取り敢えず手紙です
ある程度熟した依頼書を纏めたファイルを持って、町外れに転移する。
いつもの冒険者の格好に、いつもと同じローブにフードを被りギルドの方へ歩いていく。
そりゃ、用事を早く終わらせて帰る方が良いのだ。その方が自室から居なくなっているのがバレる確率は、グンと減るのだから。
それでもアレクには内容を言っていないとは言え、隠し事をしている事もバレたし一つや二つ増えても良いんじゃ無いかな、と思わないでもない。
なんとなく、早く帰りたくない日だってある。
つまり、急いでギルドに向かう気も無くて。
就寝後を装っての外出の為、夜はかなり更けている。
なんとなくいつもやる気が無さそうなギルドマスターだが、そこはやはりなかなかに地位のありそうなギルドマスターだけあり、夜が遅くなろうが、真面目に仕事をしていたりする。
手が回らない時なんかは、自身でも依頼なんかも受けているようで。
真面目過ぎて、マグリットもギルドマスターには甘くなってしまう。
その結果の、大量の依頼書持ち帰りなのだが。
ローブにフード姿とはいえ、偽装をしている訳では無い。
つまりは。
女だとわかると言う事。
「こんな遅い時間に何してんだ?ネェちゃん。」
夜も更けて酔っ払いがウロウロする中で、一人の男に声を掛けられる。
「ちょっと散歩を。」
「危ないんじゃねぇの?」
俺みたいなのが居るんだし?と顔を覗き込んでくる。
「そうですわね。
なら、帰ろうかしら?」
「いやいやいや、此処まで来て帰るのは無しだろ?」
折角会えたのに。と色気を感じさせる声音で耳元で呟く。
「茶番ですわね。」
「んー、そうだな。
でも意外と乗ってくれんだな。」
そう言って笑ったのは、真紅の髪に金の目をしたなかなかの見栄えのする男。
「まぁまぁ、んな事言わずに寄ってくんだろ?」
「その予定ではありましたが、何故こんな所に?」
マグリットが歩いていたのは、ギルドへと向かう道から少し外れた露店が並ぶ通りであった。
お腹が空いている訳では無かったが、少し活気のある場所を歩きたかった。
「ちょっと休憩がてら、な。」
小腹も空いたし、と楽し気な様子でケラケラしている。
「楽しそうですね。」
「そりゃ、お前とこうして居る事なんて珍しいだろ?」
確かに、と思う。
マグリットは基本的に忙しくしている。暇があれば依頼も熟しているし、そもそも学園に通ってる時点で暇では無い。
学園の拘束時間は長いのだ。
二人で並んで話しながら、当てどなく歩く。
「私と居て楽しいんですか?」
「え?俺と居て楽しくないの?」
まさか、逆に質問を返されるとは思ってもみなかった。
「楽しく遊んだ記憶はありませんが?」
「そりゃ俺にも無いな。」
なら何故?と視線を向ける。
「信用してる、からかな?」
職業柄、余り人を信用してないしなぁ、と呟く。
「それはそれは、光栄ですわ。」
マグリットも信用はしている。だからこその、お気に入りなのだ。
「本当かよ。
まぁ信用はされてるような気はするから、良しとするか。」
「こんな風に歩いていて良いのですか?
食料を調達に来たのでは?」
周りを見渡し、露店を眺める。
「いや、もう食べた。
今から戻る所だったんだ。」
と言いつつも、今歩いて居る方向は目的地では無いと思うのだが。
「戻らないのですか?」
「一緒に行かねぇの?」
別に目的がある訳では無いから、行っても良いのだが。
なんとなく、行くのが当然という雰囲気を出されると抵抗したくなるもので。
「一緒に行く必要性を感じませんが?」
「いや、必要だろ。」
即答であった。
何故?と問い掛ける。
「女の一人歩きは危ないだろ?」
マグリットが強いということを誰よりも知って居るのに、まさかこんなの事を言われるとは、予想外で。
思わず顔を凝視してしまう。
「いやいや、当たり前だからな?」
意外そうな雰囲気を出されたのが、不服のようで睨み付けるようにマグリットを見る。
「当たり前、ですか。
意外と紳士ですのね?」
「普通に心配するだろ。
幾ら帝都に近いとはいえ、治安が然程良い訳じゃないしな。」
若くて、見栄えも良くて、地位もあり、紳士で。
「モテそうですね。」
「は?誰が??」
「ギルドマスターが。」
キョトンとした顔でマグリットを見詰めるギルドマスター。
「モテねぇけど?」
「え?モテないんですか?」
「モテた記憶はねぇなぁ。」
そう言いつつも、さりげなくマグリットをエスコートしながら、ギルド方面へと自然に方向転換する。
こんなスマートに物事を進める人物がモテない?と疑問に思うも、わざわざ口にする程でも無いかと口を紡ぐ。
一緒に行く理由も無かったが、ギルドマスターの心配性とスマートなエスコートに免じて素直にギルドへと向かう。
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ギルドは有事の事も考えて、常に人が居る。
つまりは二人でギルドに戻った際、受付嬢にかなり驚いた顔をされた。ギルドマスターがマグリットをエスコートしているのも原因であろうか。
ギルドマスターはそんな受付嬢の反応を全く気にもせず、飲み物を持って来てくれと伝え、マグリットを伴ってギルドマスター室へと入る。
貴族社会であれば普通の事だが、ここは市井である。
幾らギルドマスターがマグリットが貴族である事に気付いていたとしても、流石にやり過ぎでは無いかと今更になって気付く。
「ギルドマスター。
これは幾ら何でも誤解されますよ?」
最後の最後まで丁寧にエスコートして、マグリットはソファーへと座らされる。
「誤解??
あーまぁ、良いんじゃねぇの?
あくまで誤解だし。」
頭をガリガリと掻きながら、ギルドマスターもマグリットの向かいに腰を下ろす。
口調は荒いが、所作であったり行動であったりが貴族でもやっていけそうな人物である。
取り敢えず、と達成した依頼書のファイルを空間魔法で取り出し、ギルドマスターへと渡す。
本当であれば、達成後早目の報告をしなければならないのだが流石にそれはキツイ時もある為、免除してもらっている。
ファイルをパラパラ捲り頷く。
「想像以上だな。
量もさる事ながら、優先順位もしっかりしている様だ。」
それはそうだ。
元々そう言う話で受けたし、人命を優先するに決まってる。
ローブは着たままでフードだけ脱ぐ。ギルドマスターの前で被っている必要はないのだ。
出された紅茶をひと口飲む。
普段飲む紅茶とは違うが、此処で出される紅茶もなかなかに上質な物を使っているのが良くわかる。依頼者である貴族に出す事もあるのであろう。
紅茶を堪能して居るのを尻目に、ギルドマスターは新しいファイルを取り出してくる。
思わずマグリットが胡乱気な目になってしまうのは、致し方ないと思う。
新しく渡された依頼書が挟まれたファイルを、パラパラ捲りながら一通り確認する。
「後、お前が来るのを待ってたんだ。」
依頼以外に理由でもあるのだろうか、と思うも特に今の所心当たりは無い。疑問を顔に乗せてギルドマスターを見ると、ギルドマスターは執務机の引き出しを開け、手紙を取り出す。
嫌な予感しか、しない。
マグリット宛ならともかく、ギルド員として手紙が来るなど。
依頼に必要なのは依頼書であって、手紙では無いのだ。
怪訝な面持ちでギルドマスターが持っている手紙を見る。
この話の流れでこの手紙が、ギルドマスター宛で無いのは間違いないと思う。
その考えは間違ってはいないようで、封の空いていない手紙をマグリットへと手渡す。
嫌だと思えど、確認はしなければいけない。
手紙の封をしている封蝋を確認する。
思わずピクリと片眉が上がる。
流石に見ない訳にはいかなくなってしまった。
風を操り封を切る。
「ペーパーナイフ要らずだな。」
こういった高威力でも無い魔法は綿密な魔力コントロールが必要で、出来る人物はかなり少ない。
「そんな風に言いますが、ギルドマスターも出来るのでは?」
「出来たとて、得意かどうかは話は別だろ?」
恐らくはギルドマスターもマグリットと同じタイプ。魔法も使えるが前衛で戦うタイプなのであろう。
体付きからいっても、確かに武器を扱いそうだ。間違いなく典型的な魔法使いでは無い。
「それはそうですが・・・」
そう言いながらも手紙の中身を確認すると、マグリット宛でも同じ物が家に送られていたのを、そう言えば見たなと思う。
思うが、さてどうするべきか。
「一応参加は自由、とは公言されては、いる。」
その言い方には、実際は、と付くのであろう事は想像に固く無い。
行かない、と言えれば楽だが流石にそうはいかない。
しかし。
悩むマグリットを尻目に「公言はされているが、Sランクは余程ではない限り参加しろとの御達しで。」皇命とまではいかないんだが、と少し困った雰囲気で頬をポリポリと指先で掻いている。
「つまりは出来れば、というか出てもらいたい、というのがギルドからのお願いだ。」
幾ら国とギルドは別組織として成り立っていようとも、わざわざ軋轢を作る必要は無いのだ。
「まぁ最悪フレデリック殿下とは知り合いのようだし、そっちでなんとかしてくれると助かる。」
他人事だな、と思うも仕方がないのも知っていて。
「・・・・・・皇帝陛下に挨拶等はあるのでしょうか?」
「いや、ギルドの高ランカーを参加させたという強みが欲しいだけだから、挨拶までしなくても良い。貴族では無いしな。」
事実皇帝陛下は新しいSランクの誕生は知っているかもしれないが、それの正体がマグリットである事は知らない訳で。知っていれば間違いなく、呼び出されていたであろう。
つまりはフレデリックで報告が止まっている、という事だ。
「・・・挨拶さえしないのであれば、なんとかしましょう。」
そう言ってマグリットが手紙の中身を目の前の机に置く。
そこにあるのは皇室から届いた、一通の夜会への招待状。
建国祭、と書かれたそれは、流石は皇室からの物である。
キラキラとした紙も上質で、香り付き。
花も付いており、一目でセンスの良い物だと感じる代物である。
はぁ、と出る溜息を止める術など、無い。




