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取り敢えず夜会に向かいます

 


 憂鬱だな、と思えど夜は明ける訳で。


 朝も早くから自室へと進入してきた、ソフィー以下侍女達。

 夜会だと言うのに朝も早くから準備をするのは、市井での感覚を覚えてしまったマグリットにはやはり少し煩わしくて。

 それでも文句を言うつもりは無いし、むしろその準備をしなければいけない侍女達は大変だな、と思う。


 逆らう方が時間が掛かると、知っている。

 自身で脱げる寝間着を脱がされ、体を洗われ浴槽に入れられと様々な事をされるも、なすがまま受け入れる。


 ここまで念入りなのは本当に久しぶりに感じる。

 感じるどころか、かなり久しぶりかもしれないと思い直す。

 やり直し二回目の、卒業パーティー以来ではないか。

 それは確かに久しぶりに感じるのも、仕方がないと言うものだ。




 準備万端となる頃には夜ももう直ぐそこ、と言う所まで来ていた。

 準備だけで疲れるのは頂けないし、三日間続くのは正直勘弁願いたいのだが仕方が無い。



 ーーーーーーー



 迎えを待つ間、何となく落ち着かない。


 何故こんな事になったのか。

 しかも誰にも知らせていないそうで。つまりは父である公爵にさえ知らされていないと聞いた時は、正気かと思ったのだが、どうやら本気の様で。


 皇帝陛下の命だと言うから黙っては居るが、後で何を言われるのかと憂鬱になる。


「お嬢様。迎えの馬車が参りました。」

 自室のドアをノックして入ってきたのはソフィーで。

 了解の意を示し立ち上がり、玄関へと迎えに立つ。


 カーテシーを維持し、馬車が停まるのを待つ。

 マグリットへの迎えの為一番前で待機しているが、後ろには当然父である公爵、母である公爵夫人、兄である公爵次期当主。

 使用人達もその後ろにズラリと並んでいる。



 そんな場に停まった馬車から出てきた人物にマグリット以外が、表情を隠す事さえ忘れた様に驚愕を露わにする。


 しかしマグリットは知っていた。


「帝国の若き太陽、フレデリック殿下。

 ようこそお越し頂きました。」


 そう。


 マクシミリアンの代わりにエスコート役として選ばれたのは、兄であるフレデリックであった。

 正直、マグリットもフレデリックも複雑な心境ではあるが、皇帝陛下の命とあれば受けないわけにはいかなかった。


「いや、問題無い。

 楽にしていてくれて構わない。」

 そう言うとマグリットの手を取って、顔を上げるよう促す。


「ありがとうございます。」

「こちらこそいきなりエスコート役を変更してしまい、すまなかった。」

 いつものマグリットとフレデリックだけの会話には無い、皇子らしい威厳にモゾモゾするが表情には出さない。


「いいえ、大丈夫ですわ。フレデリック殿下。」

 マグリットも又貴族令嬢らしく、微笑んで返事を返す。


「ゆっくりしたいのは山々なんだが、時間も迫ってきている事だ。

 行こうか。

 公爵も問題無いか?」

「は、はい!!問題ございません。娘をよろしくお願いします。」

 普段無口な父ヘンリーは皇族が相手であれば、喋るらしいと今更ながら気付く。


「では、行こうか。

 カンバーラント公爵令嬢。」

 フレデリックのエスコートでマグリットは、皇族専用馬車へと乗り込む。




 パチンとマグリットは指を鳴らす。

 防音の結界を張ったのだ。

 極力魔力を感知出来ない程まで絞っての発動は、余程の者で無いと防音の結界を張ったことにさえ気付かれやしない。


 場所の中で向かい合って、いつもの雰囲気で話し合う。

「公爵、驚いてたなぁ。」

 それはそうだろう、と呆れた目線をフレデリックへと投げかけてしまう。


「殿下がエスコートなんて、普通なら有り得ません。」

「仕方ないだろ。皇帝陛下が言うんだから。

 それにマグリットを一人で夜会に向かわす訳にもいかないしな。」

 肩をすくませ、それでも役得だと蕩ける様な笑顔を見せる。


 だからその顔はダメだろう、と思うも言えやしない。

 せめてこの顔を他の御令嬢に見せていない事を、祈る事しか出来ない。


「一人って。家族皆んな行くんですから、一人ではありません。」

「それでも婚約者がいる御令嬢のエスコート役が、父親や兄だと格好も付かんだろ?」

 しかも本当のエスコート役であるマクシミリアンは、別の女を連れているのだ。


「私は気になりませんが?」

「君は気にならないかもしれないが、公爵達の事も少しは考えてやれ。」

 だからといって幾ら婚約者の兄とはいえ、別の男性にエスコートされるのは如何なものかと思うのだが。


「それはまぁ、皇帝陛下にどういうつもりか確認しない事には。」

 そう言いつつも、二人は気付いているのだ。


 皇帝陛下の意思に。


 ただそれはどうなのかと、お互い感じているだけで。



「そんな事よりも・・・・・・」

 フレデリックはそう呟き、不躾と知りながらもマグリットを凝視してしまう。

「あら?似合いませんか?」

 マグリットは自身のドレスの裾に触れる。

「いやいや、それは無い。」

 そう言ってマグリットの指先を持ち、自身の口に持っていく。


「間違い無く、今回の夜会の主役になれる。」

 そして指先にキスを落とす。

 指先へのキスは賞賛を意味する。


「そういうのは、他の御令嬢にしてあげて下さいませ。」

 フレデリックは頑なに今まで女を遠ざけて来ただけあり、この様な事をした事は無かったと記憶している。

 むしろこんなことをされた時点で、された側の令嬢はキャーキャーと騒ぎ立て凄い事になりそうだ。

 しかもその後は、様々な噂が飛び交うであろう。


 それ程フレデリックは、貴族にとっても高嶺の花なのである。


「俺がそんな事をするとでも?」

 未だ唇を指先に当てたままマグリットを上目遣いで見詰める。


 しない。間違いなく。

 それでもそれは言ってはいけない。


 そっと目を伏せ、答えとする。

 フレデリックも答えを待っていた訳でもないし、むしろマグリットが何かを言おうとするなら止めたであろう。




 核心に触れないのは、一体どちらなのか。



 フレデリックか。

 マグリットか。



 それとも、どちらもかーーーーー





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