取り敢えず建国祭前日です
三日間ある夜会を出るのは、正直なところ煩わしいのだが。
公爵令嬢ともなれば、出ないなんて事は出来ない訳で。
例えば二日間はマグリットとして。一日はSランク冒険者、華雲の真珠として出れるのであれば特に問題は無いのだけれど、とも思うもそうはいかない。
三日間とも皇族は全員出てくるのだ。それを休む訳にはいかない。
流石に始まりから終わりまでは居ない為抜け出す事は可能かもしれないが、状況が変わる事を考えたら現実的では無い。
しかし最終日だけは、違う。
夜会に出る全ての者達が最初から最後まで、居る。
皇帝陛下が退室しないと、決まっているからだ。
つまりはその人の多い時に、Sランクの華雲は居るという事にすれば良いのだ。
面倒だと思えど仕方ないかな、とは思う。
しかしこんな事ならSランクなどにならなくても良かったのでは、と思いはしても今更で。
ギルド員で居る事に後悔がある訳では無いのだ。
ギルドマスターに文句を言うのは、また今度にしよう。
明日は建国祭ですよ!と張り切った様子のソフィーにいつもより早い時間にベッドへと押し込まれた。
貴族令嬢は夜会の用意ひとつ、時間が掛かる。
朝から全身磨かれるのは予想通り過ぎて、何とも思わない。
普段から殆ど寝ていない事もあり、早く寝ろと押し込まれた所で寝れる訳も無く。
しかしいつものように依頼に繰り出す気にもなれず、ベッドに寝転びながら上を眺める。
眺めた所で天蓋があるだけなのだが。
せめてこれが夜空なら良かったのに、と思うもソフィーの熱意を無碍にして抜け出すことはしない。
つまりは。
暇だ。
『あーマグリット、今、良いか?』
『帝国の若き『いや、もうそれは良い。公式の場でない限りは要らない。』
それもそうかと、ベッドに寝転んだまま目を瞑る。
『ではどのような後用事で?』
急かすつもりは無いのだが、マグリットは兎も角フレデリックは建国祭の前日、まだまだ仕事を抱えている筈だ。
『そんな急かさんでも良いでは無いか。』
『しかし・・・忙しいのではありませんか?』
『まぁ、そうなんだが。』
よくわからないが、暇つぶしにはなりそうだ。
『準備は終わりそうですか?』
『それは大丈夫だ。
俺よりも実際に夜会の準備をしている使用人達の方が、今は大変だろう。』
殆どの貴族が集まるホールの準備ともなれば、確かにそうなるであろう。毎年の事とは言え飾り付けの趣向もガラリと変えなくてはいけないし、そうそう都合良く物事はスムーズには進まない。
フレデリックはそれの後処理であったりと、普段の政務もあるのでバタバタしているのだが。
やはりこんな一年に一番忙殺される時でも、マクシミリアンは何もしていないようだが。
ーーーー何故。
そういえば何故、それで許されるのであろうか。
幾ら皇位継承権を表立って争っている訳では無いとは言え、皇帝陛下になる予定の人物がここまで何もしていなくて、それで何故罷り通るのか。
マクシミリアンが皇帝陛下になった時に、こんな状況でこれからどうするつもりなのか。
本気で全てを皇后陛下に押し付けるつもりなのか。
真意のほどはわからない。
『それでも殿下もずっとお忙しくしていたではありませんか。
しかも今までやっていなかった教師業務も含めて。』
『いやいや、君は居なかったから興味無かったかもしれないが、去年も建国祭はあったからな?』
・・・・・・・・・・・・。
『あぁ、確かに。
そうですわね。』
当然ウェルズリー男爵達も夜会に参加している。
しかしこの時はまだ魅了の魔道具は持っていなかった。監視は定期的に続けたが、建国祭で動きがある雰囲気は無かった。
しかし普通の平民の様に、マグリットはお祭りを謳歌していた訳でも無い。
どうしても手薄になる依頼を、手の届く範囲ではあるがやり続けていただけだ。
『だからまぁ要領も掴んでるし、大丈夫だ。』
『それでもちゃんと休んで下さいませ。
殿下が粉骨砕身されているのは、周知の事実なのですから。
無理はいけません。』
『俺にはマグリットの方が無理している気がするが?』
思わず瞑っていた目を開けてしまう。
『・・・・・・無理?』
無理などしているつもりは無い。全く無い。
『とうとう華雲の真珠は、皇宮まで噂が届く様になったぞ?』
余程多くの依頼を受けているのでは無いのか?と、少し心配を滲ませた雰囲気を感じる声音で問い掛けられる。
『無理などしておりません。』
本当に。しているつもりは無い。
人命が危ぶまれる様な依頼が無い訳ではなかったが、それでもかなり緊急性の高い物は、直ぐに動けないマグリットには回されてはいない。むしろ本当ならSランクを名乗るのも烏滸がましのだ。
ギルド所属となれば、要請があれば直ぐ動けなければならない。
しかし、マグリットはそうはいかない。
ギルドマスターもそれは知っていると思う。マグリットは元々ギルドを辞めるつもりでいたのだから。
それでも所属してくれと言われたのは、依頼を熟して欲しいのは間違い無いのだろうが、本当の所は監視をしたいのだ。手放してしまった時、マグリットが何をするのかわからないから。
強い、というのは人を街を守る事も出来るかもしれないが、やはりそれは破壊の力。監視をしないと危ないと、そう思われているのだ。
手綱をつけたかったのだ。ギルドは、マグリットに。
それを知りながらも素直に繋がれたのは、どうでも良かったからで。
だからこそ無理して依頼をする程でも無いし、そこまでの緊急性の高い依頼も無い。
『無理、してないのか?』
『むしろ何故そんな風に思われたのか、見当もつきません。』
『依頼の正確さと、達成スピードではないか?』
それは、ちょっと否定出来ない。
依頼も多く殆ど眠れないのもあって、少しばかりやり過ぎた自覚はある。
転移魔法を使えない者達は、どうしても移動に時間が掛かる。それを殆ど必要としないマグリットは、どうしても他より達成スピードは上がる。
それでも魔力が多い他の高ランク冒険者も、身体強化で移動スピードを上げての移動が出来る為、なかなかの達成スピードを維持している。
しかしやはり、転移魔法には敵わない。
『私には移動方法がありますので。
だから、無理などしておりませんわ。』
『それなら良かった。』
ホッとするような雰囲気を感じる。存外心配させてしまっていたのかもしれない。
それもそうだろう。マグリットがSランク冒険者と知っていたとて、戦っている姿など見た事は無いのだ。貴族令嬢としてのマグリットしか見ていない者にしてみれば、心配するなと言う方が、無理あるのかもしれない。
『今だってどう閑を潰そうかと・・・』
『つまり暇って事か?』
わざわざそんな回りくどい言い方を、と呆れられる。
『流石に建国祭前日に大人しく寝ろと言われたら、たまには言うことを聞くべきかな?と思いまして。』
最上級レベルの回復が自身で使えれば話は別ですが、とこっそりと思う。
怪我をしてしまうと、内容によってはバレてしまう。
流石にSランク昇格試験程の怪我はしないとは思うが、冒険者とは何があるかはわからないのだ。
『・・・・・・・・・まだ、寝れないのか?』
『そうですね。あまり長くは寝れません。
嫌だとも、感じてはおりませんが。』
最低限、倒れる程では無い程には寝ているのだ。そのせいかあまり気にならない。
『そんな事よりも、何かお話があったのでは?』
マグリットが寝れない事に、フレデリックが負い目を感じているのは気付いている為、話を逸らす。実際本当にマグリットは気にしていない。気にしていない事を気にされるのも、居心地が悪い。
『あー・・・・・・いや、その、だな。』
フレデリックがこんなにも言い辛そうなのは、かなり珍しい。
何かあっただろうか、と首を捻るも何も思い付かない。
『マクシミリアンがジェシカ=ウェルズリー男爵令嬢をエスコートすると言い出している。』
何だそんな事か、と興味を無くす。
『いや、そこはちょっと位反応しような?』
『私にどうしろと?
私には皇太子殿下が何を考えているのかわかりかねます。
殿下や旬には私に恋慕しているのでは?と言われましたが・・・・・・』
本当にそうなら、何故他の女性を誘うのか。それが魅了の効果とでも言うのか。
『ヤキモチでも焼いて欲しいんだろ?多分。』
『ヤキモチ』
一瞬、本気で何を言っているのか分からず、ギャグの様に焼いた餅かと考えてしまい、復唱してしまう。
『そもそも行動自体違うな。
マグリットが学園に通っている時は必ずマグリットをエスコートしていたんだろ?卒業パーティー以外は。』
『そう言えばそうですわね。』
『つまりはヤキモチなのか、エスコート無しになれば恥だろうとか、よくわからん思考回路をしているんだろうな。
取り敢えずマグリットの意識を、自分に向けさせたいんだと思うんだが。』
確かに醜聞ではあるかもしれないが、それは誰に対してなのだろうか。
婚約者に見放された様に見えるマグリットなのか。
婚約者が居るにも関わらず、他の、しかも下級貴族で礼儀のなっていない男爵令嬢を連れたマクシミリアンなのか。
『それと、これは皇帝陛下からの命なんだがーーーー』




