の血を引く者は、少ないですものね。」
今代も先代も余り子は多くない。
「出来にくい身体の様だからな。」
サラリと重大な機密事項を、何でも無いことの様に話す。
「はい?」
「出来にくいんだ。子が。体質的に。」
「いやいやいやいや、それは話して良い事では無いのでは?」
皇族に対する言葉遣いが、元々崩れ気味だったのに拍車を掛けて不敬と言われてもおかしくない口調となってしまう。それ程驚いたのだ。
「そうだな。知っているのは、正統な血筋の者だけだ。」
つまりは皇后皇妃殿下でさえ、知りはしない事柄という事で。
「何故私にそんな話をするのですか!!!」
此処が馬車の中で無ければ、立ち上がり地団駄している位である。
「正直皇族の妻になる者にまで黙っている必要を、俺は感じていないからかな?」
「私は!皇后陛下になると決めた訳ではありません!!」
むしろマクシミリアンとは婚姻を結ぶ事はしないと、決めたばかりだ。
「相手が誰になるかは、わからないだろう?」
皇族の妻なら、と伝えただろう?と目だけで伝えてくる。
見目麗しい男の色気とはこう言う事を言うのだろうと、思い知らされる顔でマグリットにグイッと近付く。
馬車の中、そんな事をすればそれはもう、かなり近く。少しでも馬車が揺れればキスでもしてしまうのでは、と言う距離。
不敬だろうが何だろうが、これは駄目だと手のひらをフレデリックの顔に当てて引き剥がす。
それに対して怒るどころか、クスクス笑いながら、マグリットの手首を掴んで顔から退ける。
「ちょっとマグリットが動揺するのが楽しい。」
「私で遊ばないで下さい!」
「まぁまぁ、もう着くぞ。
今日こそ踊ってくれるんだろ?レディ?」
ーーーーーーーー
入場と共にやはりマグリットに視線が集まる。
本日も昨日と同様。アラクネの糸から出来たドレスである。
スレンダーラインのドレスでアメリカンスリーブ型。色は天色、晴天の澄んだ空のような鮮やかな青い色をしている。二の腕までのイブニンググローブを着けており、レースで出来ている。
フレデリックは昨日と同様。やはり皇族専用の正装で、一日目はマントだったが、今日は肩マント型であるペリースを着用している。色も昨日同様夜会用のようで、こちらも昨日と同じようにマグリットのドレスの色に合わせ、水色をメインとした正装である。
挨拶回りは昨日出来なかった人物を中心に。それでも昨日殆ど終わらせた事もあり、余り時間が掛からずに終わる。
皇帝陛下のファーストダンスも終わっており、皆思い思いにダンスをしている。
フレデリックはエスコートしていた手をハラリと外し、マグリットの前に跪く。
「「「!!!!!!!!」」」
それを目にした者達が挙って驚愕を表し、フレデリックを凝視している。こう言う反応もそろそろ慣れては来たが、余程フレデリックは周りと距離を取り続けていたのだな、と感じる。こう言う行動は貴族としては、普通の事。驚かれる程、今までやっては来なかったのだろう。
「カンバーラント公爵令嬢、私と踊って頂けますか?」
手を差し出される。
その上にマグリットも手のひらを乗せ、微笑む。
「光栄ですわ。フレデリック殿下。」
二人、広く場所を取られているダンスフロアへと進む。
優雅に、華麗に、ミスひとつ無く、誰よりも目を惹くダンスを披露する。お互いを見つめ合いながら、微笑みを絶やさずに、踊る。
『殿下、随分お上手ですわね。』
表情には出さないが、念話で驚きを伝える。
『意外か?』
『えぇ、正直。』
マグリットもダンスは上手いが、フレデリックはそれ以上に上手かった。此処まで完璧なリードは初めてである。
『普段踊らないから?』
『そうですね。』
『俺はもう何十年・・・いや百年?と生きてるからな。この世界に居続けてるんだ。上手くもなる。』
マグリットは死に続けたが、フレデリックは生き続けた。
その差だと、自傷気味に嗤う。
『もうお爺ちゃんですね。』
ピクリと、和かに微笑んでいた顔が一瞬怒りに染まる。
しまった、と思った時には遅かった。
『そんな事言うなら試してみる?』
ダンスに託けて馬車の中で近付いた時程の距離へと、詰め寄られる。
『試してみません!』
物悲しい雰囲気になったのを、茶化して終わりにしようと思っただけなのに理不尽過ぎる。
しかもフレデリックはそれに気付いているのだ。
クスクスと貴族らしい微笑みでは無く、本音で笑っているのがその証拠である。
傍目からは話していないのに、二人は親密そうに、楽しそうに踊っているように見える。フレデリックはそれを狙っているし、マグリットもそう思われたところで、現実的に二人の間に色っぽい事案がある訳でも無いので気にしない。
そもそもフレデリックと夜会に出た時点で、気にしていては此処には居られない。
曲も終わりダンスを終える。
何度も同じ相手と踊る事は、婚約者以上の関係でないとしない。
ダンスの終わりにお辞儀をして、場を辞する。
初日は挨拶回りで最初から最後まで居たし、最終日は暗黙の了解で最初から最後まで居る事になるだろうし、その間の二日目位は早く帰りたいな、と思わないでもないのだが。
そう思いマグリットはフレデリックを見上げる。
どうやら意図は汲んでくれたようだが、さりげなく進路を変更してバルコニーへと向かう。
バルコニーには現在、誰も居ない。
フレデリックは柵に両手をついて、空を見上げる。
今日も良い天気で、夜空に星が瞬いている。
「どうされましたか?殿下。」
「いや、少しだけでもマグリットの時間を貰えないかと、思ってな。」
思ってもみなかった事を言われて、目をパチパチさせてしまう。
「時間、ですか?」
隠している念話のブレスレットに触れる。
時間ならいつでも幾らでも取れる、と思う。
むしろ最近はかなりの頻度で念話をしていた筈だと、思い返す。少しの時間でもとフレデリックが連絡をしてくる日が増えたからだ。報告とかでは無く、雑談で終わる日も多い。
「こうして顔を突き合わせる事は、ないだろう?」
編み上げられている髪から出ているひと房を取り、キスをする。
「声は聴けても、顔は見れない。
夜会の最中、マグリットだけを見てて良いならまだしも。」
マクシミリアンじゃあるまいし、そんな事は出来ないだろ?と髪から手を離し苦笑する。
「そうですわね。」
外を見ているフレデリックとは逆に、マグリットは柵を背に窓から室内を見る。今の今までそこに居たにも関わらず、何だか他人事の様に夜会で踊る人達を眺める。
自分の居場所が何処か不透明なのだと、そう言葉にせずとも伝わってくる。きっと貴族社会でも市井でも、違和感無く馴染めるだけ余計に。
「君はどうしたい?」
これから、と声無き声が聞こえる様だった。
「死ぬ事以外考えるつもりは、無かったんですよ?」
「うん。」
「貴族として居ても。」
「うん。」
「平民として過ごしても。」
「うん。」
「騎士になってみても。」
「うん?・・・うん。」
騎士は初耳だな、と思わず吃ってしまった。
「魔法学者になってみても。」
「うん。」
「帝国から出たところで。」
「他国に住んでた事もあるのか・・・・・・」
想像以上にマグリットはアクティブだったと、笑うしかない。
「逃れられない、運命なんだと、そう思っていました。
むしろ・・・・・・」
そう思わなければ、耐えられなかった。
一度は心が病んでしまったのだ。再度病む事など容易い。
「けれど、今回は。」
マグリットはフレデリックに顔を向ける。その顔は無表情を装っているが、瞳の中には様々な感情が渦巻いている。
「今回は?」
「もし今回も死すとも、自分はどうしたいのか、考えなければいけないのだと、そう思っております。」
「死なせない。死なせる訳が無いだろう。」
まるで運命のように、マクシミリアンに殺されてきたから。
死なせないと言われても、パッとしない。
それでも。信じたいと、思った。
「どちらにせよ、皇太子殿下と添い遂げるつもりはございません。」
俺は?と問い掛けたいのを、すんでのところで我慢する。
まだだ。まだマグリットを捕まえて居ない。
俺の元まで落ちてこいと、フレデリックは願う。
明白な口説き文句は、ルール違反。
マグリットがフレデリックの気持ちに気付いていようとも、口には出さずに今はまだ駆け引きを。
「当然だ。マクシミリアンにはマグリットは勿体無い。」
「勿体無いですか?」
「勿体無いな。ギルドにやるのも勿体無い。」
「あら?なら何処なら良いのでしょうか?」
フレデリックが言いたい事を知って居てなお、知らないフリをする。
「さて、何処だと思う?」
マグリットの手を取り、そっと手首にキスを落とす。
それが答えだと、言うように。




